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アイディア C

作者: 黒田明人


至れり尽くせりがゆえに



鑑定・言語・アイテムボックス・万物(戦闘・魔法・生産)の才能が標準装備と言う、ある意味もう欲しいスキルはなさそうな有様。

クラス全員召喚でそんな状況になったんだけど、1つだけスキルをあげると言われ、皆は悩んだ挙句、様々なスキルを得たようだった。


口頭で皆の前で発表するかのように申告するとあって、余りに酷いスキルは皆からの白眼視を浴びていた。

なのでそれで良いですかの質問に対し、やっぱり……と、変更する人が殆どだった。


だってねぇ。


万物の中に無いからといっても、ジゴロの才能とか、己を磨けと言われるだけだ。

そもそもジゴロって確か、女たらしって事だよね。

そんなの女子連中に聞かれたらどうなるかって、やってみないと判らないとか、余りにも想像力がなさ過ぎなんじゃない?


まあ、精力に関してはギリギリアウトなところもあったけど、なら生涯子供を作るなと言うのかと逆に詰問し、無いよりはあったほうが安心するだろうと、色々な言い回しでクリアしていた猛者もいた。


そんな、ある意味遊興系なスキル……ネットスーパーとか、どっかで聞いたようなスキルとかが殆どだった。

そうして全員が……まあ、残るはオレだけだけど、決めた後。


おいおい、誰もその可能性に気付かないのかよ。


「決まりましたか」


「この世界には魔法が無いので、当然魔力も無いと思います」


「そうですね」


(え、嘘、でも、向こうに行けばきっと……)


「向こうで魔力無しは致命的だそうで」


「ええ、武力に魔法に生産にと、全てにおいて魔力が関係していますね」


「なので魔力をください」


「それは魔力臓器の才能でよろしいでしょぅか」


(そんなのって……でも、きっと、向こうで)


「よろしくお願いします」


「はい、設定。以上でよろしいですね」


「はい」


「……完了しました。では送り出しますね」


(おい、ちょっと待てよ。オレ、魔法、使えるだろうな)


(くそ、声が出ねぇ。変更したいのに、オレもその臓器が欲しいのに)



『やれやれ、使い物になりそうなのは1名ですか。これだけ至れり尽くせりにしてあげているのに、それでも気付かないとは救いようがないですね』


『かつては確か』


『ええ、何でも3つとか、もれなく全滅でしたからね』


『魔力臓器を標準装備にするのはダメなのでしょうか』


『あれはね、本人の自覚の為にわざと抜いてあるのですよ。今まで住んでいた世界に無くて、今から行く世界にあるもの。それを獲得する事が必須なのに気付けないとか、余りに頭に花が咲いているようなのはあちらの世界に対して迷惑です。なので気付かない人は自業自得にしてあるのです』


『つまり、単なる魂の譲渡だと』


『まあ、それが契約ですしね。でも、今回は1人ですけど気付いた方が現れました。本当は全員そうなって欲しいものですがね』


『巧くいかないものですね』


『次回はもう少し踏み込んでみましょうか』


『そうですね。余りにも少なすぎるような気もしますし』


『そうですね』



かくして、召喚された面々は、世界のあちこちに送られた挙句、1人を残して急性魔力欠乏病を発症し、回復の目処も立たないままにお亡くなりになったそうな。


「やれやれ、魔力後付けとか、どんな罠だよ。あいつら、可哀想な事になっちまったけど、ファンタジー小説とか読んだ事無かったのかな。まあいいや。とりあえず生きていけるようだから、のんびりと魔法の練習でもしながら暮らしますか。召喚とは言うものの、特に何かしろとは言われてないし、ここはスローライフで良いよね? 」


至れり尽くせりなのは何もスキルだけの話ではなく、アイテムボックスの中には、今まで食べた事のある食料品の数々が大量に入っていた。


そうして知っている限りの物品も大量に。


それは、ネットスーパーとかで買わなくても生涯食べていける程に入っていて、彼はたまにそれを味わって暮らしていたのだった。


「今日はとんこつと餃子とチャーハンの気分だな」


彼は本当にのんびりと暮らしていたけど、相変わらず女には縁が無さそうだった。


「確かにゴムはあるけどさ、うっかり人前で寝たりしたら、目覚めたら奴隷でしたって事になりかねない世界なんだ。かと言って奴隷を買うとか、伝手が無いと不可能なようだし、そんな金を稼ぐために働くのは良いとして、冒険者とかをやるときっと目立つし、嫉妬されれば情報が拡散してしまう。そうしたら結局、権力者とかに囲い込まれてしまうに決まっている。なんせこの世界じゃ、もらったスキルの殆どがレアらしいし、バレたらどうなるかとか、誰でも想像できるさ」


彼は人里離れた洞窟を見つけ、でかい岩をアイテムボックスに入れて、それを扉代わりに使って入り口を閉じて、その中で暮らしていた。


土魔法の練習の一環で洞窟を広げたり、崩れないように火魔法で炙ったり、換気のついでに風魔法の練習をしたり、ラーメンを食べたり。


彼は最低1年はここで過ごし、一通り何でもやれるようになってから世間に出ようと思っていた。


常識は少しずつ学べばいいけど、村育ちという触れ込みな割りに、何にも出来ないのは不審に思われるだけだ。

まずは戦える下地を作らないと、そもそも町に行く前にモンスターの餌食になるだけだ。


そうして、文明の利器であるところの、あちら産の武器は封印しないとな。


なんせ音が煩いから目立つんだよ。


バレたらそれこそ……。



彼の知る全てが入っているアイテムボックス。


武器おたくなところもあった彼の知識の中には、当然のようにバズーカもあり、熊の化け物はこの世界で初めて、あちら産の武器の餌食になったのでした。


「それにしてもまさかだよな。なんで武装ヘリとか入っているんだよ。それに戦闘機とか。そんなの使えるかよ。まあ、使い方は好きだったから何となく判るけどさ、墜落したら終わりなんだし、そうそう練習もやれそうにない。まあ、あれらは死蔵かな」


