03話 照れ照れ自己紹介幼女
「なんだぁテメエは!?
というかこんな白いドレスの娘なんかいたか??」
武器を構えた盗賊がのっしのっしと歩いて近づく。
うむ、これは。
130センチの低い目線から見る大人というのは2倍の身長に見えるもんだな……。
これはちょっと怖い。
「怖がってますね」
ダルマが台車から降りて側に来る。
「そりゃ怖いよ!
ケンカも子供の頃からしてないし、しかも殺し合いだぞ!
相手もデカイし」
「では<対人>から<能力可視>を選んでください」
何が「では」なのかわからないが、とりあえず言う通りにする。
なんせチュートリアルだからな。
「あ!?」
盗賊の頭の上にパネルが現れて
『職業:盗賊
レベル:24』
と、表示されてその下に貧弱なステータスが並ぶ。
「これは……ワンパンレベルか」
「さようで」
「じゃあ行くぞ、ダルマ!」
この数値の差を見て俄然強気になる、現金な俺。
「同じく<徒手空拳>から<徒手空拳>を選んで殴ってください」
そのまんまかよ、と思いながらボタンを押して盗賊を殴る。
男は変な声を出してすっ飛んでいき、村の家の壁を突き破って消えた。
どうやらここは村の中心の広場らしい。
広い空間の外に家が並ぶ。
「あ、忘れてました。
<戦闘>から<防御>の、<俊足舞踏>と<遅延可視>を選んでください。
魔法での戦闘は重ね掛けが基本ですからね」
ポンコツAIかな。
「「「なんじゃあああ、このガキがあああ!」」」
大勢の盗賊がこちらをめがけてすごい勢いで押し寄せる。
しかし蛮刀を振り下ろす手がとってもノロい。
一歩横に避けたつもりが。
スルスルっとフィギュアスケートのように足が滑り、盗賊7人の脇をすり抜けた。
なるほど、味方補助魔法の重ね掛けか。
RPGのゲームでは当たり前だな。
「おや、敵の槍がありますね。
それを使いましょう」
「人を斬って殺すなんてイヤだぞ」
「柄の方でもかまいません。
<戦闘>の<直接攻撃>から2つ、
<補助>の<技巧上昇>と、
<槍>の<神将操突>を押してください」
ボタンを押して切っ先ではなく柄の方を敵に向けて構える。
うおおおお!
すごく槍を高速で前後にピストン運動させたくなってきたー!!
その衝動にまかせて槍を突き出すと広場にいた盗賊全員相手に100コンボを叩き出し撃退。
見張りの兵が居なくなったので、魔法を使って村人全員の枷を外すと、
「ありがとう!」
「まるで天使様だ!」
「あなたは救世主だ!」
皆ひざまずいてお礼を述べてくる。
お礼はいいけど「天使様」とか「救世主」と言われるとくすぐったい。
桝 茂樹として生きていた頃には、こんな大勢に感謝された事はもちろん無いからだ。
「お、おのれえええ、このガキめ!
ワシの部下達をー!」
モンスタークマに食べられながら放つ、盗賊頭領の最後の言葉だった。
食われながら言うセリフじゃないだろ。
そうだ、熊を忘れていた。
残りの盗賊は熊が全部食べてくれたようだ。
「<戦闘>の<魔法>から好きな魔法を選んでぶっ放ってください。
どれも強力なので獣なんかは軽く吹き飛ばせます」
「何でもいいって……うーん。
なるべく村に被害が出ないのがいいんだけど。
あるかな、ダルマ?」
「それなら電撃ですかね。
<魔法>から<電撃>、<小破電撃>でいいかと」
思念パネルのボタンを押すと、空から亀裂が入る。
大音量とともに電撃が落ちてモンスターベアは黒焦げで崩れ落ちた。
「チュートリアル終わりです。
お疲れ様でした」
側でちょこんと座ったダルマが告げる。
「ふぅ……、
楽勝だったのはレベルMAXだったからなのか」
「そうです、村人でもレベル30いけばいい方です」
「じゃあ魔王はどのくらいなんだ?」
「それは天界でも把握しておりません。
ただレベル200の宮廷騎士でも簡単に負かす、という話です」
「んむむ…」
聞きたい事はまだあったけど、村人が笑顔で駆け寄ってきたので中断した。
夜は村で熊肉パーティーとなった。
焦げた表皮を剥いでいい具合に焼けた肉の臭みを消すために、村中で色々工夫をして調理する。
ソテー、ケバブにお吸い物に鍋、パエリア等々が広場に並ぶ。
「今日の騒ぎにも関わらず、村に命の犠牲は無かった!
