07話 告げたい幼女
「あの、ヤヨイ様……これは?」
「ああダリアちゃん、帰ってきたの」
夕方。
魔法疲れで裏のテラスで休んでいるところへダリアちゃんがおずおずと帰ってきた。
MPはまだ余裕があるけどやはり身体が魔法を使うことに慣れていないらしい。
疲れた。
「これ、誰の家ですか?」
「多分100年前のダリアちゃんの家の姿だよ」
廃屋同然だった家が新築に変わったのだから、すぐに理解できないのは当然。
「はぁ……あのこれ全部魔法で直したのですか?」
「うん、まあね」
「す、すごい……!
い、家の中見ていいですか?」
「あはは、ご自由に。
ここはダリアちゃんの家だよ!」
あ、いけね。
家に飛び込もうとする少女の腕を捕まえて<衣類修繕><着衣洗浄><身体洗浄>の3つの魔法を急いでかける。
ダニやシラミをまだ持ってる可能性があるからね。
美少女はそんなモノとは無縁だと思いたいけど!
「わあ、家も家具も服も新品みたい!」
落ち着いて見えた少女が今は歳相応にはしゃいでいる。
「布団もふかふかだー」
布団に飛び込む。
と、すぐに飛び起きて二階へと駆け上がる。
「あのね、二階はね、
ホントにボロボロでずっと使ってなかったんだよ!」
ああ、それで二階には家具が少なかったのか。
「わあ、普通の家みたい!」
そのセリフにちょっと笑って、同時にソイネ家の苦労が伺えて悲しくなる。
ダリアちゃんは家中のドアを開け放して走り回って、はしゃぎ疲れると。
「あれ、身体と服から良いニオイがする!」
自分と服がキレイになっている事にやっと気が付いた。
「畑、滅茶苦茶にされたね」
「うん。
ママ、身体が弱いのに無理して……。
畑を見てこようって家を出たら倒れちゃって」
生き残った賊は丸裸にして村から追いだしたが、こんな事なら全員殴り殺せばよかった!
二人で並んで二階の窓から畑を見ながらトークタイム。
ダリアちゃんと親密度を上げるチャンス!
こうして並んでみると、彼女の方がほんの少しだけ俺より背が高い。
「お父さんはいないの?」
「パパはダリアが生まれた時からいないよ。
ずーっとママと二人」
「大変だったね」
「ううん、村の人達が助けてくれたから。
この家もタダで貸りてるの」
「昔からこの家はボロボロだった?」
「うん、雨漏りしたし開かない窓ばっかりだったしホコリはすぐたまるし。
文句を言うとママが怒るの。
家に住めるだけでゼイタクだって」
村も放置していた廃屋をあてがったんだろうなあ。
二人が借りた時点でハウスダストの巣だったんだろうけど。
ダリアちゃんが平気なのは不思議。
家の掃除は母親が<部屋清掃>の魔法でしていたが、体調を崩してから出来ていなかったらしい。
ダリアちゃんも母の看病と畑の手入れに料理と忙しく、掃除どころではなかった。
家はますます汚れていって、そして悪化する母親の病状、という悪循環。
というか。
普通の幼女では荷が重い量の仕事をよくこなせたね、すごいよダリアちゃん。
「あ、村長さんのところに戻らなきゃ。
ママが心配しちゃう!」
「そうだね、
おばさんの着替えを持っていってあげようよ」
並んで村長の家に向かう。
日が暮れた道は暗かったけど、見上げると満天の星がキレイだった。
「あ、そうだ。
あの、ヤヨイちゃ……様?」
「ん、なになに?」
「どうして朝はダリアの家に来ていたんですか?」
「あー……」
そうだ、本来の目的を忘れてた。
「昨日、言えなかったことがあったから」
「なんでしょう?」
「うー…………」
こんな静かな中で改めて言うのは恥ずかしい。
できればパーティの中のあのテンションで言いたかった。
「その……お友達に……なってくれませんか……ってその、うん」
「はぅ、ヤヨイ様がダリアちゃんと?」
好きな女性に告白する時と同じぐらいドキドキしている!
その結果は「ごめんなさい」されて、「カノジョなんてもういらねーよ」とか捻くれて童貞の道を突き進んだワケだが。
「イヤだったらイヤでいいよ。
その、せめてヤヨイって呼び捨てにして欲しいな……って」
「あ、ヤヨイ様はお優しいから村の皆さんとお友達になってるんですね!」
「違うよ、今はダリアちゃんだけ」
「えええ!? どうしてですか?
ダリアなんてなんの取り柄もないし、
私がレベル50のヤヨイ様と一緒に歩いてる事自体……ダメだと思います!」
ダリアちゃんは、
『職業:村人
レベル:13』
なのを朝に母親を見た際に一緒に確認した。
……職業が村人ってなんだろうな。
って今まで一緒に歩いてたのに急に後ろに下がらないでー!
また逃げられるぅ!!
必死に手を伸ばして彼女を捕まえて。
「初めて見た時から、その、仲良くなりたいって思ってたから!」
まるで愛の告白そのものみたいになりましたよ!?
「はぅぅ……///」
また耳まで真っ赤になって俯いて固まってしまう。
大きな瞳をくりくりと動かして視点が定まらない、照れた表情が可愛いくて楽しい。
ずっと見ていたいけど夜道でずっと向き合っている訳にもいかない。
こんな時はどうすればいいのかな?
女の子の扱いなんてわからないよーっ!
足元に座る獅子ナビに聞いても無理だろう。
「あくまで魔王討伐のナビなので、わかりません」
心を読むなっつーの。
「と、とりあえず遅くなるとみんな心配するから。
歩こうよ」
さりげなく手を繋いでダリアちゃんを引っ張って歩き出す。
今女の子とすごく自然な感じで手を繋げたぞ!
前世童貞の俺としてはすごい快挙!
…………。
しかし何を話したらいいかわからず会話が無い。
そして手汗がすごい。
ありえないぐらい手がしっとりしてる!
これじゃダリアちゃんに嫌われるかも!?
この身体は手汗が酷いのかよ、どういう設定ですか女神様。
まさかダリアちゃんのような美少女が手汗なんかかくわけないし!
結局会話もなく村長家に到着。
「ダリアちゃん、おかえり。
ママの目が覚めたよ!」
その村長の一言で客室に飛び込むダリアちゃん。
「ママ!
もう大丈夫なの!?」
抱き合う母娘を邪魔にならないよう左手でドアを閉める。
手を繋いでいた自分の右手の手のひらの匂いを嗅いだり舐めたりしていると、腰に抱き着かれた。
ソフィアちゃんだ。
「ヤヨイおねーちゃん、いっしょにねよー!」
物怖じしない良い子だねー。
今夜もぷにぷにソフィアちゃんを抱いて寝よう!
何度も言うけど幼女同士だから一緒に寝るのは何も問題ないんだ!