様々なおたくな彼の知識は凄まじく、設定した神様の想像を超えていた。


なので彼が積極的に世の中に出した場合、確実にサイエンスハザードになっていた。


彼の自重に救われた事を、神様は知るよしもなかった。


-----


ボツになった勇者召喚物語



ギフト『玩具召喚』


役立たずとして王国の面々には不評だが、クラスメイトにはそこまでの事もない。

元々、創意工夫が巧みで何かと便利な立ち位置だったので、今までの恩返しと言うか、自然と保護的立場になっている。

本人達は無意識ながらも、そういう空気になっているので王国も強硬な態度に出られない。


「無理しなくても良いのよ」

「そうそう、オレらにはトランプとか花札の召喚だけでありがたいんだからよ」

「特許も取れたんでしょ。だったらもう戦いとか考えないでお金儲けして後方支援がありがたいわ」

「じゃあせめてこれを渡すよ」

「おいおい、そいつは水鉄砲かよ」

「回復薬を詰めて、遠隔回復~♪」

「出た、創意工夫マン」

「ありがたいわ。戦いの最中の回復って本当に大変だし、魔法だと本人に触れないといけないし、回復薬は瓶を開けてふりかけないといけないって言うけど、戦いの最中にそんな事やれないもんね」

「回復薬の大量生産はどうするの? 」

「玩具の台所セットってのがあってね、小さいけど本物みたいに使えるんだ。電池で動くやつ。それを使えば簡単だよ」

「もしかして、ジューサーとかミキサーとか」

「そうそう。そいつで薬草を大量に粉砕して搾ってとやれるから、すぐに大量に作れるんだ」

「それも稼ぎになりそうね」

「そうだぜ。オレらの軍資金にも限りがあるんだし、そういうのは経費として国に請求できるしよ」

「国のやつらもケチだよな。戦ってやってるのに予算がどうのこうのと言いやがって」

「だけど今は困らない」

「おうっ、こいつが色々とやってくれるからな」

「じゃ最後に……玩具のベーカリー♪」

「助かったわ。もう材料が少なかったのよ」

「本当、固いパンを渡されて、それが主食と言われた時、どうしようかって思ったものな」

「玩具と言っても発酵には使えるから、あとは焼くだけでふっくらパンはありがたいわ」

「まさかこの世界には酵母が無いとはな」

「お前だけが頼りだぜ」

「うんうん、だから無理だけはしないでね」

「ありがとう、みんな」

「いいってことよ」


クラスメイト達は彼の創意工夫に助けられ、王国の要求に答えた。

そうして約束どおり解放してもらい、元の生活に落ち着いた。

クラスメイト達のギフトは戦いを有利にする為のものなので女神によって剥奪されたものの、彼のだけはそうじゃないので後回しにしてそのまま忘れてしまったらしい。


そんな訳で彼だけはギフトが使えるんだけど、うっかり使うとヤバいので、小遣いが足りない時に召喚してリサイクルショップに売りに行くという、つつましい使い方に留まっていた。


だけどたまには人の為に使う。


「悪ィ、トランプ出してくれ。持って来るの忘れた」

「ほいほい……トランプ召喚」

「オレも役立たずのスキルだったら剥奪されなかったのかな」

「ならお前、スキル無しであの化け物と戦えたのか? 」

「いや、だから、そのな、オレもなんかの、召喚、とか」

「お前なんかが召喚覚えたらフィギュアしか出さねぇだろ」

「ぷくくく」

「うっ、否定できない」

「あははは」


世界は今日も平和です。


-----


女神様、話が違うんですけど



主人公「でも、異世界とか怖いです。魔物がいるんでしょ」

女神「魔物と言っても大きいのはいないのよ。ほら、角ウサギとかスライムが主でね、稀にゴブリンが出るぐらいかな」

主人公「ゴブリンってすぐに増えて」

女神「君にもちゃんとスキルをあげるんだから、すぐに倒せるようになるわよ」

主人公「どうしても転生しないといけないんですか」

女神「元の世界の為、この世界の為にしてくれると嬉しいな」

主人公「そう、ですか。その代わり、スキルはたくさんくださいよ」

女神「そうね、普通はひとつだけだけど、特別に3つあげるわ」

主人公「生き残れるスキルが欲しいです」

女神「うんうん、そういうイメージで渡すわね」

主人公「おねがいします」


かくして女神の要請を受けたある青年は異世界に転生した。


(ふうっ、なんとかなって良かったわ。さてと、生き残るスキルね。水と食糧が確保できれば良いのだから、とりあえずそれを入れるスキルを付けて、取引出来るスキルも付けて、あとはそうね……)



転生して物心付いて後、ぼくは女神に言われていた事を思い返していた。


『いい。君がもし、転生者とバレたら大変な騒ぎになるからね、くれぐれもバレないようにすんのよ。祝福の儀は誤魔化してあげるから、あとは言動でバレる事のないように。君も嫌でしょ。国の奴隷としての生涯とか』


これは知識チートできそうにないな。


穏便に年齢相応に、地味に静かに過ごすしかないか。


(さすがにああ言えば派手な技術ハザードはしないでしょ。あれをされると文明の寿命が縮むんだよね。まあ、国の奴隷は少し言いすぎだけど、欲の深いのに絡め取られたら似たような事になるはずだし、全くの嘘って訳じゃないからね)



