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《“夏”の、初め。》

 「んじゃ、行ってらっしゃい。ーー気を付けてな、“樹”君」ーーと、佐木 直夏は言った。その場所は“空港”だった。××××





 ××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××



 夏休みに入った。佐木 隼人は流石に兄にこう言われた。“一度家に顔を出して来い”と。



 久々の実家だった。けれどその前にやはり隼人は華月邸のインターホンを押したのだった。理由はひとつ。いつもならば開いている門の施錠が為されていたからである。訝しんだが、開け忘れかとも思ったのだ。だが気のせいで無く、華月家は誰も出ては来なかった。隼人は面食らう。夏休みだ。家族で出掛けたのだろうか?と、そんな考えも浮かんだ。けれど休み前、友は特に何も言って無かった筈だ。敦之にしてもそうだ。途方に暮れた様にも思案が行き止まりに辿り着いた時に、隣宅から誰かが出て来た。




 「……………隼人じゃない。……………誰かと思った。…………何してるのよ」と。



 出て来た人物。其れは「……………沙羅サラ………」と云う名の、美津原家の、長女だ。敦之の姉で在る。


 「………………何って……」


 「…………なによ、聞いてなかったの? もしかして………… 叔父さん達、いないわよ」



 そう沙羅は言ったのだ。隼人は「は?」と返したのだ。




 「……………出掛けてんの?」と。




 沙羅は呆れてこう言った。「“アメリカ”行ったわよ」と。













 「…………は?」





 隼人はそれしか言えなかった。××××



 聞き返す事すら出来ず事態も呑み込めずに。“………………何?”と。




 沙羅は綺麗な顔を顰めて、こう言った。「変な子ね」と。



 「………………いやだって…………っ」


 「暫く“帰らない”わ、よ。皆で行ったし。うちの親も一緒に、ね。」と。


 沙羅の言葉に隼人は増々困惑する。



 「…………大体、“直夏”も、行った筈よ? なんで聞いてないのよ? 大和は言わなかったの?」



 「…………………はぁ?」



 「…………………呆れた。直夏は律と旅行だって、喜んでたけど? 大体、良く考えたら隼人、あんたは誘われなかったわけ?? 敦はなんか“用事ある”って言って、行かなかったけど、まあ、家にも居ないけど、ね」



 と、沙羅は言ったのだった。“寝耳に水”とは良く言ったものだと、不意に思った。“聞いて無い”と。







 「あ〜、………………“龍”君達に、…………会いに行ったの?」と、隼人は辛うじて、言葉を思い出した。華月家次男、龍は“留学中”なのだ。



 「…………………どっちかといえば、“樹”の“見送り”じゃない?」



 沙羅の言葉はその予想に反していたのだ。隼人は増々理解らなかった。………………“何?”と。××××






 「…………………? 樹?」



 隼人の余りにな様子を見た沙羅は増々呆れを見せてこう言った。“嘘でしょ”と。



 「……………なによその反応は……………まさか、樹のことも知らなかった(聞いて無かった)わけ?」



 又沙羅は“嘘でしょう?”と、繰り返したのだった。隼人は流石に目眩を覚えた。“…………何だ?”と。



 辛うじて言葉は出た。其の声で沙羅に問い掛けたのだ。






 「………………、樹は……………どこいったんだ…………」と。××××××××





 「……………だから。“アメリカ”だって、言ってるでしょ。“樹”は“留学準備”、まあ、“下見”だけど、ね」と、



 沙羅の言葉は返って来たのだ。“寝耳に水”と先程の思考が反芻リフレインした。××××××××××××



 隼人はぐらりと揺れる脳味噌で、こう思った。“()大概に(聞かされ)()てくれ(いない)よ”と。

















 「……………隼人?」



 「……………いつ」



 「……………え?」



 「いつ、帰ってくんの?」




 其の言葉に困ったのは、沙羅の方だった。答えが複雑だったからだ。



 「………………、なに?」



 「う〜ん。説明が面倒なのよね。もしかしたら、陽藍叔父さんのところは、“帰らないかも”ーーだから」と。





 沙羅はそう答えたのだ。隼人には勿論意味が理解らなかった。“何言ってんだ?”と。




 「…………とにかく。私はお母さんから連絡来て、出掛けに散らかしたから、片付け頼まれただけなの。もう“帰る”から、隼人はどうするの? 一緒に戻る?」


 沙羅はそう言った。沙羅の今の自宅は、隼人が居候中のマンションだからだ。「…………俺は………」



 言い掛けた所で、隼人の後ろで其の音は響いたのだ。“聴き慣れた”音が。××××




  ×   ×   ×



 「…………………、隼人? 何してんのあんた」と。



 「あ、おばさま、こんにちは〜今からお仕事?」


 そう言ったのは、沙羅の方だ。つまり隼人の後ろで佐木家の扉が開いたのだった。そして出て来たのは、隼人の母“佐木 夏美なつみ”だったのだ。夏美は答えた。“そう”だと。



