《登校3日目、謹慎2日目》
「あ、隼兄ちゃんだ。おはよー」
「おっ、隼人。今日は起きれたな。」と。
佐木 隼人は朝から。家を出た所で隣宅の親子に遭遇したのだった。和希を責め立てた日の、翌日だった。
× ×
「…………出掛けんの?」
「ああ、仕事だからな。行くぞ、海。おいで。」と。陽藍は息子、海を抱え上げた。海は素直に抱っこされた。なので隼人は聞いたのだった。「車は?」と。此処からは見えないが、陽藍は自家用車を所持しているからだ。仕事に行くのであれば、其れを使う筈だからだ。だから隼人は疑問だった。“ん?”と言った陽藍は、“ああ”と答えた。“偶には歩こうと思ってな”ーーと。勿論“嘘”なのだが。隼人に伝える必要は無かった。車では都合が悪いのだとは。
“じゃあな”と言った陽藍は、行ってしまった。“友の後始末だよ”と。
“海”を連れて行ったのは「“埋め合わせ”」ーーだと。××××××××後日。
“友”の代役を立派に務めた“海”は。陽藍からたっぷりの“褒美”を貰っていた。“隼人”は只々呆れたのだった。ーーーー“甘やかし過ぎだよ”と。××××××××正直に云うが未だ三歳児為る“海”は。隼人に云わせれば“生意気”だった。隣の家の息子達の誰よりも、ずっと。××××××××××。子供の頃から隣宅に入り浸り、息子達とも仲の良い隼人だったが、正直海の事は。ーー苦手だった。強いて云うならば嫌いなのだ。“可愛気が無い”ーーと。
隣宅の長男、卓、次男、龍。それから三男の、陸。友もそうだが、その弟の“青”等に甘やかされ捲り、我儘放題の海が。隼人にしてみれば“鼻に付く”のだった。海の頭が良過ぎるのもそんな理由に拍車を掛けて、在た。それから。
「…………泣き虫なのに“女にもてる”んだよなあ…………」“彼奴は”と。隼人は呟いた。
横で其れが聴こえたクラスメイトに聞き返された隼人だったが。適当に返して置いたのだ。“誰の話?”と問われて“三歳児の話”とは、返し難かった。××××××××
海とは我儘だが、海の兄の“巧”や、その“上”の“律”、それから“洸”や“悠太”といった隣宅の息子達は。海程の我儘でも無ければ、寧ろ“優等生”だった。
六男と七男は双子なのだが、此の二人が隼人の弟“直夏”とは同い年の同学年だった。二人共に素直過ぎる良い子で、絵に描いた様で在ったのだ。隼人も此の双子の事は可愛い。何より此の双子は見た目も素晴らしく“美少女”なのだ。故に。私服等で放任等すると、危険極まり無い。直ぐに“ナンパ”されてしまうのだった。勿論だが同性に、だ。無論だが故に相手にはされ無いのだが。××××××××
六男悠太も、七男洸も。何処とは無しに。何処とも誇張等、し難くも。大人びた存在感の持主で。
隼人にしてみれば。実の弟、直夏等よりも余程可愛がりたい存在だった。此の双子の事ならば。隣宅の“兄達”の気持ちも。“理解ら無く”はーー無いのだが。
隼人のそんな態度のせいなのか、如何か。弟直夏の“親友”は。此の双子では無く、此の二人のすぐ下の弟の“律”だった。律も又素直な“優等生”だった。隼人も苦手では無い。処か此の律は親近感さえ、在る。律とは外面とは裏腹のコンプレックスの持主だった。理解ら無くはーー無い。あの家の兄達が優秀過ぎるせいだった。××××其れ処か律にしてみれば。すぐ下の弟“巧”の存在も大いに有るのだろう。巧も又“優秀”だった。そして此の巧が揺ぎ無い程に、“クール”なのだ。およそ小学生らしくは、無かった。××××××巧の無表情クール振りには。隼人の弟、何方かと云えばクール。悪しく云うならば“無愛想”直夏ですら。“たじろいで”在た。
つまり。
言い忘れた事では有るが、隣宅には“十人”の息子が“在る”のだ。大概此れを聴いた初見の人間は驚くのだが。さておきで。兎に角隼人が今考えて在るのは、隣宅の問題児、“海”の方では無く、“友”の方で。強いて云うならば“友”の“親友”の、或の男の事だった。佐木 隼人とは、“別クラス”の。××××
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私立『羽澄』は、クラス分けを成績順に、頼って在た。入試にて“トップ”から順に。一クラス規定人数迄で、区切るのだ。但し。1組がトップクラスでは、無い。其の逆でも無かった。入学当初はつまり一年時は。“シャッフル”された。トップクラスの“組番”が、毎年変わるのだ。故に入学して来た者達には。当初入学成績順位が、判らない。ーーそんな“システム”だった。
二年進級時には、此の法則が、変わる。二、三年クラス決め、分けは一年時の成績順だった。此れは此の高校が進学校をうたって在る為だ。一年時にあからさまに入試結果を判別させ無い考慮は。“遣る気”の向上の為だ。
さておき。
細かい話は、置くとしよう。隼人が言いたいのは。其の入試“トップ”が。“友”だったと云う事だ。そして。
“恐らく”だが“次点”が。
“敦之”では無く“和希”ーーなのだ。ーーーーーーーーー
そして。
不貞腐れて入試に臨んだ隼人は。“トップクラス”にすら、入らなかったのだ。××××××何故不貞腐れて在たのか?