女神様の言葉を胸に刻み、決して目立つ真似はしないように心がけて数年が過ぎた。

童心に返って近所の子たちとの遊びはもとより、人の目のあるところでは目端の利く様は見せず、ごく当たり前の子供のようになんとか過ごせていると思う。


どうしても必要な場合でも表に出ず、ガキ大将みたいなのにこっそりと注進。

そしてそれはそのままそいつの手柄となり、覚えが良いからか苛められる事もなく過ごせている。


このまま成人まで村で過ごし、成人したら他の皆と共に町に出ようって計画もある。

ただ、魔物が出るとヤバいので、そこのところがネックとなっているものの、自分には魔法があるから何とかなるだろうという気持ちもあり、自立推進派のように思われている。


そう、魔法。


昼間は目立つので夜に練習してそれなりの熟練になっており、雨が少ないのに家の周囲の植物は、どういう訳だか元気だと思われているようだけど、その理由を練習の成果だとは思わないようで何とかなっていると信じている。


女神様にお願いした結果、水魔法が得られた。

確かに生きるのには水が必要不可欠なのでありがたいのだけど、全属性とかは無理だったんだろうか。


魔法はイメージで何とかなるんだけど、どうにも威力には結び付かないようで、それはこれからの課題になると思う。

その代わり、近所の畑に雨降り魔法で練習したので、熟練度はそれなりにあると思うんだけどな。


そんなこんなで日常を表向き当たり前に過ごしていたんだけど、村外れに魔物が出たという話を聞いた。


それは角ウサギという魔物であり、畑の作物を荒らされて困っているらしい。

討伐しないのかと聞いてみると、騎士団に頼むのだという。


おかしいな。


ぼくでも倒せそうな角ウサギなのに、騎士団を呼ぶとかどんだけ大群なんだよ。


そう思っていた……だけど。


「でかっ」


そう、その魔物はやたら大きかった。

ズシンズシンと跳ねるたびに揺れる地面。

畑をほじくり返して出た野菜の山をガツガツと食うさまは、到底ゲームや小説なんかの魔物とは比べ物にならない。


道理で騎士団とかの話になるはずだ。

ドラゴンぐらいでかい角ウサギって。


女神さま、こんな話聞いてないよ。


大きいのは居ないと言っていたじゃない。

確かにゲームや小説では雑魚の類だけど、それ自体の寸法が桁外れなら意味がないじゃん。


水魔法でどうしろと?


とりあえず夜にこっそり近付いて、顔面を覆うように水の球を纏わり付かせてみた。

普通なら近付いたらバレそうなものだけど、それは相手が小さいから大きな存在が近付くのが分かるのであって、その逆の場合はバレ難いのか、なんとか射程内まで近付けた結果だ。


暴れる暴れる。


相手が死ぬまで必死で保持し、なんとかMP切れまでに動かなくなった。


はぁはぁはぁ……。


雑魚のはずの角ウサギにこれだけ必死にならないといけないとは、これからの異世界ライフがとっても不安なんだけど。

まあ、他の2つのスキルを活用して何とかするしかないだろうな。


水魔法、売買、倉庫か。


目指すは商人かな。


とりあえず角ウサギを売ってみるか。

おおお、意外な高額引き取り。

冒険者って手もあるかな。


なんてな。


かくして、女神様に騙された感のある異世界転生だけど、

創意工夫でなんとかするしかないようだ。

まあ、神隠し系転生よりはスキルが貰えただけお得なので、まだましだと思うべきだろう。


女神様。


感謝はするけど信心はしないからね。


-----


仮題・転生魔術師のプロローグ



古代文明によって定義された6つの属性。


熱・液・空・波・魔・神


だが時代が下がるごとにその定義の意味を理解する者が減っていき、次第にその劣化版ともいえる属性に変化した。


すなわち、


火・水・風・光・闇・聖


現代ではその属性は常識となっており、既に古代文明の属性を知る者はいない。


ゆえに古代文明の遺産が発掘されたとて、その文献の意味を理解する者はいない。


本書はそれを解明せんとして挑んだ者の軌跡を記すものである。


神代文明研究室記より



「でもさ、こいつは分かっているよな」


「いや、これを書いたのは同じ古代文明の学者って話だ」


「ああ、未来にはこうなるって話か」


「まあ、実際そうなっているけどな」


「けどさ、熱が火ってのは何となく分かるけど、なんで波が光なんだ。海の波と光がどんな関係があるよ」


「だから解読が進まないんだよ。意味が分からないから」


「こんなの分かる奴、出るのかよ」


「けど、それなりにやらないと単位がもらえないぞ」


「だから先輩は熱と火をやれって言うんだな」


「それが今一番理解が及んでいる属性だしな」


「へーへー、ならそいつをやりますか」


「他に分かるなら構わんぞ」



(古代文明はかなり進んだ文明を持っていたようだな)


(火は熱の一形態に過ぎない。熱、つまりは物質の振動数を操る属性で良いのかな)


(液はそのまま液体だよな。その中でも水に言及した属性となっているけど、本来は全ての液体を操ることが可能な属性なのか)


(空はソラって意味に取ると紛らわしいけど、早い話が空気を操る属性だよな。それが動いた結果の風という一形態のみを活用しているようだけど、本来はそういう意味なんだろう)


(波はもろ波動だな。光の波動を操る属性しか伝わっていないのは、もしかすると末期に使われていたのが光だったのかも。まあ、暗闇を照らすのに使われていたとしたら、最も身近な魔法って事で伝わったのかも)


