《五日ーー目。敦之は、絡まれ“る”》
いつも通り登校した美津原 敦之は。教室へ辿り着く前に、阻害された。
“三年”男子生徒“達”が教室の出入り口に仁王立ちして在たのだ。××××××勿論敦之は邪魔だと思った。そして、勿論そう言った。
「退け。」ーーと。言葉足らずに。敦之はそういう男だった。無駄が嫌いの。つまり彼には此の男達との会話等は無駄でしか無いと。そういう事だ。一瞬。言われて“ぽかん”……とした、三年生達だが。漸く要点を得たらしく。次第に激昂した。声も高々に叫び、騒ぎ出した。敦之は無表情だった。其処に、声が掛かった。
「敦、君? 朝から“何”よ? あ、おはよ、敦。」と。勿論こんな惚けた奴は。敦之の知り合いで心当たりは一人だけだった。振り返らずとも、解った。“和希”だと。“最悪のタイミングだ”と、敦之は思ったのだ。けれどもう既に如何しようも無かった。
「………………。何でも無え、よ。ああ、おはよう。」ーーそう言った。余りにも、滑稽な、此の遣り取りに。流石に三年生達の激昂も、更に昂りを見せたのは語る迄も無かった。朝からとても小五月蝿い連中だった。つまり、
「五月蝿いな。知らねえよ。邪魔だ。退け。教室入れねえんだよ、おにいさん方。因縁付け無えで下さいよ。相手間違ってんじゃ、ないの。“記憶力”は、確か? 第一。三年? そんな連中“相手”にしても、俺に“利益”が、無いじゃ無いですか? ねえ? ーー“先輩”、方? 誰と間違ってんすか?」
敦之は呆気取られる三年の隙間から、教室へ入ろうとしたのだった。周囲呆然だった。其処へ。和希は“こっそり”と、耳打ちした。“止めましょうよ”と。それで敦之は止まったのだ。漸く和希へ、振り返った。
「………………は? なんだおまえ」
「あ、橋本と、云います。お早う御座ます、先輩、方。其処の美津原君とは、中学の同級生です。なので申し上げますね。彼は止めましょうよ。先輩方、“卒業したい”ーーですよね?」と。
和希は言った。表情変えずに。言われた三年は増々理解らなかった。“なにが?”と、応えただけだった。
「ですから。“美津原”は“質が悪い”ですので、絡まれ無い事を推奨致して織ります。無事に卒業したいですよね? 先輩“方”、“イケメン”じゃあ、無いですかーー“女”位幾らでも“次の御相手”が、寄って来るでしょう? “過去”は変えられない訳ですから。理由は兎も角、美津原なんかにかまけていないで。“浮気”だの“余所見”だのする“女”なんて忘れて、もっと“上等”な“女”と、
“付き合いましょう”ーーよ。
“時間”は有限ですよ? 美津原みたいな“愚か者”に、諭してやる“時間”なんて“無駄”じゃあ無いですか、先輩、方? 言って理解る“馬鹿”ならば、“問題”なんて『起こさない』んですよ?
ああーーそっか。“先輩方”って、“優しい”んですね?
でも。
“美津原”は、先輩方の優しさ“理解出来る奴”では在りませんので。“諦めて”、下さい。説教するだけ、無駄なんです。ほら、先輩方?
“授業”出ないんですか? もう戻った方が、良いですよ?」ーーーーと。
“和希”は言って、彼等に会釈し、横を難無くすり抜けた。“敦之”を連れて。バツも悪い三年連中が漸く引き揚げて。気配遠退き、和希が漸く“にやり”と笑ったのだった。其れは敦之にしか、見えなかった。××××
そして。
その後“和希”とは。クラスにて。“敦之の下僕”と、認定されたので在った。“和希”は否定しなかった。いや、聞かれなかったので何一つ返す事が無かったのだ。××××後日。
此の後も。
敦之の態度のでかさに苛立ち、堪え難き二年、三年が。やはり途絶えず。別の上級生に敦之は頻繁に絡まれた。敦之が相手にもしないので、余計にだった。
流石にうざく為った美津原 敦之は、“見目”を変えた。髪を染めたのだった。元からが、色素も薄い敦之が等々“金髪”にしたので。和希は勿論“呆れた”のだが。ーー“彼女のリクエストか何かか?”と。
「気分転換だよっ」と、敦之は言った。和希に手助けされたのが、余程勘に障ったのだろうーー“あんま俺に絡むな”と、敦之は言ったので在った。「人前ではな」と、付け加えて。
