トゥルーエンド1
~7日目までのあらすじ~
転生した主人公・桝 茂樹は美少女ヤヨイとして転生。
アカニ村を盗賊から守り、村の少女 ダリアに一目惚れして彼女を助ける。
ダリアの母親を助けたりなんやかんやで、ダリアの家に居候することに。
そこへキャシーが執事を連れて訪問。
キャシーの別荘へダリアを連れて、楽しく過ごす。
楽しみ過ぎてお風呂で失神したヤヨイ。
そこから分岐した別の話となります。
【7日目 ――本編 14話から分岐】
昨日、キャシーちゃんの別荘のお風呂で倒れて気絶して。
目覚めたらキャシーちゃんとダリアちゃんに囲まれて寝ていた。
二人を起こさないようにベッドから抜け出る。
途中で二人の可愛い足の裏に頬ずりもしつつ。
外の空気が吸いたくて庭に出ると。
タンクトップ姿の男性が華麗に剣を振るっていた。
あれは……爺!?
鍛え抜かれて精練された筋肉が盛り上がる上半身が美しい。
細マッチョだったのか。
気になったので<能力可視>でステータスを見る。
「職業:執事
レベル:255」
なんとレベル200越え、執事なのに!?
滅茶苦茶紅茶を入れ捲くるとかしたとか。
俺は側に落ちている枝を拾う。
レベル255がどの程度の強さなのか確かめたくなった。
<能力抑止>の魔法を解除して執事に近づく。
「執事さん、いくよー!」
俺は無邪気に言うと枝を振り下ろす。
執事は軽く避けると木刀で小手を打った。
手が痛い。
枝を振り下ろした撃圧で芝生が少しえぐれる。
「さすがオルトスを退治したお方。
しかし朝の挨拶としては礼を失しておりますな、ヤヨイ様」
「あははー、すいません。
レベル250の人ってどのくらい強いのかなーって」
「ふむ」
ジッと俺を眺める執事。
「では勝負をしましょう。
その枝を私に当てたらヤヨイ様の勝ち。
当たらなかったら私の勝ちです。
いかがですかな」
「よーし!」
素早さは絶対こちらが上なので勝てる!
力を入れないようにすればこの男の身体が爆散することはないだろう。
少し吹き飛ぶかもしれないが、さっきの小手のお返しだ!
しかし俺の思惑通りにならず、いくら枝を振り回しても執事には当たらない。
紙一重で避けられる。
「たーっ!」
捨て身の一撃も避けられて目の前の木の葉が吹き飛んで丸裸の木になった。
「あれー?」
「よく観察すればヤヨイ様から恐ろしいほどの力と魔力を感じます。
レベル50は嘘ですな。
しかしどんな力も使い方を知らなければ無力に等しい」
ただの小うるさいオッサンだと思っていたが、今の彼はすごく説得力がある。
「執事さんも……」
「ブラドス=カザロフです、ブラドとお呼びください」
「えっと、ブラドさんもただの執事じゃないよね?」
「元はオキサー国の騎士をしておりましてな、
引退後にお嬢様の護衛としてご領主様に登用されました。
……しかし盗賊が襲ってきた時はミスをしてしまい……」
キャシーちゃんが捕まった時の話をしてくれたが、まったく頭に入って来ない。
俺は考えていた。
俺は剣道はおろか、剣術なんて全然知らない。
薩摩示現流の知識があっても実際使えるわけじゃない。
どんなに大きな力を持っていても、戦闘を知ってる元騎士に簡単に負けてしまう。
これでは。
魔王軍の先頭で戦う魔王に勝てる訳がない。
自分に今必要なのは戦闘の知識と経験ではないか。
「あ、ヤヨイちゃんいたー!」
「こんな所にいたのですの、もぉっ!
身体のほうは大丈夫なのかしら」
白いシュミーズを来た二人の天使の声で我にかえる。
そして自然に土下座をして言った。
「ブラドさん、弟子にしてください!」
「ほぇ!?」
状況のわからないダリアちゃんが間の抜けた声を出す。
「爺は一昔前は剣鬼として恐れられ、数々の武勲を立てた騎士ですもの。
まあ当然よね!」
何故かキャシーちゃんが偉そうにしている。
「ということで、爺。
私の恩人のヤヨイの頼みを聞いてあげなさい!」
こうして私はブラドさんの弟子となった。
【10日目】
最初は別荘に泊まって師事していたが、キャシーちゃんが遊びに来ると集中できない。
ついお風呂に入って遊びたくなる。
なので山の中に小屋を作って住み着いた。
ダリアちゃんは母親が完治するまで村長の家に泊めてもらう事になる。
母親が治れば母娘二人で新しくなった家にゆっくり住めばいい。
師匠には全てを話した。
自分が勇者である事や能力が最大である事、前世の事も全て。
「では<能力抑止>の魔法でレベル50に抑えて、私に勝てるようになりなさい」
それからは地獄の、それでいて充実した修行の日々を過ごす。
【12日目】
野山を駆け回っているとスライムやハーピー等の下級魔族に出くわす。
レベルが低すぎて戦っても剣の特訓になりはしない。
威嚇してくるヤツもいるが無害なので放っておく。
師匠は別荘よりも山小屋にいる時間の方が長くなった。
寝泊りもしているのでほぼ山小屋で生活していると言っていい。
キャシーちゃんの側にいなくて大丈夫なの?
【15日目】
「ヤヨイちゃん、髪切ったの?」
「うん、邪魔だからね」
長いツインテールは戦いの邪魔になる。
当たり前の事だ。
キャラメイクをした俺は何を考えていたんだろう。
「男の子みたいでカッコイイね!」
「あはは、ありがとうダリアちゃん」
ダリアちゃんは時々お昼にお弁当を持って山小屋に遊びに来る。
師匠のブラドさんがやって来る。
お昼休みはお終いだ。
立ち上がろうとすると。
「待て、動くなヤヨイ」
師匠が険しい顔で動きを制する。
「魔族が飛んで来る。
ここらをいつも偵察しているヤツだな」
「……師匠、魔族の動きがわかるのですか?」
「何だ、索敵のやり方も知らなかったのか……やれやれ」
師匠に<周辺結界>の魔法の使い方を教えてもらう。
「最近大人しくしていた魔王が再び動き出した。
四天王の一人が近くまで来ているという話もある」
「なんですって!?」
「偵察のヤツにお前を見られた可能性があるな。
村人らしいヤツが山を駆け回って剣を振っていたら、
そりゃ怪しむだろう」
「ううっ……全部俺の不始末ですか」
「ヤヨイ、この村は好きか」
「はい」
「では、早いうちに旅に出よう。
それもド派手に、四天王がこの村に気付かず通り過ぎるぐらいに」
「はいっ!」
「ヤヨイちゃん、どこか行っちゃうの?」
振り向くとダリアちゃんが寂しそうな顔をして目を潤ませている。
「うん、ごめんね。
せっかくお友達になれたのに」
「ううん。
ヤヨイちゃんはこの村で静かに暮らせる人じゃない、
特別な人だってなんとなく感じてたから」
「ダリアちゃん……」
「でも遠く離れても、永遠に友達だよ!」
「うん!」
お互い両手で固く握手をする。
夜になって師匠と二人でアカニ村を離れた。