(魔属性が闇属性になったのは魔族に対する偏見か? 病属性や死属性、不死属性に闇属性と。その中の闇だけが残っているって事は、迫害されて行使者が消えたって事か)


(神属性はあれだな。恐れ多いとか何とかって意味で聖に言葉を変えただけだろう。ただそのせいでかなりの劣化版になっているようだけど、本来は奇跡を操る属性だったんだろう。文献にある蘇生とかも、今では幻とされているようだし)


(けど困ったな)


(解明できたけど、表に出す訳にはいかないぞ)


(仕方ない。こっそり行使してこっそり習熟して、こっそりと生活に役立てようか)


(さて、論文は先輩のを写して細部を変えて……よし)



かくして、成績は可もなく不可もない、ごく普通の成績で卒業した一般人として、彼は世に放たれた。


15才で成人となるこの世界において、成人までは養育の義務のあるこの貴族社会で、王都の近くだけど小さな所領をもつ男爵家の六男坊は、卒業と同時に実家からの縁が切られた。


『成績優秀ならまだしも、ロクデナシに回せる余裕はない』


しかし彼は喜んでいた。


(やっと放逐してくれるか。長かったぜ)


準備は万端。

念願の独立。

目標は辺境。


いざゆかん……彼は意気揚々と駅馬車に乗り込んだ。


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主人公がおかしい



確かにあの小説のような世界なのに、末っ子が普通だ。

本来なら魔法の素質に目覚めて云々……のはずが、表に出て来ないのだ。


ちなみにオレは村人の子というモブな立ち位置なんだけど、末っ子の、あの湿布薬みたいな名前で分かったんだ。


オレが目覚めたのはちょうど、その湿布薬を買いに家を出た瞬間、目の前が真っ暗になって、気付いたらこの世界だった。


最初は単なる夢かと思っていたんだけど、覚めないから仕方なく過ごしていた。

そうしたらあの湿布薬のような名前だろ。

ああ、あの小説の世界かと思ったんだ。


なら、そのうち裏山に狩りに出たり、魔法を使って調味料とか作ったりするようになるはずであり、波乱万丈だろうけど何とか子分にでもしてもらえたら、こんなドの付く田舎暮らしから抜け出せると思ったんだ。


なのに、出て来ない。


このままだと例のゾンビもどきな先生にも会えないままになりそうなのに、どうにも出て来ないから仕方が無い。


実はオレにも魔法の素養があって、こっそり練習していくらか使えるようになっている。

だから末っ子が表に出るようなら友達になって、一緒に教えてもらおうとも思っていたんだが。屋敷の人にそれとなく聞いてみると、どうやら身体が弱くてよく寝込んでいるらしい。


いよいよ村の噂にもなりつつあるので、もう時間が無い。



仕方が無いから成りすました。


名前を聞かれたから、湿布薬そのものの名前を答えたよ。

いかに成りすましでもそのものズバリな名前はさすがに差し支えがあったからな。


つまりは彼は末っ子でも領主の一族な訳だし、人里離れた場所での教授とはいえ誰かが来ない保障はない。

確かにお師匠様の探査から逃れる者はいないだろうけど、何処に名人が潜んでいるか分からない。

もし騙りがバレたらその人から領主への注進が成された場合、オレだけならまだしも家族に迷惑が掛かってしまう。

独立……つまりは成人……した後ならまだしも、今の段階でのそれは拙い。

なので偽名だけど似た名前。でも本人じゃないってのにしたんだ。


やっぱり全く違う名前だとイベントに気が乗らないからさ。


もっとも、先生のほうも本名が合っているかどうかなんて知りようも無いうえに村人や他の人に会う事もなかったのでそのままクリアしたんだけど、遂に末っ子は先生に会えないままにイベントは終わったんだ。


彼にも魔法の素養はあるかも知れないけど、表に出て来ないから仕方が無いよな。


それからも家の仕事をしながらも、時間を見てはあれこれと修行もどきは行われていった。

数年後、ようやく彼を見かけるようになったけど、普通に開墾の手伝いとかやっているみたいで、どうにも転生者って感じがしない。


このままだとオレがドラゴン退治しないといけないの?



いよいよ成人と言われる年齢となるも、村人の子に選択肢は無い。

いや普通ならあるんだけど、こんな人里離れた集落の子には、他の村に出て行く事も困難であり、となると長男の奴隷として生きていくしかないようだ。


寝食あれど給金は無し。


そんな待遇は普通は奴隷と言われるよな。

だから家を継げない子供は大抵、未来に希望が無いのが普通だ。

確かにツラが良いとか何か取り得があれば他の家の娘と結婚出来るだろうけど、それとて奴隷が伴侶を得るに等しい。


それも嫌なら逃げるしかない。


魔物に出会わなければ2週間で近隣の街には行けるけど、大抵は魔物に食われて終わる。

だから皆は将来に希望が持てないまま、家の奴隷の身分に甘んじる。


オレ? 逃げるよ。



別に辺境伯領に逃げなくても他にも領地はあるんだし、そこら辺は行き当たりバッタリでも構わないだろう。

だけど、ここがあの小説の世界なら、ドラゴンで辺境伯のお抱え魔術師が死んじゃうか。


いや、高速馬車で移動すれば助かるんだし、経費節減が必要……つまり物資を返してない……なら高速馬車の可能性が高い。


魔導船の乗員には悪いけど、オレは別に立身出世は考えてない。

だから全く違う場所で冒険者登録をすればいい。



大人びた風体が功を奏したのか、何とか最年少冒険者になれた。


訓練校がどうとか言われたけど、既に成人しているうえに他の領からの出稼ぎであり、今すぐに稼がないと飢え死にすると訴えたのが功を奏したのか、何とかそのまま冒険者にしてくれたんだ。

