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《初日》。

 学校から連絡を受けた“華月 陽藍”は、幼い息子に言ったらしい。「海ーー“お兄ちゃん”が」




 “やらかした”と。



 ーーーーーーーーーーーーーー





 隼人は知らなかった。そして“事”が全て済んでしまってから、知ったのだった。腹立たしかった彼は先ず“彼”の元へと、歩みを進めた。ずんずんと。険しい表情に通りすがりの人々が彼を避けた。


 目的の地は然程遠い訳では無い。当たり前だ。同じ“校舎内”なのだから。時は既に放課後だった。目的の男を見付けた隼人は、いきり立った。理由ならば簡単だ。“親友”が其処に居たからだった。隼人は思わず用事有る其の男にでは無く、「! っ、敦之っ」ーーと、そう呼んだのであった。当然だが注目を浴びる。何故なら既に“浴びて”いたからだった。“彼等”が。




 敦之と一緒に“在”た、その男の方に。彼“隼人”は用事があったのだ。用事と呼ぶより苦情でも有り又は苦言だった。憤っていたのだから。ーーーーーーーーーー





 「? どした? 隼人?」




 と。








 呑気に返して来たのは声を掛けられた方。ーーそう“敦之”だった。××××××





 未だ入学式終えた後の、登校としては初日である。“彼等”は最早、“有名”だった。“既に”ーーだ。そう辛くも。




 ×   ×   ×




 「……………“和希”…………おまえ…………っ」




 “佐木 隼人”は、そう言った。惚けた顔の男に。彼の名を呼んだのだった。“不本意”ながら。




 特徴無き其の平坦な、平坦過ぎる其の男は。隣宅華月の四男坊、“ゆう”という男の親友だった。



 “橋本はしもと 和希かずき”という、名前迄も“平凡”な。そんな男だった。







 隼人は“彼”が苦手だった。××××











 隼人はぐんぐんと“その男”へと、近付いた。そして手を伸ばした。制服の胸倉を掴むつもりだった。だが、




 出来なかった。




 弾いたのは親友だった。“敦之”にあっさりと阻まれた。目が隼人へと語った。“問題を起こすな”と。だが遅かったのだ。翌日の登校時には既にこう囁かれていた。“橋本 和希”は苛められっ子だと。“間違い”なのだが。××××そして“犯人”は敦之と“隼人”だと。××××××










 橋本 和希へと同情の目が注がれたので在った。××××そして誰も否定しなかったのだ。





 ××××××××××××××××××




 「否定すりゃ良いのに。」と、和希本人が言った。敦之は睨む様にも彼を見た。そして溜息だった。その横の隼人は不貞腐れた。隼人の“部屋”だった。時は“騒動”の翌日だ。登校二日目(・・・)だった。






 「敦、“友”は?」



 制服も既に着替え終えた隼人はそう言った。既に夕刻であり、つまりは“帰宅後”だった。“敦之”は“友”の“従兄弟”なのだ。親通し皆親友で、仕事仲間でもある。敦之の父親は“美津之みつの”という名で、職業は俳優をしていた。



 隼人の父はその美津之が所属する会社の“専務”なのだ。昔からの仲間通しで作った会社だった。友の伯父“瀬野尾せのお かがり”が、会社の代表だった。因みに隼人の兄である“大和やまと”も、其処に所属する“社員”だ。幼馴染通しでバンドを組んでおり、一年後デビュー予定だった。メンバーの内二人が未だ“学生”なのだ。ギター“瀬野尾 太一たいち”とヴォーカルの“たき れん”の、卒業待ちなのである。



 太一は勿論、社長“篝”の息子だ。メンバーは他にドラムの“山田やまだ 理一りいち”。父親は山田 達生たつおと云うやはり父達の“友人”で、会社では“常務”だ。


 因みに敦之の“父”は陽藍の妻“友美ともみ”の“兄”で、“篝”は陽藍の“実兄”である。“異母”兄弟ではあるのだが。敦之は理由を知っていたが、隼人はその辺はざっくりとしか、聞かされていない。敦之からも聞かなかった。



 一度帰宅した敦之は隼人の部屋へ向かう前に、通り道の叔父の家、つまり隣に寄って“従兄弟”友の様子を聞いて来たのだ。“此の場”で和希だけが、制服のままだった。隼人が連れて来た嫌、最早“連行”だった。“だから”だ。××××




 聞かれた敦之は応えた。嫌、“ジェスチャー”だった。訝しんだ隼人が気付くよりも、和希が気付いていた。扉を見て在た。そして聞くよりも早かったのだ。“理由”の訪れだった。





 「ーー兄貴? …………あれ? 敦君?」


 と、制服の少年が入って来たのだった。××××





 「おう、直。」



 と、応えたのは敦之だった。“直”と呼ばれたのは“直夏すぐな”と云う名の、隼人の弟だった。三つ下の現在中学入学したての、一年生だ。貫禄すら有る彼は、とてもそうは見えないがーーだ。兄と共に整った容姿の持ち主だった。母親似なのだろう。母夏美(なつみ)が中々の美人なのだ。中身が伴わないのだが。



 直夏は夏美似の、美形だった。夏美に恋心抱く敦之は、故にか直夏の事は可愛がって在た。敦之は好き嫌いが激しい方なのだ。良くも悪くも。気に入らない相手とは会話すらしない男だった。さておき、直夏は敦之の他に、珍しい人物の存在に気付き、視線を其方に移して在た。“和希が在るーー”と、思ったのだ。直夏は子供の頃から此の和希に空手を習っていた。通う道場で和希がボランティアしているからだ。兄、隼人はそんな手解きはしてはくれなかった。長男大和の方は直夏を気にしてくれていたが、直夏は此の隼人には構って貰った憶えが、然程無い。却って敦之の面倒見の方が良かったと記憶している位に。隼人は弟に淡白だった。