“和希”と“友”ならば、“羽澄”より難関でも受かる筈なのに。彼等は、いいや。“彼”は敢えて。羽澄を選んだと“知った”のだ。思えば簡単な推理だった。早く気付けば良かったのだ。隼人の兄“大和”は。高校を卒業したら家を出る事は公言して在た。隼人も理由等は“うっすら”とは聞いて在た。特に理由も無いと、反対等もしなかったし、疑問すら持たなかった。“デビュー”に向けた準備なのだろうと、そう思っただけだった。けれど。
実際此の春に高校を卒業した兄から聞かされたのは。“結婚”だった。ーーつまり兄は結婚したのだ。その“相手”とは此の隼人とも幼馴染の、“瀬野尾 紘”だった。瀬野尾 紘とはつまり“陽藍”の、姪だ。故に兄大和は陽藍の“義理甥”と成ったのだ。隼人は出来てしまった“距離間”に、心が勝手に痛んだ。そしてそれよりも。
“知らな”かったのだ。“兄”と“幼馴染”の、結婚なのに。付き合っていた事すら。何も知らなかったのだ。ーーーーそれが哀しかった。なのに“海”が“言った”のだ。「え? 隼人兄ちゃん“鈍い”ーー」と。
当然隼人は此の憎たらしき言葉にぶち切れた。大人気等皆無に。そしてそれで“海”を泣かせた。かなり“派手”だった。それは入学前の“春休み”の出来事なのだが。此の際“ぶち切れた”隼人には、他の“要因”が、存在したのだ。謂わば海は八つ当たりされたのだ。故に海の方も。“派手に泣いてみせた”のーーだが。さておき、隼人の“理由”とは。
“兄”と“和希”だ。
“聴いて在た”ーーのだ。彼等にしては珍しい“失態”だろうーー兄は和希へと“話して在た”のだ。『弟を宜しく』と。聴いた当初隼人は“直夏”の事だと思った。何故なら直夏は和希から空手の手解きを受けて在る。
その話かと、隼人は考えた。だが違ったのだ。それに気付いて受験に萎えた。適当に書いた答案でも難無く受かったとは。本来のポテンシャルの高さ故か皮肉か、彼はそれでも合格したのだが、適当故に流石にトップクラス選別からは、洩れたのだ。そして後から己の痛恨のミスに、気付いたのだった。和希と離れたのは良いが、それは親友敦之とも、勿論友とも離れてしまうと云う事を。ーー“遅かった”ーーが。
ただでさえ“友”を獲られて在る感覚の隼人には、敦之迄横獲りされそうで、表現し難い感情が、湧き出たので在った。特に直接和希当人が隼人に何かして来た訳でも無いのに。隼人の中の彼を嫌いな感情が何処迄も止まら無く為り、其れが又不快だった。
なのに言葉ばかり反芻される。『和希君』ーーと兄の声が、言うのだ。『高校でも弟を宜しくーー』と。“面倒ばかり掛けてごめんね”と。“役目なので気にしてません”と言った和希の顔は見えなかった。