その代わり落ち着いたら補習というかこちらの戦闘能力テストと学識の確認が必要と言われ、仮の名が付いたもののとりあえずはライセンスを手に入れた。


そうして手持ちの魔石をいくらか売って、とりあえず宿を借りて人心地付いた。


魔法はまだ見せない。


そんなレアなスキルを知られたら、ここの領主が囲い込もうとして来るだろう。

あの小説でもしっかりと囲い込まれていたもんな。

そうやってやりたい事もやれないまま、国の為に働かせられるのは嫌なんだ。

やっぱり世界を巡ってみたいじゃない。


折角の異世界なんだしさ。



長逗留の予定は無いけど補習があるのでしばらく滞在し、なんとか正式な冒険者になれた。

いよいよこれからは自由だと思っていたところ、都会のほうで大事件が起こったらしいという噂が届く。

もしやと思って調べたところ、やはりあの小説の世界もどきなのを思い知る。


もどき? だって主人公が動かないんだもん。


遠目から見るとあちこちに被害が出ているようで、早急な対策が必要なのは分かる。

だけど目立つ予定は無いので夜に討伐しようと思い、人目を避けての作戦行動に入る。


相手がでかいので暗闇に紛れて近付いて、一気に包んで浄化して素材回収してとっとと逃げるって作戦だ。


偲び足……溜めて溜めて……包む……浄化……回収……逃げろや逃げろ。


ぼやぼやしていたら周囲警戒の連中が関わってきて、偉いさんに会えとか何とか言われた後に、国に囲い込まれそうになってからだともう遅いので、必死で飛んで逃げたんだ。

すぐ近くまで近付いて来たけど、何を言われてもひたすら逃げていたら、そのうち諦めてくれたようだ。


まあ、帝国のほうに逃げたんだけどね。


ただ、園芸の横長プラスチック植木鉢みたいな名前の人がしつこかったけど、それはきっとアイテム袋のせいだろうな。

本来なら末っ子が受け継いで返す流れなのは分かっているけど、あの末っ子は今でもあの領地で暮らしているはずだ。


確かに騙ったけど、それは本人が動かなかったせいなので、オレは悪くない。



プラスチック植木鉢がしつこい。


田舎町で静かに暮らしていたらやって来て、そのたびに夜逃げみたいになっちまう。

余程財政が苦しいのかと思い、野原に物資のあれこれを山積みにして相対した。

小説では金をくれる流れだけど、そんなの自分で稼ぐから要らないよ。


「これでいいだろ」


「代金を払いたい。だから一緒に来い」


「別に要らないから」


「そうはいかん。それに、弟子の残した家もある。そいつもお前のものだ」


「とにかく、囲い込まれるのは困るんだ」


「やっぱり帝国の関係者か」


「だとしたら」


「亡命する気はないか」


「考えておく。今はそれだけだ」


「はぁぁ、仕方ねぇか」



あれから王国には戻ってない。


世界をあちこち巡って色々な物を見て楽しんだ。

そうして別の大陸だけど、良い環境の場所を見つけて、今は静かな暮らしの中にある。


いわゆるスローライフだ。


たまに近くに行って噂を調べるけど、色々なトラブルからあったらしい。

草原の解放は進んでおらず、遺跡の被害は継続して上級冒険者がごっそり減っているらしい。

そのせいかギルドに顔を出したらやたら引き留めるんだよな。

大してランクも上げてない一般冒険者のつもりなのに、魔法がどうとかって言われて惚けるのに必死だった。

どうやら植木鉢があちこちに吹聴しているらしく、ちょっした賞金首扱いになっているようだ。


まあ、国はあのでかい魔石が欲しいんだろうな。


だから討伐の功績は置いといて、領地内の産物を勝手に解体して持ち逃げした……そんな感じに言われているらしく、

出るところに出て釈明しろと薦められるけど、そんな罠には嵌まらないよ。

どのみちもう他の大陸で生活しているんだから、別に犯罪者扱いでも構わない訳だし。


そもそも主人公がまともならオレが討伐しなくても済んだのに、彼が動かないのが悪いんだ。


オレは採取専門っぽい立ち位置なので、特に期待もされない地味な感じ。

たまに出る弱い魔物ぐらいは倒せるとは思われているけど、相変わらず魔法の事は秘密にしているので、特に騒がれる事もない。


このままここでずっと暮らすつもりでいるけど、主人公さんはどうなったんだろうね。


世界のトラブルは主人公さんの仕事なので、オレは関知するつもりはない。

いかに動かなくてもオレには関係の無い話だし、モブはモブなりに静かに暮らす。


それで良いよね。


-----


異世界召喚されたとて



この世界はつまらない。


なんせ魔法が無いんだから。


15才の夏休みに、階段から落ちて思い出した前世の記憶。

その記憶はいわゆるファンタジー世界で生きていた記憶。

その世界でぼくは、それなりの魔法の使い手として過ごしていた。

確かにその記憶を元にすれば魔法の行使は出来たけど、魔法が空想とされている世界ではうっかり行使もままならない。


異能はいかがわしいから価値があるんであって、本物はお呼びではないのだ。