 和希の視線に思う所有り、何も問い掛け無かった弟は兄に聞いたのだった。「晩飯どうするの?」と。



 「は? 直ーーおまえ。その前にノック位、しろ。“礼儀”、だろ。たくっ」



 「はあ? “隼人”に礼儀問われたく“無い”な、俺は。で? 夕飯どうするんだよ? 俺が作るのか? 要るの要らないの? 礼儀うんぬんの前に飯位作れるように成ったら? 一応“隼人”は俺の“兄貴”だよね?



 “実感”得れないけどな。 敦君? ーーーー何か在ったの? “珍しい”よね? 隣じゃ無くてウチにいるなんてさ? どうしたの?」




 「!」



 「………………………っ、此の野郎っ、直、“てめえ”な、」



 「“隼人はやと”君、“言葉使い”な、“直”君に謝れ。“お兄ちゃん”だろ。ーーーー“てめえ”、良く無い。」




 「! っ、……………っ、“和希”、さん。……………っ」



 隼人は感動する“弟”を、見たのだった。そして思った。“この男”がやはり苦手だと。“橋本 和希”が。





 “佐木 隼人”は『不得意』なのだ。『敵わない』からだ。『疎ましい』のだ。






 「“弱そう”な振りして“地味”に紛れてる奴に、あれこれ言われたく無い。んな事より“友”だよ。ーーん?っ、



 あっ!」と。



 隼人は自分で言ってから、自分の失態に気付いたのだった。敦之の気遣いが無駄と為った。呆れた和希はそのまま何も言わなかった。“溜息”すらも、吐かずに。






 “はあ?”と言った弟に、問い詰められた。“友兄がどうしたの?”と。彼は未だ知らぬ様だ。諦めた敦之が溜息を味方の様に言ったのであった。








 「“自宅謹慎”中。ーー」と。「“りつ”から聞いて無いか?」と。勿論直夏は面食らっただけだった。そして思った。嫌言った。




 「…………まだ高校入って2日目だよね?」と。











 “何をしたんだよ”と。質問とも言い難き言葉を吐き出して在た。呆れた和希が初めて答えた。“違う”と。




 「え?」



 戸惑う直夏に。







 「“二日目”まで“持たなかった”よ。」と。登校初日には既に“やらかした”のだと。“何を”かは、等々彼等は言わなかった。嫌、“言えな”かった。ーーーー








 “友”は初日に。音楽教師と美術教諭と保健室員に惚れられてしまい。迫られたのだ。油断しかしていない“人気モデル”『華月 友』は。



 音楽教師に唐突にキスされ。それが彼のファンの“美術教諭”に、知れ。人前で抱き着かれ音楽教師と美術教諭が、“ガチバトル”と、なった。“校内で”だ。“え〜”と為った友は、逃げ出した。そして。



 “保健室員”に、捕まった。匿われたかと、思いきや、甘かった。単に押し倒された“だけ”だった。××××



 “無論”、“未遂”だが。





 “目撃”されて、騒がれたのだ。目撃“者”が音楽教師と美術教諭なのだ。どうしようも無かった。“友”にしてみれば。“逃げる”しか無かった。“友”にしてみれば。




 但し。





 “和希”に云わせるならば、“襲われる前に逃げろ”ーーだった。橋本 和希とは“友”にとっての“親友”なのだ。






 だから“隼人”は気に入らないのだ。“幼馴染”としては、“寂し”過ぎた。友との間に出来た和希と云う名の“障害ワンクッション”が。“邪魔”だった。





 “隼人”は後から知ったのだ。“友の騒ぎ”を。橋本 和希はとうに知って在て、いいや、“止めた”のが和希だったのだ。“たすけた”とも、いうだろう。保健室へ友を救けに行ったのは和希だったのだ。三人の教師と教諭を止め、諭した。“友が仕事出来なく為っても良いのか”と。きつく言ったのだ。ファン故に行動を起こした彼女等は、意外にかあっさりと納得した様子で、行き過ぎた行動を侘びたのだった。けれど“発覚”したのだ。“騒ぎ”が。“学校側”に知れて、陽藍は呼び出されて、友は“謹慎”と為った。“表向き”は。




 単に“熱り冷まし”なのは明白だった。何故なら彼等通う“私立羽澄しりつはすみ”高等学校とは、他ならぬ華月 陽藍が創設したのだった。つまり。問題児と分かり切った息子を他人様に任す程華月 陽藍とは愚鈍では無いのだ。故に前以て息子が通える“学園”を用意していた“それだけ”の事だったのだ。“彼にしてみれば”だが。





 彼等が今頭を抱える問題は、であるから、“それ”でも“其処”でも無いのだ。“自宅謹慎”の筈の友が、逃げ出して“朝帰り”したのだ。“その事”だった。“佐木 隼人”が、問題にしている(言っている)のは。







 「ーー“友”に、“彼女”いるとか。“聞いて無え”ーよ。っ」と。“彼”は呻ったのだ。本当に知らなかったのだ。






 直夏を部屋から追い出した隼人はそう言ったのだった。“咎める”様にも。否、咎めていたのだ。勿論和希を。“どうしておまえは知っているのか”ーーと。口惜しさを。

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