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04話 ツンツンお嬢様幼女

「ちょっと待ちなさーいっ!

 ヤヨイ=アイリスーッ」


 お付きの者を従えて豪奢なドレスの少女が広場を横切り歩いてくる。

 ダリアを押しのけて俺の前に立ちはだかった。


「キャシー様だ!」


「まあ、また村に降りてこられたわ!?」


「珍しい事があるもんじゃ!」


 村人達は騒ぐのを止めて、声を押し殺して囁く。

 そして事の成り行きを見守っている。


 ワンサイドアップのピンク髪で俺より頭一つ分背が高い。

 吊り上がった眼の中の、宝石のような赤茶色の瞳が見下げてくる。

 透けるような白い肌の眉間に皺を寄せていなかったらきっと超絶美少女!


「な、なんですか?

 すごくお怒りのようですが」


「そりゃあ怒りますわよ!

 どうして私、キャシー=フライシャーを差し置いて、

 村人を先にお助けになったのですの!?」


「それは。

 貴女が一番元気そうでしたから」


 パシリ!

 高価そうな扇子で頭をはたかれた。


「フライシャーのお嬢さん、

 お止め下さい!」


「村長は黙っていて。

 ヤヨイ、貴女はお強いからいいでしょうけど!

 ですが私は……」


 叩かれたのは別に痛くない。

 でもその言葉とワナワナと震える彼女を見て気付いた。


 なんて俺は浅はかだったんだ!

 少し考えたらわかる事だったのに。


「すみません、

 一人で一番心細かったのは貴女でしたよね……」


 いくら気丈に振舞っても子供。

 何て事だ、か弱き幼女こそ真っ先に助けるべきだったんだ!

 こんなんだから俺はいつまでも童貞なんだ……。


 申し訳なさと後悔と自分のバカさ加減にあきれて、自然と涙が一筋落ちた。


「なっ、何を仰ってるのかしら?

 領主の娘に対しての無礼を怒っておりますのよ!

 泣いて謝れば済むと思ってますの、これだから子供は」


 元・大人だから見える部分もある。

 自分の本当の気持ちを隠すために反対の言動を繰り返してしまう少女。 

 それでもなお気丈に振舞うキャシーちゃんの姿が誰より悲しい姿に見えた。


 俺では彼女を慰めたり癒す言葉も見つけられない。

 だって子育てもした事ないし、子供の扱いにも慣れていない。


 いけない、と思いつつも出来ることはひとつだった。


 キャシーちゃんの胸に飛び込み、やさしく抱きしめた。


「ごめんなさい、キャシーさん。

 ごめんなさい……」


 引っ叩かれても従者達にボコられても、声が涸れるまで謝り続けようと決意していた。


「やめなさい、放しなさい!

 なんて無礼な庶民なのっ」


 最初は強く抵抗していたキャシーだったけど、徐々に弱まっていき。


「うう、ひっく、ひっく……」


「キャシー様!?」


「うわああああああん、

 ホントにホントに怖かったんだからああああ……」


 今度は俺が抱き返された。

 息が出来ないほど強く強く胸に押さえつけられる。

 少しだけ成長中の胸に。


 こんな場面で不謹慎だとは思うけど。

 優しく高貴な香りがしますよ!

 あーずっとこうしていたーい。


 キャシーを抱いていた腕を組み直そうとする。

 あくまで自然に、自然に。

 こんな状況だから相手の腰あたりに腕を置いても問題ない!

 事故で臀部に手が当たってもしょうがないじゃないか!!

 

「痛たたっ!!!」


 腰を過ぎたところで手の先に激痛が走る!


「女神メル様のお計らいで性犯罪行為をしようとすると、腕が変な方向に曲がります。

 皆嫌がるでしょうね、腕がありえない方向に曲がってる勇者は」


 足元にエジプト座りで俺を見上げるダルマがいた。


「いらねーよ、そんなお計らいは!」


 周りに聞こえないように小声で文句をつける。


「相手が同意の上ならある程度赦されますよ」


「どの程度だ?」


「それはご自分でお確かめください。

 今回は初回という事で大目に見て、手を元に戻しましょう」


 手の痛みがスッとひく。


 おいおい、どんな曲がり方してたんだよ!?


 意図的に下げた腕を誤魔化す為に、キャシーの背中を優しく撫でた。

 無論、この傷ついた姫様をなだめる為でもから!


 キャシーちゃんの気持ちが治まるまで二人は抱き合っていた。

 村の人達もその間、優しく見守ってくれていた。


「キャシー様」


 彼女の嗚咽が途切れるのを見計らって声をかける。


「んんっ……なんですの?」


 お互い抱きしめた腕を緩めて顔を向き合う。

 顔は真っ赤で涙でテカテカ光り、目は充血。

 おまけに鼻からは透明の粘液が伸びて俺の金髪と握手している始末。


 美少女の鼻水ならオッケーよ!


「今度もし貴女がピンチになれば、

 私が真っ先にお助けに参ります!」


「まぁ……それは本当ですの!?」


 ハンカチは持っていないので服の袖で顔を拭いてあげる。


「約束です、キャシー様」


「キャシーでよろしくてよ。

 こんな可愛い子供に守られるなんて変な話ですけど。

 よろしく頼みますね、ヤヨイ!」


 俺から見ると貴女も子供で幼女ですけどね。


 その幼女が少しかがんで俺の前髪をかきあげると。

 おでこに軽く優しいキスをくれた。

 綿飴よりも柔らかく、それでいて触れた個所が熱くチリチリとこそばゆくなって。

 嬉しさと照れで体中が熱くなってきたっ!


「よし、パーティ再開だっ!

 フライシャーのお嬢さんも一緒に食べて騒ぎましょうぜ!」


 皆がキャシーちゃんと俺を取り囲んで陽気に騒ぐ。


 テンションが上がった俺は、ダリアちゃんの事をすっかり忘れていた。

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