いかにもインチキっぽい霊能力者とか、タネがありそうな魔法もどきとか、詐欺っぽい超能力者とかは、テレビの中だけの存在だからバラエティとして認められているのだ。


例えば大都会のスクランブル交差点で空中浮遊とをしたとしたら、どんな反応が示されるか。


まあ、畏怖だろうね。


さすがにぼくもそこまでして魔法の実在を証明したいとは思わない。

確かに魔法が無くても不便じゃないぐらいには便利な世の中だけど、アイテムボックスっぽい魔法は便利だと思わないかな。

もちろん、そいつもこっそりと使っている。


学生はとにかく金が無い。


ぼくはちょっとヤバい性癖を持っているみたいで、バレなければ犯罪も辞さないのが困りモノなのだ。

まあ、自覚はあるけどかつての生活でもそうだったし、死んでも直らないってとこだろうね。


早い話が窃盗だ。


港の倉庫に潜り込み、何でもかんでもアイテムボックスに放り込む。

そして要らないモノを闇屋に売りさばくのだ。

そうしてカネを作って嗜好品を買い、ボックスにストックしている今日この頃。


ちょっと厨二病と言われそうだけど、勇者召喚に備えてボックスのストックをひたすら増やしているって感じ。

それは正規な手段のみにあらず、様々な悪行も含めての話。


だってさぁ、アイテムボックスなんてファンタジーなスキルが使えるんだし、きっと勇者召喚もそのうちあるんじゃないかと思っている。

大抵の小説ではコメやらミソやらを懐かしく思うような流れになっているんだし、そいつのストックは必須だろう。

もちろん調味料もわんさか入れてあるし、あらゆる食事に日用品の数々。

お風呂用品にトイレ用品、はたまた夜も安心な女の必需品に、今度産むゴム製品など様々だ。


ただ、最近、警察のマークが付いたような気がしてならないんだけど、現物が無いから立件は出来ないだろうね。

まあ、限りなく怪しいけど証拠が無いって感じかな。



今日も今日とて倉庫荒しを実施中。


魔法が空想な世界では、魔法の行使で不可能犯罪が余裕なのだ。

倉庫の内部を透視して、ショートジャンプで中に転移して、洗いざらいボックスに収めた後、自宅の部屋に帰還ジャンプと。


これでアリバイ確定と。


もちろん尾行はされていたけど、倉庫の角を曲がって転移したので、尾行失敗になったに違いない。

さて、今日は眠って明日は闇屋との交渉だ。

もちろん暗示は使うので、ボックスからドンドン出しても怪しまれないようになっている。


次は何を買おうかな。


夏休み中、ひたすら倉庫荒らしをやったせいか、任意同行とか言われてしまったけど、証拠も無いのによくやるよ。


もちろん、令状が無いのでお断りしました。


だから余計に尾行されちまうと。


公衆トイレから自宅に転移だ。


はっはっはっ、また失敗だね。


警察をコケにして遊んでいるのがバレたのか、捜査員の態度がヤバくなってきた。

毎度のようにとぼける僕に対し、いよいよ脅しが入ってきた。

だけどね、証拠を提示してくれないと、自白はしないからね。


状況証拠じゃ勝てないよ。



つまらない世界でそんな遊びをひたすら繰り返していたが、遂に召喚騒ぎとなった模様。

なんでもスキルポイント制度とやらで、ポイントが尽きるまでスキルをいくつも獲得出来るとか。


とは言うものの、1人100ポイントしかなくて、スキルは5~100ポイントと様々らしい。

つまりゴミスキルは5ポイントで、チートっぽいのが高ポイントが必要らしい。


とりあえず、今までに体験した全ての技能をスキル化して使えるってスキルに50ポイント使用して、現地の言語が分かるスキルを10ポイントで獲得して、アイテムボックスは持っているからパスをして、残りの40ポイントで【両替】【購入】【販売】【換算】を獲得した。


本来は金貨を銀貨に両替したり、その世界で購入出来る物品を買ったり売ったりするだけだろうけど、説明には記憶の世界の売買って書いてあるんだ。

つまり、元の世界の物品も、両替して買えるんじゃないかと思ってさ、ポイントも少ない事だし、ダメ元で取ってみたんだ。


まあ、解釈は合っていたけど。


乾電池パック銀貨1枚とか笑ったね。



ちょうど闇屋に売りさばいた後の召喚だったので、売った金がボックスの中だ。

乾電池も買えた事だし、必要なら武器も買えそうだな。


もとより戦闘には縁の無いスキル構成なので、皆は戦えないと思っている様子。

だけどぼくは元々、魔法は使えていたんだし、戦争も経験しているから殺しでとまどう事もない。


説明は色々あったけど、真面目に魔王と戦うつもりはない。

そんなのはやりたい奴がやれば良いのだ。

他の世界から戦闘員を誘拐するような世界の為に、どうして戦わないといけないのか。


そんな大義名分で国難を乗り切ろうとする、嘘吐き国王なら尚更の話。


隣国との戦争に負けそうだからといって、勇者召喚で乗り切ろうとか、浅はかにも程がある。


それにしてもぼくは慣れているけど、君達殺しはどうなのかな?


