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“別れ”

 “私”は彼とは相慣れないらしいと自覚したのは、大分後だった。××××




 ×   ×   ×



 「ごめん、隼人君………」そう告げた。彼はわかったと、ただ答えた。



 ×   ×   ×




 「お〜隼人はや〜二週間振り〜生きてたのw」と、俺の顔を見た“太一君”が、言ったのだった。××××




 「家出してたんだって? w 君ね〜w 高校生にも成ってww」


 と、追加で太一君は言って来た。俺は“兄”を訪れたのだが。兄貴は呆れた様な、哀しそうな目で俺を見てた。心配掛けたのだろうと、後悔した。だが。格好も悪くて早々に兄貴の処には、駆け込めなかったのだ。俺にしてみれば。



 「隼人君さ〜、学校ガッコは行ってんの? あ、何か食う? 俺も今帰って来たとこ」と、


 言った男は、制服姿で。太一君と同じ制服を来た此の男は、名を“たき”「れん」ーーと、言うのだが、今呼んだのは、俺では無い。兄貴だ。


 兄の名は、佐木 大和やまと。何気に自慢の兄貴だ。物静かで、争い事に無縁そうだが、そうでも無く、思いの外武芸者だ。合気道等は俺より芸達者だ。気付くと天井を見ている時が、多々ある。手合わせで、だ。別に口惜しくは、無い。兄に負けても腹立たしく無いのだ。寧ろ、誇らしい。流石だと思い、自然と一目置いていた。そう、殆ど無意識だった。ーー紘姉と結婚したと知らされた今でも、いや、知らされても、不思議な気分で納得出来たものだ。



 “紘姉みたいなひとには、兄貴が似合っているのかもしれない”ーーと。そう思った。思えたのだ。



 けど、



 “和希”の件とは、別なのだ。彼奴が知っていて、惚けていた事が、腹立たしいのだ。



 「隼人、眉間に皺寄ってんぞ。何だ? 腹空いてんのかよ………。金、無かったのか? ほら、とりあえず食べろ。 蓮〜太一〜手洗い連れてってやれよ〜ほら、隼人」



 俺は暗い顔でもしてたのか、理一君にそう言われ、はっとしたのだった。この山田 理一は俺の幼馴染みでもある、兄貴分だ。兄、大和と同い年なのだ。高校も二人は一緒だった。と、いうより太一君と、滝君も同じだったのだ。兄貴と理一君が卒業したので、バンド活動(デビューに向けて)の打ち合わせ等の為に、此処に引っ越したのだと俺は思っていたのに………いや、やめよう。



 「………“紘姉”は?」俺は兄貴にそう聞いた。返って来た答えは、紘姉は実家に帰っているそうだ。



 「…………、なんで?」



 思わずそう聞くと、兄が言いづらそうに、そして躊躇ったのだ。それから言った。「………報告に」と。





 「…………、? なんの?」







 “察しろ”と言った理一君に、洗面所へと追いやられた。ついでに風呂を浴びて来いと。××××××××






 そして其の頃、華月家にいた、瀬野尾 紘は、華月 海に祝福されていたのだった。隼人は全く、知らない事案だった。××××




 ××××××××××××××××××××××××××××




 “きっかけ”といえば、いわば“目撃”だった。



 隼人君が居候を始めて、約一ヶ月。“彼”は淡々と、役割りをこなすだけだった。手にした“荷物(料理)”を、届けるだけ。毎日だ。私が仕事の日は、デリ風に。………私が休みの日は、………作り置き風だった。まるで私が料理上手のようだった。



 それを隼人君に食べさせる。それが“彼”とかわした約束いや、“契約”だった。そう、私は“金銭”を受け取ったのだ。“彼”から。そういう“契約”だからだ。××××





 ×   ×


 「ーー“隼人ハヤテ”には内緒で、お願いしたいんですよ。ーー受けて頂けますか?」



 「ーーはやて?」



 彼の言葉の中の違和感に、私はオウムのように返した。反射のように。彼が細い目をふっと動かし、すぐに答えたのだ。「ーーああ」と。



 “隼人はやと”君のことだと。



 「“仇名”的な奴ですよ。申し訳有りません。混乱させましたね。気を付ける様にしますね」と、彼は答えたのだ。それで私は思った。彼と隼人君の、関係性をだ。友人にも思えなかった。だから聞いた。それで彼はまた答えた。


 私の問い掛けに、だ。義務的な笑顔を、作り出して。




 「“同級生”が、当て嵌まりますね。謂わば“知り合い”ではあるーー“他人”です」と、彼は言ったのだ。義務的笑顔のままだった。××××××




 「……おかしいじゃない」



 「え?」




 「それが本当なら。ただの“知り合い”が、どうしてこんなことするの? 変よ…」


 私は思わずそう言ったのだ。けれど彼は不思議そうにしただけだった。そして言ったのだ。“あなたと同じですよ”と。








 「え?」



 「貴女と同じですよ。隼人と貴女は“他人”です」と彼は正論を述べたのだ。私はなにも返せなかった。××××







 ×××ד知り合ったばかりの隼人を居候させている貴女の方が余程滑稽では?”と彼が言った様に“彼女”は思えたのだ。××××××







 隼人君に、預かった食事を出すたびに、“彼”のことを聞きたい衝動に駆られたが、出来なかった。理由は自分でも良く分からなかった。けれど、気付かされた。なんでも無い日だった。そう、ーーならなければ。










