103 ニアミス混線ミステリー(Ⅳ)
「いっそ、もう一回頭を強打して──」
「だめ!!」
その声にはっとして振り返る。
次の瞬間、両肩を思いっきり掴まれる。
そして勢いよく押され、廊下の壁に背中を強打される。
ボクにそんな凶行を行った犯人は──。
「キ、キノ」
いかにも追い詰められて後がないような、悲壮な表情を浮かべた主人公だった。
もしかして、さっきの独り言聞かれてたか?
だとしたらちょっと不味い。
キノはボクの怪我と現状の記憶喪失にだいぶ責任を感じているっぽかった。
だとすると今のセリフは、我ながら不謹慎にも程がある。
もはや地雷といえなくもない。
「あ、キノ!? べ、別に今のはその、他意はなくてですね!?」
「──ごめんね」
何故か謝罪をされた。
「わ、私のせいであんなことになっちゃって。そ、それで思い詰めちゃったんだよね?」
──違うが?
いや確かに現状について思い悩みはしているけど、足滑らして転んだのも、記憶喪失引っ張りすぎて身動き取りづらくなってんのも、半ばボクの自業自得だからね?
キノの非は全くないんだけど?
「いや、キノは全く悪くないけど?」
「うん、大丈夫わかってるよ」
大きな瞳に涙を溜めて、泣き笑いのような、悲壮感漂う笑顔を見せるキノ。
いや絶対わかってないやつだ。
「こんなになっても庇おうとしてくれるなんて、リンちゃんは優しいね」
ほらやっぱりわかってなかったー!
なんか悲劇のヒロイン感をばりばりに出してるんだけど!
いやまぁ、キノは主人公だからこういう展開になればそういう感じが出るのは必然と言えなくもないんだけど!
それにしたってちょっとここまで行くと罪悪感がヤバい。
は、早く記憶喪失治ったこと伝えないと。
いやでも、この空気で言えなくないか!?
キノがとびきりの美少女である点も、言いづらさに拍車をかけてる気がする。
こう、告白をギャグで済ませられない感じ。
「大丈夫、大丈夫だよリンちゃん」
そういうと、彼女は突然ボクを強く抱きしめた。
「ひゃん!」
突然の展開に、思わず女子のような悲鳴が漏れる。
いやまぁ、今はボク女子なんだけど。
それにしたって、美少女からの突然のハグは心臓に悪い。
かなりご褒美感があるけども。
正直、ちょっと幸せかも。
「大丈夫、無理に思い出そうとして苦しまなくていいんだよ。私が守ってあげるからね」
──多幸感が一瞬で吹き飛び、変な汗が背筋を伝う。
不味い、非常に不味い。
これ、本当に告白厳しくなったじゃないか。