隣国の兵士を魔族と偽る王の言葉を信じ、人生初の殺しに従事する勇者の皆様。


ご苦労様です。



どうやらカエルの集団と化したらしい。


いくら何でも人に見える存在を魔族と偽るのは無理があったようで、酸っぱい匂いで釣られた人も多かったらしく、護衛の方々が殲滅したらしい。

いくら戦える力があっても、メンタルが弱くちゃ何にもならないようだ。


そんなぼくは居残り班として、今日ものんびりと過ごしている。


ボックスに入れたファストフードを味わいながら、このままのらくら過ごせたなら問題無い。


さて、どれぐらいで王族の堪忍袋の緒が切れるかな。


ぼくがひたすらこの状態なのは、実は大きな理由がある。


ぼくが言いたいのは、魔王が復活とかしないって事。


だって討伐されたって記録があるのに、復活とかあり得ない話だろう。

いくら図書室入室禁止を言い渡しても、こっそり調べたら判るだけの話。


200年前に魔王は討伐され、それ以降は復活した記録も無いってのに、どうしてそんな大義名分で召喚したかな。


情報を絞ってもいつかはバレるんだし、本当に浅はかとしか言いようがない。



居残り班の中から冒険者になる者が出て、まずは魔物から殺しに慣れようって集団が組織された。


さすがにいきなりの人殺しはハードルが高かったらしく、戦闘班も今では魔物退治をやっているとか。


なので隣国からの侵略軍は、この国の兵士がなんとか対処しているらしい。


皆が殺しに慣れるまでに侵略が進行しないように、ちょっと間引きをしておいた。


久方ぶりに行使する、最上級広範囲殲滅魔法はかなりの発散になった。


いやぁ、スッキリしたな。


野営中の侵略軍の半数は消滅したけど、それぐらいは良いよね。


さて、そろそろ元の世界の色々が懐かしくなった頃合。


商売開始といきますか。



売れた売れた、ひたすら売れた。


誰も売買スキルを取らなかったようで、そいつで元の世界の物品の買い物がやれたと言えば、皆が残念がった。


そうして皆が欲しがった。


国支給の金貨やら、冒険者で獲得した銀貨やらで、かつての世界の品々は売れていく。


もちろん、ぼったくり価格です。


とりあえず全部売って、またスキルで買って、また売っての繰り返しで大金を貯めよう。


そうしたら元の世界に戻るのも良いかも知れない。


ああ、ぼくは元々魔術師なので、世界間転移魔法も使えるからさ、戻ろうと思えばいつでも戻れるんだ。


ぼくが善意の人なら連れて帰るのも良いだろうけど、生憎とそんな善良じゃない。


いかに契約したとて無い袖は振れないだろうから、タダ働きになる可能性も高い。

しかも、魔法の使い手ってのがバレちまうし、秘密を守れそうにもないからだ。


だから戻る時には独りで戻るつもりだ。



かれこれ3年が経過し、ぼくは冒険者ごっこの真っ最中。


戦闘班は半数が死んだらしく、居残り班の中から追加人員が送られて、今でも戦っていると聞く。

あいつらは今でも国王の言葉を信じているようで、隣国の人間を魔族のつもりで殺しているらしい。


洗脳でもされたかな?


見た目が同じなのに納得とか変だよね。

だからきっとされたんだろうと思っている。

そんな彼らでも故郷の食事は懐かしいようで、何でも派手にぼったくりでも売れるんだ。

だから金に困らないから冒険者ごっこって事。


不思議に思わない暗示の元、ぼくは今日も売りさばく。


ピザ金貨1枚とかさ。


10万円相当なのによく買うもんだよな。


金貨1枚あればピザとか50枚も買えるってのに、誰もスキルを取らなかったから買えないんだ。


そして金貨10枚で100万円の札束となっていく。


さあ皆よ、懐かしい食事を食べてまた人殺しに向かうがいい。


そしてぼくの為に稼いでドンドン買ってくれ。


そしてぼくはいつかあの世界に戻り、田舎で悠々自適に暮らすんだ。


みんな異世界で死ぬまで過ごすけど、ぼくは元の世界で死ぬまで過ごすよ。


だからもっともっと買ってね。


カラアゲもあるよ~♪


異世界召喚されたとて、ぼくは全然困らない。


-----


魔法は科学です



かつて僕は魔法を使っていた。

それは恐らく前世の記憶。


産まれた時にへその緒に細工をして、それが魔力タンクになるとか聞いた。

だからそのプロセスを経ない人は外科手術で魔力プラントを埋め込まなければならなかったとか。

ちょうど僕が産まれた頃から採用された、へその緒利用の魔力プラント方式は、当時まだ完全に確立していなかったにも関わらず、僕の両親はそれを施工した。

そのせいか分からないけど、僕の魔力容量は他の人達よりも多かったけど、その為に戦争に利用されたんじゃないかと思っている。


そのうち魔力プラントも進化して、ヒトの遺伝子に組み込まれるようになり、僕の方式はすぐに廃れた。

それでもへその緒式が決して悪いからではなく、単にもっと簡単で多くの人に適用されるからだった。


でもな、遺伝子改変は諸刃の剣だったんだ。


僕が戦争で死んだ頃、遺伝子改変式魔術師は全盛期を迎えていたけど、どういう訳だか早死にするみたいだった。

僕より年下の魔術師なのに年上に見えたり、まだ青年のはずなのに老眼になったりしていたけど、その頃には大多数がその方式だったが為に、それは目立たなかったんだ。


逆に僕のほうがあんまり年を取らないと言われていたぐらいだった。


そんな僕も老年となったものの、壮年ぐらいにしか見えなかった事もあり、戦争に無理矢理送り出され、当然のように息切れして敵に倒された。

その敵も遺伝子改変タイプだったようで、もう僕のような方式は既に居なくなっていたようだった。


あれで終わりと思ったんだけどなぁ……。



体内に魔力を感じない。


産まれて3年、僕のかつての記憶が蘇り、どうやら転生らしいと思ったものの、かつては当たり前のように感じていた体内魔力を感じる事が出来ず、非常の手段を採ろうと思った。

