08話 強引に同居する幼女
【3日目】
「ヤヨイおねーちゃん、起きて……
起きてよぉおねーちゃん」
鳴き声で目覚める。
部屋の中がほの明るく日の出の時刻と知る。
……なんだか下半身が不快だ。
「ん、なに?」
「おねーちゃん、ごめんなさい……
おねしょしちゃった……どうしよう、ママにおこられるよぅ……」
飛び起きると漂う異臭を思いっきり肺に詰めて深呼吸。
これが幼女のおねしょ、なんて甘美な異臭!
ソフィアちゃんの頭を撫でてなだめながら。
「大丈夫、大丈夫。
服を脱いで着替えようか。
一人で出来る?」
「うん」
ソフィアちゃんがパジャマと格闘している間に窓を開けて、布団に<布類清掃>、自分に<着衣洗浄><身体洗浄>をかける。
あ、魔法かけるのに服を脱ぐ必要ないや。
「おねーちゃん、ぬげたよ」
そこにパジャマを脱いだ天使がいて思わず膝まずく。
「おねーちゃん、どうしたの?」
「ななななんでもないよ!
からだをキレイキレイにしようね」
肩に手を置いて<身体洗浄>、パジャマに<着衣洗浄>の魔法をかける。
「わあっ!
すごいおねーちゃん!」
「しーっ!」
手に人差し指を当てるとソフィアちゃんも真似をして「しーっ」ってする。
クスクス笑いあって、二人で布団にもぐり込んで寝直す。
朝食が終わると、村長に呼ばれたお医者さんがダリアちゃんの母親を診察に来た。
お医者さんの話だとしばらく安静にしていれば完治するとのこと。
診察後にお医者さんも交えてソイネ家とソダーノ夫婦にハウスダストの話と、家の改修の話をする。
ダリアちゃんの母親に泣いて感謝されて、その母親は村長の家でしばらく静養の為に泊まることになった。
村長の妻が「困っていたらちゃんと言いなさい」とソイネ母娘に優しく叱っていた。
薬を処方したお医者さんを村長と一緒に玄関先で見送った後。
「あの母娘は、まだダリアが赤ん坊の時に隣の国の父親から逃げて来たんだ。
痩せ細ってボロボロの姿でな」
そう村長は呟いた。
「父親の虐待……ですか」
「子供なのに難しい事言うなぁ……まぁそうだ。
匿うのにあの家に住んでもらったが仇となったな」
「父親と一緒にいたらいずれ殺されていたかもしれないので、
結果オーライですよ。
しかしあの家は酷すぎませんか。
実はあの母娘を村八分にしていたとか?」
「待て、誤解だ!
皆で食べ物や服を分けていたよ。
でも母親が謙虚過ぎてな……、
家をどうにかしようって話になると逃げちまう」
村長はふんっと鼻を鳴らして笑う。
「ヤヨイ様はどっか子供らしくないなぁ。
アンタの師匠はどんな教育をしたのか気になる。
ウチのソフィアも今から鍛えるとアンタみたいに強くなれるかね?」
女は愛嬌ですよ、とか適当な事を言ってごまかす。
「あのっ、ヤヨイ様。
こっこれはどういう状況でしょうか?」
「しばらくご厄介になるから、これからは私が食材を買うよ」
村の肉屋と八百屋で買い物をした帰り。
ダリアちゃんを連れて歩く。
<荷物収納>の魔法でショルダーバッグに食材を入れながら考える。
日用品も必要だなー、雑貨屋にも寄るか。
いけねぇや、昨日村長から預かったカゴがそのままバッグに入れたままだった。
「ですからどうしてヤヨイ様が私の家に?」
「おばさんとダリアちゃんと私の3人が村長の家に泊まるのは迷惑でしょ。
かといってダリアちゃん一人にできないし。
だから私と一緒にいた方が安心でしょう?」
村長夫婦の説得は簡単だったけど、泣いてすがるソフィアちゃんをなだめるのは大変だった。
「もしかして……私と一緒にいるのはイヤ?」
瞳を潤ませてダリアちゃんを上目遣いで見上げる。
「はわわ……そそそそんな事ないですっ!」
「よかった!
それに私、ダリアちゃんと早くお友達になりたいからいいチャンスだと思って!」
無邪気に笑う俺。
ウソ泣きに輝く笑顔。
美少女の持つ最強の武器を使いこなす俺!
「ヤヨイ様……」
「ヤヨイ様って言うの禁止!
今度ヤヨイ様って言ったらダリア様! って返すから」
「でもヤヨイ様は、
強くてカッコよくてすごい人だから……」
「なに、ダリア様!」
「はぅぅぅ……」
三つ編みをいじってモジモジするダリアちゃんは可愛くて見ていて飽きない!
でも眺めていたらまた昨日みたいに固まるので強引に手を繋いで帰る。
ダリアちゃん家で夕食。
「すごく美味しいよ、ダリアちゃん!」
「あ、ありがとう、ございます。
ごめんなさい、その……簡単なスープとサンドしか作れなくて」
「すごいよ、料理が上手いんだね!」
「はひ!?
そんな……ママと比べたら全然です……」
彼女が買い物のお礼にと食事を作ってくれた。
そりゃあ主婦歴の長い村長の奥さんに比べれば質素だけど。
前世のコンビニ弁当の毎日に比べたらご馳走だ。
だって幼女が一生懸命作ってくれた食事だぞ!
「そうだ、畑は魔法でなんとか立て直せそうだよ!」
「そう、ですか。
あ、ありがとう、ございます」
料理を作ってもらってる間、俺は魔法で畑の修復をしていた。
ダリアちゃんのエプロン姿を眺めていたかったけど。
「ダリアちゃんは本読むの好き?」
「はい、すき、です」
「ダリアちゃん……」
「はい!?」
「さっきから私の名前、呼ばないようにしてるでしょう?」
ダリアちゃんを意地悪く睨むと。
「ふぐぅ……」
テーブルの対面の少女が萎れる。
「私達同じ歳なんだよ?
『様』とか付ける方がおかしいって!」
「……ヤヨイ…………ちゃん」
「はーい!」
わざとらしいぐらいに陽気に手を振ると、ダリアちゃんは俯いてしまう。
うーむ、ガードの固い女の子だ。
でももどかしい感じもちょっと楽しい。
これがモテる知り合いがよく言ってた「攻略し甲斐のあるコ」かな。
食事後に問題が浮上する。
「えっ!? お風呂ないの?」
「はい、みんな週一回川で身体を拭くぐらいですよ」
「村長の家にはお風呂あったけど」
「村長さんは裕福ですから。
魔法も色々持っておられますし」
どうりで、パーティの時に皆体臭が強いと感じたのはそういう事か。
抱き着いてくる幼女の体臭は大歓迎だったけど。
<身体洗浄>の魔法って実はレアなんだな。
とりあえず自分とダリアちゃんに<着衣洗浄><身体洗浄>の魔法をかけて済ます。
お風呂でキャッキャウフフとかしたかったな、と思いながら。
パジャマ代わりの亜麻布の丈の長い肌着に着替えると、今度はダリアちゃんが驚く番だった。
「え、本気ですか!?」