 「遅番でね〜今日“夜勤”なのよ」と。夏美は陽藍経営の“ブライダル”に、勤務している。企画の統括だ。“プランナー”なのだ。ブライダル以外の企画も扱っており、夏美は中々に忙しい身だった。




 夏美は隼人を見付けて、暢気にも“隼人、ご飯食べたの? 冷蔵庫の中の作り置き、適当に食べてなさい”と言ったのだった。




 「今“スグ”も出掛けてるから、入って大丈夫(・・・)よ」と。××××そして出掛けて行ったのだった。×××××××××××××××××××××××××××××







 「………………夏美さんて………………大物(丶丶)だと思うのよ…………」と。沙羅は茫然と言ったので在った。



 「じゃあ私は戻るわ。自分の家も掃除しなくちゃだから」と、沙羅は帰った。背中を無言で見送る事に為った隼人は。………………………。




 暫く考えてから、自分の家へと、入って行ったのだ。“考えりゃ分かった事なのに”と。


 忙しい“両親”が、ただ“帰った”だけ(・・)で、会える(話す時間がある)無かった(無いととうに)のだ(知ってた筈なのに)と。××××


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 “考えてみたら。兄貴が言ったのは、会社に付いて来い(丶丶丶丶丶)って事か”と、隼人は思いながら、自宅へと入ったのだった。父に会うならば、其れが断然確実で手っ取り早く、隼人も以前ならばそうしていた。主にそれは“金が必要な時”だ。普段の小遣い程度で無い高額な物の購入に置いて、黙って其れをする程隼人は愚かでも無かった。が、両親は忙しい。欲しい時期を逃すと、手に入らないかもしれないーーそんな時は母を訪ねるより、父の方へ行った。母の勤務時間帯が不規則な為もあるには有ったが、其れよりも隼人にしてみたら、母より父へ強請る方が難易度が低いのだ。




 父は優しかった。



 穏やかな人なのだ。隼人が何かやらかしても、ただ困るだけで、叱る事の無い人だった。当人はそれでも“叱っている”つもりらしかったが。



 代わりに母に叱られた。それも散々に。何なら隼人が毎度巻き込んだ敦之ごと、叱られたものだ。既に懐かしくさえあるが、それ程前でも無い。一番記憶に新しいのでも、中三の時だ。受験生だと云うのに何をやっているのかと、敦之は“如何して止めなかった”と、本当に散々に叱咤された。陽藍と美津之が止めなければ、未だに言っていたかもしれないーーと、思う程に。××××







 「ーーなんだ、隼人か。 夏美、忘れ物かと思ったよ。ーーどうした? 何か取りに来たのか? “大和”にお前の生活費、渡したんだけど、…………“足りてる”か? ちゃんと“欲しい物”買えてるか?



 ………………? 隼人?」



 「………………………、父さん……………」



 「ん?」




 そう、家に入って来た“隼人”に気が付いて、“父”が出迎えたのだ。××××××××




 「………………今日………………、休み?」



 隼人から辛うじて出た言葉は、それだった。




 ーーーーーーーーーーーーーーーーー




 “父”は苦笑していた。「…………まあ、ね?」と。



 もしかしてと隼人は思った。“休んだのかな?”と、だ。大体父は忙し過ぎる。会社が休みだって、用事で出掛けるのだ。出掛ける用事はその殆どが仕事関係らしいと、隼人ですらも知っている事だった。会社の役員だから、仕方無いのかもしれないが、身体を壊してくれるなよと隼人は心の中で思っていたのだ。勿論母の事も。伝える程素直で無かった。




 「……………調子悪いの…………?」と、思わず聞いていた。ーーーーーー








 「ん? ああ、違うよ。“有給休暇ゆうきゅう”だよ。消化しないと、な?」


 父はそう言って、優しい顔をした。隼人は無性に“安心”を覚えたのだ。昔から知っている“安堵”だった。



 “俺は…………………。一体何をしてるんだろう……………っ” そんな考えが不意討ちされた様に。……浮かんで。まるで泣き出しそうな程に、…………熱く為ったのだ。




 敦之の、




 そして樹の、








 又、和希の言葉が聴こえて来た気がして。其れは余計だった。




  ×   ×   ×




 “……………なにしてんだ……………おれ”と。情け無い気持ちだった。“簡単な事だったのに”と。××××××




 隼人は“勇気”を出して、漸く“確認”したのだ。“父さん”…………と、呼び掛けた。父は軽く“ん?”と返した。玄関から上がらない息子を見て。




 隼人はそのまま言った。




 「“樹”のことなんだけど」ーーと。真剣な眼で。其の父は黙って息子の其れを聞いて在たのだった。

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