今更へその緒作戦はやれないものの、虫垂を魔力臓器に改造する為の研究を生かしてみようと思ったんだ。


この研究は当時、派手に異端だったらしく、それで無理矢理戦場で殺そうと思われたのかも知れない。

支給された魔力回復薬が、ただの色付き水だったから恐らく間違いないはずだ。


ともあれ、かつては異端と呼ばれたけど、魔物での成果は確かにあったんだ。

それを貧民街の子供に施したのがバレて、うやむやのうちに戦死へと導かれた。

そうして最後の戦いの頃、貧民街で魔力持ちの少年が見つかったニュースが巷を騒がせていた。


もしかして異端と言いながらも、素知らぬ振りして僕の研究結果が盗まれたのかも知れないと思ったけど、所詮は後ろ盾の無い僕だったから、どのみち無理だったと思っている。


まあそんな記憶が僕を後押ししたんだ。



創造魔法は想像が命。


なんかダジャレのようだけど、そいつは真理だ。

死亡した人を解剖して知った、体内の魔力容器を想像し、

虫垂の場所にそれを生成しようと試みる。


これは大人には使えない……と、言うのも虫垂が新しい程に

魔力容器が大きくなるという結果……こいつも人体実験で分かった。

現在3才の僕だけど、今なら虫垂はかなり新しいはずだ。

遺伝子改変型の人達の魔力容器は心臓の横にあり、それが心臓に負担になっての若死にの可能性があったので、虫垂利用の魔力容器はへその緒式に近い性能を思わせた。


この世界では3才で魔法の才能が調べられ、僕の村でそれに該当する人は居なかったけど、隣町ではある女の子に反応があったとか。

本当は僕も検査までに施術すれば良かったんだろうけど、記憶が戻ったのが検査の後だったから仕方が無い。


まあ、地味に生きるなら知られないほうが良いかもな。



3日寝込んだ。


意外と身体への負担が大きかったようで、かつての研究成果では生存率に関わった事項が、身体が若い場合はこれぐらいの症状で済んで幸いだった。

もっと楽だと思ったけど、3才なら堪え性もあんまり無さそうだし、仕方が無いのかも知れない。


それはともかく、僕は魔力持ちになれた。


後は養生してから魔力容器を鍛えていかなければ。

それにしても、この世界の時代がやたら古そうだけど、どれぐらいなんだろう。


かつて、38世紀だったあの頃とは比べモノにならないこの世界。


生活魔法は全員が使える代わり、それ以上に使えるのは貴族の一部と聞いた。

つまり、魔力持ちじゃなくても生活魔法は使えるらしく、その事から魔力持ちと言うのは、魔力(容器)持ちという意味なのかも知れないと思うようになった。


確かにかつてでも魔力容器が無くても微弱の魔法は使えており、それは体内のヘモグロビンに微量含まれる魔素から行使が可能だと言われていた。

その変わり、使い過ぎたら身体を壊すとされ、あくまでも単に使えるだけに留まっていた。


まあ、生活魔法と言っても、ライターや照明や送風機のある世界では、お遊びとしての用途しか無かったけど。



どうやらこの世界、かつての世界と関連があるらしい。


GMS……グローバル・マップ・システムという、全球36ヶ所の静止衛星活用の、魔法でアクセス出来る脳内マップ生成魔法が使えたからだ。

ただ、所々が虫食いになっており、かつては数千年使えると言われた人口衛星がかなり老朽化しているようだ。


元々は6ヶ所で良かったものが、詳細な地図の為に36ヶ所になっていたのが、今では4つぐらいしか起動してないような感じになっている。


この魔法は大気中の魔素で増幅する方式化になっていて、

体内の魔力は行使の切欠と、脳内展開の地図の生成に使われる。

なので少しでも魔力を持っていれば、このシステムにアクセス出来たんだ。


つまり、これが使えるって事は、未来転生なのだろう。


それも数千年未来の。


つまり、あの戦争は激化して、人類滅亡戦争になったのかも知れないな。



推測は大体あってた。


衛星に残されていたメモリから、僕が死んでからの歴史が

僅かに記録されていた。

それはこの時代の人達には謎とされていたから誰にも教えるつもりは無いけれど、かつての文明は戦争によって完全に破壊され、1回氷河期を経て人類はかなり退化したらしい。


そうして今、やり直しているところなのだろう。


歴史は繰り返すと言うから、またぞろ発展しては元の木阿弥になる可能性がある。

でもまぁ、そんな事は僕には関係無いので、この時代に即した人生を営めば良いと思っている。


世界の魔法の程度もかなり悪いみたいだし、あの洗練されていた魔法技術も表に出したらヤバいだろうな。


うん、僕はバレないように地味に生きるべきだろう。


急激な技術の発展は、格差によって戦争になり、ふりだしに戻る可能性が高い。


僕もそんな原因で早死にしたくないし。


魔法は科学だけど、それは誰にも教えない。


-----


放逐された出来そこないはギフトの力で強くなる



成人15才で神からの祝福を受け、誰でもスキルを授かる世界。


彼は【吸収】という、変なスキルを授かった。


一般的に【吸収】を持つ魔物はスライムであり、それと同じスキルと思われて実家から放逐される。


確かに効果は同じようだったが、得られるモノは違っていた。


いや、もしかしたらスライムも同様かも知れないが、それがスライム本体には生かされないので、本当にそうかなんて誰も分からない。


ともかく彼は、何でもかんでも吸収し、それが持つポテンシャルをひたすら我が身へと追加した。


壊れた盾からは防御力を、壊れた剣からは攻撃力を。そして回復薬からは回復魔法を。


実家から放逐された少年は、誰にも知られないままに最強へと到る。






かも知れない。



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