117 ゴテゴテの後手(Ⅱ)
第三回HJ小説大賞後期、一次選考を突破しました。
兎にも角にも、私は一路東へ──もとい月乃さんの元へ。
まだ朝早い時間だから自宅にいるだろう。
そう思い、フブキの運転する車に颯爽と飛び乗って、あることに気がつく。
「そういえばなんですけど、月乃さんの家ってどこにあるんですの?」
「え、知らなかったんですか?」
知らない、知らない。
首を思わず高速で横振りする。
そもそも家イベントなんてまだしてないし、いやまず悪役令嬢に家イベントなんて元々なかったけども。
私が知ってる月乃さんのお家事情といえば──。
「私が知っているのはせいぜい、家賃五千円の格安物件で夜職の母と二人ぐらしで、壁紙剥がすと大量のお札が出てくるヤバ目の事故物件で怪奇現象多発するせいでご近所付き合いが壊滅的になって半ば村八分みたいな扱いを近隣住民からされていて、あと近所にコンビニと公園と図書館があることぐらいですわ」
「異様に詳しいじゃないですか」
「けど住所まではちょっと」
「そこまで知ってて住所だけ知らないのはある意味奇跡ですよ」
だってゲームで主人公の家の描写はあれど、住所なんて出てこないですし!?
「まぁ、そこまで言われれば何となく場所わかるので向かいます」
流石、フブキは頼りになる。
やっぱり持つべきモノは頼れる従者、時代は一家に一フブキ!
うんうんと意味もなく頷いてみてると、私を乗せた高級車が屋敷の門を抜け──。
「あ」
「ぐべらぶぁ!?」
突然の急ブレーキ。
慣性の法則に従って前方へつんのめった私の身体にシートベルトが食い込んで変な声が出ちゃう。
びっくりすると悪役令嬢じゃない部分が出ちゃうから本当にやめて欲しい。
「な、何事ぉ!」
いつも安心安全運転のフブキらしくない。
心の中で褒めたらすぐこれだ、もう一家に一フブキとか絶対に褒めないから。
──そう心の中だけで決めたのに、何故かフブキが運転席から振り返ってしらっとした目で見つめてくる。
わ、私を見透かさないでぇぇ!?
「あの、お嬢様」
「あ、はい」
「どうやらお客様です」
「あ、はい?」
そう言われて窓から前方を見る。
するとそこには──。
「ひっ」
とんでもない形相で息を切らせて私たちを待ち構える月乃さんの姿が──門の前でフブキが急ブレーキをかけた理由が、そこにいた。