「だってあれは俺も“通れなかった”んだもん。“迷惑”だよな。」と。和希とて煩わしく、腹立たしかったのだ。“朝一とか、なあ…………”と。
「馬鹿だからだろ。」と、敦之は返したのだった。和希と敦之は寛いで在た。此の場所は。
「良いマンションだなーー」と、和希が言う様に。入学“祝い”にと陽藍から渡された“部屋”為らぬ“物件”だった。
「“友”は?」
和希に問われて従兄弟の所在を敦之は答えた。「知らん。」と。和希に冷たいと返された。××××
× × ×
少し考えてから、和希は敦之に聞いてみた。「……………、隼人、は?」と。敦之は応えた。「は?」と。
× × ×
「“呼んで”、無い。彼奴は馬鹿だから。避難所にされたらたまんねぇよ。“青”は来たと云うより、案内して来たのが、青の奴だ。友は場所知ってても来る様な奴じゃ、無えよ。」
“理解ってるだろ”と云わんばかりだった。××××不意に。“和希”は、寝転んだ。「? どうした?」
敦之に聞かれて、答えた。「ーー“疲れ”た。」と。敦之も理解ら無いでも、無かった。つまり理解出来た。
「“友”だけで、おまえ手一杯だろ。隼人は放っとけよ。手に余るだろ。」と。
和希は計算外だったと答えた。「ん?」と敦之は返した。
「隼人。クラス別れるとか、予想“外”だよ。“失敗”、した。“俺”が甘かったーー」と。“失態”だと、呟いた。××××××
横に来て座り込んだ敦之は、彼に言った。「仕方無えだろ」と。“あんまり気に病むな”と言った敦之は、立ち上がって、又言った。「飯にするか」と。
「俺、作る?」ーーと、和希は寝転んだまま、問い掛けた。××××××
後日和希は、“大和”に呼び出された。「ごめんっ和希君っ」と。
何がか?と返した和希に、大和は答えた。“隼人”の事だと。和希はもう一度、同じ返しをした。大和の謝罪の意味が意図測れずに。“どうしたんです?”と。大和は遠慮がちに話し始めた。つまり“敦之”が、話したのだ。“大和”に。和希の“苦労”を。××××××敦之も又、知らなかった。和希が隼人を気に掛けるのは。此の兄“大和”からの“依頼”だからだとは。大和は和希へ頼んだのだ。弟“隼人”は、血の気が些かか、多い。同い年の、面倒見良い敦之が今迄は常にと云って良い程に横に“在”たからこそ。隼人は大した問題も起こさずに“此処”迄“来れた”ーーが。中学へ入り今迄とは些か勝手も違って来た頃から、兄大和は更に隼人の事が、心配だった。
隼人は、強い。
陰で努力する事厭わない性格の弟は、既にその辺りの成人男性よりも、遥かに強い。ーーそれは敦之もなのだが。何方かと云えば敦之とは。隼人とは違い、“好戦的”では無いのだ。
隼人とは“挑む”ーータイプで。逆に“敦之”は“傍観者”タイプだった。似ている様で。“違う”二人で在ったのだ。さておきで、
兄の懸念はそんな事では無い。敦之が冷静沈着だとか。策士タイプだとか。大人びているとか。そんな“事”では無いのだ。年々。そんな“敦之”との“距離感”に勘付き始めて在る“弟”の、心配だった。隼人は“溜め込む”タイプなのだ。××××××××しかも、鈍い。己の『劣等感』に、気付いていなかったのだ。
敦之への“もやもや”が、それだと気付いた時が、大和は怖かったのだ。誤って感情が暴走等して。
“敦之を攻撃等、ーーーー”『したら』ーーーーーーと。繊細なハートの持ち主の弟は。親友に怪我等させたとしたら、恐らくは其の心は耐え切れぬだろうーーと。
大和は目の前の和希をみた。そして謝った。其の謝罪の“真意”は、罪悪感だった。つまり。
佐木 大和は“和希”を、利用していた。自分の“都合”で。他の者には言えなかった。“和希の心は『如何でも良いのか』”と、問われそうで。和希とて弟と同い年の筈なのに。それは理解って在るのに。辛い役割をそれでも大和は依頼したのだ。和希の自由を奪って在ると、理解っていても。
和希は答えた。
「大丈夫ですよ、大和君。それよりも。隼人に勘付かれたく無いので、こういう連絡控えて貰えますか?