それも全てこの方のおかげ!!
村の小さな救世主、ヤヨイ=アイリス様に皆を代表して礼をしたい。
ありがとう!」
がっしりとした体格の豪気で陽気な村長が頭を下げると、村人が一斉に拍手を贈ってくれる。
名前は適当に好きなアニメキャラを並べただけなんだけど、自分の名として口にされると恥ずかしい。
お礼までされるとモジモジしてしまう。
「あ、どうも……ヤヨイです」
モジモジと挨拶をすると。
村の男子達を見ると、目がドッキンハートになっている様子。
俺がメイキングしたツインテ美少女だからな、しょうがない。
皮を被った夢見る少年達の為にもなるべく人前では美少女らしく振舞おう。
「遠くの街から騎士の弟子として魔法修行の途中、
偶然ここを通りかかった奇跡に感謝して今夜は飲み明かそう!
あっ子供たちはジュースでガマンしろよ、ヤヨイ様も!!」
テンションMAXで村中が笑い声をあげる。
村長には偽装ステータスに合わせてでっちあげた略歴を話した。
後で色々齟齬が出てくるだろうが、その時はその時。
村人が入れ替わり立ち代わりお礼を述べに来た。
8割の大人が「小さいのに偉いねえ」と頭を撫でて褒めてくれた。
大らかで細かい事を気にしない人達で助かる。
男の子達はみんな俺の前で顔を真っ赤にして緊張している。
うん、下にぶら下がってるヤツはどうでもいい。
営業スマイルで手を振って対応。
女の子達は俺が小さな女の子だからか、気安く握手を求めてきた。
田舎だけど女の子達の可愛さレベルが高くて幸せ♪
初めてだよー、こんなに沢山の女の子と手を握ったのー。
感動で泣けてきそう。
嬉しくて必要以上に手を握り返すと、興奮して抱きついてくる子もいる!
そして最後に来たのは、檻で話した黒髪のあの子。
「あの、
ありがとうございます、ヤヨイ様」
興奮する他の子とは違い、彼女は落ち着いて丁寧に頭を下げる。
いい子だー!
帰って身体を洗って着替えたのか、檻で見た時より美しく可愛い!
服が他の子と比べてほつれてボロボロなのが気になるけど。
「あ、うん。
タイシタコトナイヨ!」
逆にこっちが興奮して緊張してしまう。
「えっと、あのあのっ!」
「ヤヨイ様?」
「あ、ヤヨイって呼んでよ!
それより名前、聞いていい?」
「あ、あの……///」
ついつい必死になりすぎて鼻先がくっつくぐらい接近していた。
彼女は顔を赤らめて俯いた。
俺の顔も真っ赤だろう、顔が熱い!
「ご、ごめん…」
僕が半歩下がると。
「ダリア=ソイネ……です。
ヤヨイ様……」
「ダリア、ダリアちゃんか。
いい名前だね」
「あぅぅ、そんな……///」
耳まで発光するぐらい真っ赤にしてずりずりと下がっていくダリアちゃん。
ま、待ってー、逃げないでー!
「あ、あのっ……」
「ちょっと待ちなさーいっ!!」
ダリアちゃんを呼び止めようとすると、広場に怒りに満ちた少女の声が響いた。