105 ヤンデレ月乃(Ⅰ)
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キノがボクを守る。
その宣言からまる2日が経過して。
「──きっつ」
ボクはひとり、トイレの個室の中で頭を抱えていた。
この個室の中だけが、今のボクのオアシスだ。
何故、ここまでボクが追い詰められているかというと──。
『大丈夫、無理に思い出そうとして苦しまなくていいんだよ。私が守ってあげるからね』
あの言葉より後、キノはずっとボクと行動を共にしてる。
朝は登校時間のだいぶ前から玄関の前にスタンバってて、無論登校中はずっと肩が触れ合う距離。
そして授業中は背中にずっと視線を感じ続ける。
休み時間もすぐさまコチラに来て、甲斐甲斐しく世話を焼いてくれる。
「ご飯大丈夫? 足りなかったら私のも食べていいよ?」
「最近気圧の変化が激しいけど頭痛とか大丈夫? 鎮痛薬あるよ?」
「体育疲れたね。塩分補給の飴と、制汗剤は用意してあるよ? あ、香りはコレが好きだったよね!?」
放課後も真っ直ぐ帰るように促され、直帰を余儀なくされる。
無論、帰り道もぴったり自宅までエスコートされる。
更に怖いのは、帰りの会話で──。
「リンちゃん、ちょっとスマホ貸してくれない?」
「ん? どうしたのさ?」
「リンちゃんのGPS登録して、いつでも居場所確認できるようにしたくて」
「──うん?」
流石にドン引きしました。
え、今まで知らなかったけどもしかしてキノはヤンデレの素養がおありで???
それなら、前に言ってた好きな人ってもしかしてボクのこと?
──いや、それはないか。
この世界は乙女ゲー。
百合展開なんて、ないない。
閑話休題。
つまりこの2日間、四六時中キノと一緒の生活を送った。
家に帰っても三十分おきに何かしらのメッセージや通話が飛んできたし、とにかく居心地が悪い。
今までやってきたように、裏側で色々暗躍みたいなことをする暇が全くない。
これは由々しき事態だ。
例え今、現状を打開する作戦を思いついたとして、裏工作が出来ない。
暗躍裏工作仕込み罠卑怯な手、コレらが使えないボクほど無力なモノはない。
──自分で言っててちょっと悲しいが。
「なんとかして、なんとかする隙を作らないと」
このままだと絶対に碌なことにならない。
そう思いながらスマホを開き、協力してくれそうな人物たちに片っ端から連絡を取ろうとし始めた。