104 ニアミス混線ミステリー(Ⅴ)
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「どーしましょうかね」
「どーしちゃった方がいいんだろーね、アヤメちゃん」
右手を額に当てながら、私は廊下を歩く。
あの後源道先生に詳しい話を聞こうとしたが、彼は「プライバシーがありますので」と詳細については全く教えてくれなかった。
しかし、くれなかった割に「もし貴女が相談されたりしたら、友人として彼女の力にはなってあげてください」とも言っていた。
「月乃さんの抱えている悩みなんて──」
「どー考えても遠野花鈴記憶喪失の件しか考えられませんね」
──だよね、それしかないよ。
むしろ今の事態はソコ中心にしか回ってない説まであるよ。
「記憶喪失前の遠野花鈴には聞きたいこともあるし」
遠野花鈴転生者疑惑だってあるのだ。
ちゃんと確かめる為にも、是が非でも記憶蘇ってもらわないと。
「そもそも、記憶喪失ってどうすれば治るのかしら?」
「うーん? 強いショックとかですかね」
「つまりまた殴ればいいってことね」
「ユキちゃん様は鬼ですか?」
アヤメちゃんは「なーんで頭打って記憶飛ばした人の頭をまた殴ろうとするかなー」なんて呆れ顔でため息を吐く。
いやだって、強いショックって言ったじゃん。
「ショックって別に物理攻撃だけじゃないですよね?」
「例えば?」
「うーむ、なんかトラウマを抉るようなことをされるとか?」
「アヤメちゃんは鬼か何か?」
心の傷を身体の傷より軽いと見てるのは、アヤメちゃんが陽キャよりだからだろうか。
我々陰キャは、物理的な痛みよりトラウマ抉られる方が辛いぞ。
身体の傷は治れば痛まないけど、心の傷はふとした拍子にいつまでも痛いんだからな!
まぁ、遠野花鈴は陽キャだからそんなにトラウマないかもしれないが。
ちなみに私は、石抱(ギザギザの上に正座して、膝上に石を乗っける拷問)一時間より一時間黒歴史ポエムノート音読される方が辛い。
「まぁとにかく、今後の方向性は一択ですね」
「だよねー」
今後の方向性は、兎にも角にも遠野花鈴に記憶を取り戻してもらうこと!
そして遠野花鈴の正体を見極め、尚且つ我々三人の関係修復!!
「が、頑張るぞ!」
「そのイキっすよユキちゃん様!」
──この選択が後々更に関係性に響くことになるとは、この時の私たちは知るヨシもなかった。