 何処かで今日も“彼”が料理を手に、待っているだろうと思いながら歩いていた、帰宅中だった。仕事帰りだ。まだ人気ひとけのある道だったので、油断していたのだ。考え事をしていたからと、言い訳したいが、もっと気をつければ良かったのだと、あとから思った。言っても後の祭りとはよく言う。その通りだと思った。××××




 知らない男が絡んで来たのだ。面倒だと思い、適当にかわすつもりだった。けれど。ーーしつこかった。




 「ね〜おね〜さ〜ん、ごはんいこ〜よ〜おごる・って☆ ね? ね〜?」と。良く見ると学生だった。制服姿だと気づいたのだ。そして、



 その制服に、見覚えがあることに、ようやく私は気づいたのだ。





 溜め息をつきたい、そんな頃合いだった。




 「何やってんですかね、“武紫麻タケシマ先輩(丶丶)は。通報(丶丶)致しましょうか?」と。




 「!? どこに?! つか、“カズキ”っち?! なんでこのタイミングでっ、っ!」と。現れたのは“彼”だったのだ。



 「ーーどのタイミングで、ーーとか俺の時間は俺の自由(丶丶)ですけれどね。武紫麻先輩阿呆ですね。あ、すみません、知ってました。取り消します。ーー」と。彼は謝罪(丶丶)していたのだった。相手は“ヒドイッ”と返していた。××××







 「其の“女性ヒト”は駄目(丶丶)ですよ」“彼”が言った言葉に。



 「ーーなんだーー和希たん(丶丶)の、お手つき(・・・・)ですか、そうですかーーはやく、言ってっ!」と。





 「〜琉大〜って、あれ? 橋本クン? ん? 琉大、何した。はやく謝れ。俺を巻き込むな阿呆の琉大君。


 橋本クン、俺“無関係”ね? 琉大は…………阿呆だから許さなくて大丈夫…いいよな?」




 “なにがっ?!”とナンパ男は叫んでいた。××××





 「……“お疲れ様”、神鳥さん。仕事中?」と、“彼”は後から来た男に話し掛けていた。××××





 私には聴こえない会話がなされた後に、“彼”はこちらへ来た。薄い貼り付いたような、あの笑顔で。息が詰まった。嫌な汗が、ながれそうだった。理由もわからずに。××××






 「“知り合い”が、申し訳ないです。で、これ、今日もお願いしますね」と私に言ったのだ。



 「…………、断られると、…………、思わないの?」思わず嫌味な言葉を、私は吐き出した後だった。もう後の祭りだと思ったのは、本当に後からだった。××××××××××










 「思いますね」




 「………………、はい?」



 私達は、そう会話した。




 「思いますよ」ーー彼はもう一度、そう言ったのだ。誇らしそうな顔に見えたのだが、気のせいだ。すぐにいつもの貼り付いた笑顔だと気が付いた。油汗引かぬまま、彼のその顔を見ながら、私は“荷物”を受け取るのだ。“謝礼”と共に。“代金です”と、彼の言葉を受けながら。




 ××××××



 それから少し経った頃だった。“彼”を見つけた。“街中”だった。“休日”だった。隼人君は四六時中居る訳では無く、休日はどこかへ、行ってしまうのだ。“飯もいいよ”と。そんな日は帰ると“食費”と言って、渡して来るのだ。“バイトして来た”と、そう言ってだ。“いいよ”と言ったが、“気持ちだから”と。隼人君は意外と律儀だった。私はそれを、一応受け取っておくことにしたのだ。



 その日もそうだった。だから私はその日ひとりだった。“買い物”へ出た。その時だった。“見た”のだ。“彼”だった。××××××××










 およそ“高校生”とは思えない服装で。表情で。“私の知る顔”では無い“彼”が、そこに“在た”のだ。“橋本 和希”と“知り合い(丶丶丶丶)”に呼ばれていた(丶丶丶丶丶丶)、“()だった(丶丶丶)。それで私は気づいたのだ。私はいつの間にやら、“彼”に心惹かれていたと。“ショック”だった。見つけた“(和希)”は、女連れだった。仲良さげな。“恋人”にしか、見えなかったのだ。××××××××××





 ××××××××××××××××××××××××××××





 「“好きな男が出来た”って言われて、……………追い出された…………ごめん兄貴、暫く置いて………」



 そう素直に伝えたら…………皆して微妙な表情を差し向けて来たのだった。“未だ帰る気がしない………”と、気不味さ隠しに追加しておいた。痛い視線を、伏す為に。役立たずだった。

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