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“出会い”

 「ーーねえ坊や、どうしたの? それ制服だよね……指導員に、つかまっちゃうよ?」


 と、俺に向かって女が言って来た。仕事帰りなのか、スーツ姿。薄いベージュ色の、あまりその女にそぐわない色合い。もっと派手でも良いと思ったが、諸事情があるのだろう。きっと社会とはそんなモノなのだ。俺が思うには。



 飲み屋街で彷徨くのは、流石に躊躇った。恐らく直ぐ見付かるだろうからと、飲みたい気分でも無かったからだ。


 俺が行きそうも無い場所…と思う内に、次第に居た先はどうやらビジネス街だったらしい。何時の間にか時間も過ぎて、会社員達の帰宅時間帯だった様だ。それで流れる人を見てたら、こうだった訳だ。俺は答えた。俺に問い掛けて来たらしい其の女へ。



 「何で俺に声掛けてみようと思ったんだ、あんた」と。女の目が点に為った。××××






 「………え」



 戸惑ったらしい。何人かの男達が通りすがりに気に留め振り向く位には、女は魅力的だった。容姿は悪く無い。勿論スタイルも。長く伸ばした髪は、ふわふわだ。前髪を作るタイプでは無く、分けて横に流していた。略中央から上手く分かれている。日も落ちて空は闇色、当然出来た影は上手い具合に彼女の顔に陰りを入れて、神秘的にも見せた。



 答えに困惑をみせていたので、無言で踵を返そうと動いた時だった。“お約束”が、来た。“警邏”だ。うざったい。ビジネススーツに紛れた制服を見分けるなと内心で悪態づいた俺だった。




 そして“彼女”に、庇われたのだ。“弟ですっ”と。秒でばれた。当然だ。彼女のID提出を要求され、当然だが彼女に“弟”は、存在いなかったからだ。それで気まずそうに彼女は訂正した。「………、恋人なんです……」と。





 ×   ×   ×



 「………見ての通り………やや“若い”ので…………気恥ずかしくて」と。警邏の連中の方が、気不味い恥ずかしい様な顔をしてみせたのだった。“彼女”の演技のせいだ。俺の腕を取り、照れながら言ったからだ。××××








 ×   ×   ×




 「……………お家帰らなくて…………いーの?」



 その時の“彼女”が、言って来た。ここは彼女の部屋だ。「帰れって言われなかった」俺はそう答えた。××××





 ××××××××××××××××××





 それは仕事帰りだった。我が家、というか、私が今住んでいる部屋のことなのだが、“居候”がいる。そのために自然と足が急いでいた。“ごはん作らなくちゃな〜”と。そんな時だった。×  ×  ×




 「すみません、いいですか」


 「ひゃっ?!」



 急に声をかけられ、無性に驚いた。理由はよく考えると、良く分からない。何故だったのか。



 何?と思うと、男がひとり、ほほえみながら、立っていた。“ほほえみ”だと思ったのは、何故か。それも後から考えると良く分からなかった。目の細い男がさらに細めた目で、私の警戒を解いた。“隼人が御世話に為ってます”と、言ったからだ。“隼人”。それは“居候”の名前だったからだ。彼の関係者だと、安堵したのだ。




 「驚かせてしまいましたね。申し訳ありませんでした」



 そう言われた。あのこの知り合いにしては、かしこまり過ぎだ。再び警戒モードになると、相手はこう言った。



 「迷惑な様でしたら、追い出すのに協力させて下さい」と。ーー意味がわからない。





 「俺は何方かと云うと隼人の味方ではないんです」と、彼は言ったのだ。どういうことだろう?




 「“隼人”には“お兄さん”が、いるんです」と、また言った。“え?”と言った私に彼は答えたのだ。





 「強いて言えば“お兄さん”の味方なんですよ、俺」と。××××××





 「…………はあ?」



 「“兄弟”が居ない奴が抱く(感情と云う奴)です。羨ましいんでしょうね、隼人の事を。」



 「………、はぁ」



 意味が分からない。ーーだから?と、思う。行動の理由にもならない。説明にも満たない。彼は何を言いたいのだろうか?



 にこりとした彼に問う間もなく、彼は荷物を差し出して来たのだった。……………、何?



 彼はまた言う。「隼人にです」と。



 「…………差し入れ(毒入りかしら)?」と私が聞いた。“彼”はまた笑顔だった。そして答えたのだ。






 「残念ながら、俺からでは無い愛情の一端(丶丶丶丶丶)です。渡して頂く事は可能でしょうか」と。彼が何か言う度に、私の中で何か肝のような何かが、冷えていった。ーーそう感じた。熱が冷めて現実が呼び止めて来るような、失恋のよう(丶丶丶丶丶)だった。××××××××手渡された“料理(差し入れ)”の温かさ(丶丶丶)とは、真逆の“何か(丶丶)”だった。











 「ん? 今日もデリバリ(買って来てくれたの)?」“隼人”が聞いた。あれから毎日。仕事帰りに何処からともなく、“あのこ”は現れた。気づくと視界の中に、いつのまにやら、いるのだ。そしてほほ笑んでいる。



 ゆったりとこちらに歩みより、そっと“それ(料理)”を、ーー手渡して来るのだ。薄気味悪い感覚に捕らわれる。そして帰宅して隼人君の顔をみると、ほっとする私が居るのだった。××××









 ××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××





 「おっ“和希”君、いらっしゃい。今日も“おつかれさま”だな。“材料(丶丶)”そこな、君も難儀(丶丶)だね」ーーと、そう言った男は“和希”が入った(訪れた)店の“店主マスター”だ。



 “陽藍”に、雇われた。××××××××××××









 ×   ×   ×




 「旨いな………」“隼人”が言った。“私”の良心は……ちくりと痛んだのだ。“どこの店?”と聞かれてぎくりとした。“今度教える”と誤魔化したのだ。“彼”から受け取ったとは「“内緒(内密)”にして下さい(願いますーー)」と、いわゆる“くちどめ”だった。





 それが“出会い”だった。

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