102 ニアミス混線ミステリー(Ⅲ)
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ボクは顎に手を当てて考え事を続けながら、ツカツカと廊下を歩く。
そして先程彼が言った言葉を反芻して呟く。
「強いて言うならお前、強いて言うならお前か」
普代剣将の言葉はムカつきこそすれ、的外れな感じはしなかった。
盲点だった、とも言える。
ボクはボク自身を、正しくは遠野花鈴というキャラクターの役割を案外過小評価していたのかもしれない。
ただの友人キャラクターだから、言っても好感度確認とかに必要なだけのキャラクターだから。
だからこそ、運命に抗う為に影響力をある程度身につけなければ。
──と、思っていたのだけど。
実は案外、もう充分すぎる程の影響力を得ていたのかもしれない。
充分すぎて、害になるほど。
薬の過剰摂取で、薬効が毒に変わるように。
「──くす、り?」
ここでふと、あることに気がついた。
何故、ボクの想定より過剰な影響力をボク自身が持ってしまったのか。
その原因。
いやまぁ、ボクが頑張りすぎたというのも無論あるかもしれない。
今考えてみても、ライバー活動までは流石にやり過ぎだったかもしれない。
それは一旦置いておくとしても、見誤っていた恐れはある。
元から遠野花鈴のポテンシャルが、もしかしたらボクの想定より高いとしたら。
風邪薬だと思っていたのが、とんでもない劇薬だったとしたら。
──遠野花鈴がただの友人キャラでないとしたら?
「遠野花鈴は、本当は何者だったんだろうか?」
こうなってしまうと、本当に前世に戻ってやり直したい。
いっそあのゲーム、妹から借りてボクもプレイすれば良かったのに!
こうなってしまうとは思ってもいなかったけども!
もっとちゃんと妹からゲームの話を聞いていれば──。
「って、この後悔何回したのさ」
いけない、いけない。
感情的になって、思考が変な方向に飛びそうになり、ぶんぶんと頭を振って考えを脳みそから追い出す。
でも、あの時も結構話聞いてあげてた筈なんだよ。
それなのに全然覚えていないということは、本当に興味なくて聞き流していたんだな。
どうにかして、有益な情報を思い出せないものか。
「いっそ、もう一回頭を強打して──」
「だめ!!」
その声にはっとして振り返る。
次の瞬間、両肩を思いっきり掴まれる。
そして勢いよく押され、廊下の壁に背中を強打される。
ボクにそんな凶行を行った犯人は──。
「キ、キノ」
いかにも追い詰められて後がないような、悲壮な表情を浮かべた主人公だった。
来週はお休み。