隼人にしてみれば俺みたいのと自分の尊敬する“兄”が、こっそり人目凌んで会うとか。“無い”ですからーー」
和希は他の意図は持たずにそう言ったので在った。大和は歳下の筈の“彼”が。ーー恐くなった。図り知れなくて。自分の予想よりも彼はずっと、広い意味で“視ている”のでは無いのか?と、思ったのだ。もっともっと、“先”迄も。そしてそれは当たって在たのだ。
此の日、大和は“わかった”と和希に応えたのだった。和希にしてみれば。“隼人”は然程“問題”は起こしていないのにーーと、思ったのだ。今の“彼”の悩みーーは、“敦之”の“方”ーーだった。
敦之はもてる。仕方無いと、和希は思う。敦之は“陽藍”に、良く似て在た。容姿もだが、“気質が”だ。和希から見てもだ。それは“友”達も、そう思っているだろうと和希は考えていた。正解だった。つまり。
“敦之”は『トラブル体質』だった。“辛く”も。立っているだけでも目立つ、和希とは正反対の敦之は、初日から此処迄。友の代打の如く、もて捲って“在”たのだ。其れこそ“老若男女”問わずと云いたい程に。敦之当人も“不祥事”を避けるべくして、努めては在たが。殆ど“無駄”だった。
何しろ“隼人”が“持って来る”のだから。正しく“無駄な努力”とは「此の事」ーーだったのだ。
大概。校内にては。“昼休み”ーーに、又は放課後等。隼人は“好みの美女”に、謂わば見境がーー無い。“教職”だろうが、“先輩”ーーだろうが。“昔から”ーーだ。其れが小学生なら、冗談で済んだ。中学の折には“早熟”で、済んだ。だが。
もう彼等は高校生なのだ。
“音楽”ーー教師も。“美術”ーー教諭も。そして“保健室員”ーーも。何処から如何“み”ても隼人の“好み”ーーだった。だから。“彼等”が、何を“した”ーーかは。
つまり。
問題起きる“前”に、潰したのだ。“別の不祥事”で。“友”の“フォロー”は、和希の仕事だった。今、
教諭達が大人しい“理由”を、敦之は知って在た。つまり、
和希に、“絆され”た“彼女達”だったのだ。既に橋本 和希の“手の内”だった。“和希”とは“そういう男”だった。貧乏くじを“そう”とは思わない“男”だった。“敦之”は知って在た。そして気付いても“知らぬ”振りの出来る“男”ーーだった。“敦之は”ーーだ。つまり、
“隼人”は“違う”のだ。
好みの女性達が、既に“論外”だと知れた隼人は、其れから“如何”したか?
“他”を“当たった”のだ。つまり、
“先輩方”に。ーータイプの先輩を目にしては、口説きに向かう“隼人”を。制御し切れない“敦之”は、
制御は早々に。諦めた。手段を変えた訳だ。“友と和希流”にだ。つまり、
隼人の“好み”等知り尽くして在るのだ。××××
だから和希は思った。「…………“やり過ぎ”…………」だと。“お人好しだ”と。敦之に云わせれば“それは御前だろう”と。
敦之も友も、和希も大和も。別に隼人の恋路を邪魔したい“訳”では無い。単に隼人の“女の趣味”が、悪い“話”だった。ーー良く無い事に“隼人”は。“小遣い”に不自由した事が、無い。悪い女とはつまり貢がせるだけ、貢がせて。勿論隼人の事等、好きでも何でも無いのだ。
「そんな“悪女”共に。大事な親友“喰わせる”のも、な。ーーーー」と、敦之は独りごちた。つまり彼は又、目の前の“問題”を、片付け“中”だった“訳”だ。
そして。そんな“彼女”達の“他の鴨”に。今日とて絡まれて“在る”のだった。“つまらなく”も。其れが敦之には“日常”だった“だけ”だ。だからこそ和希には心配だったのだ。敦之は見た目程“雑”では無いのだ。其れが“和希”知る“敦之”だった。“好みじゃ無い女口説いて。それだけで精神的に疲労してる癖に。”と。
「おまけに苦手な、先輩方の“御相手”とか、なーー」と、和希は独りごちて在た。等々。“敦之”は“懐柔する方”を、選択した“様”だーーと。つまり、
「………………。敦、君………………。今“幾ら”、遣ったの?」と、流石に和希は聞いたのだった。敦之はしれっと、こう答えた。
「“小銭”。」と。
「………………。隼人に“ばれんな”よ……………元も子もない無くなるから。………………」と和希は言った。
「つか、おまえ。途中で出て来るかと思ったけど、何してたんだ?」と、敦之は返した。絡まれた敦之は先輩“方”に。
“現金”を渡して“追い払った”のだ。和希は呼び出されたのを無視し続けた敦之が“待ち伏せ”されているのを、感知して。“来た”のだが、
敦之が“ひと芝居”宜しく“殺気”塗れで“先輩方”を“威嚇”しながら、
「“金”払いますから、“絡まないで”下さいよーー」と。「…………、脅し? 威し?」
思わず「可笑し過ぎて出て来れんかった、わ〜」と、和希は戯言を放ったのだ。無論敦之に、咎められたが。
「人聞き、悪いな。“小遣い”だよ。“単に”、な。」と。
敦之にしてみれば先の先輩方より余程和希の方が手強かったのだ。心身共にだ。