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11話 猛獣と妖精と幼女

【5日目】


 今日の朝も一緒に起きて。

 お互いの髪を梳き合って、一緒に料理を作って、一緒に食べて。


「今日はどう過ごされるんですか?

 ヤヨイちゃん」


「今日からダリアちゃんが敬語で話しかけたら『ダリアちゃんかわいー』って言います」


「ふぇ!?

 …もう朝から意地悪しないでください!」


「ダリアちゃんかわいー」


「はぅぅ……///

 ホントにやめてください……」


「ママとは普通に話せるんでしょ、ダリアちゃんかわいー!」


「だってだってだって、今までお友達と遊ぶことなかったですし、

 お話するのは村長さんとお店の大人ばっかりでしたから!」


「私とは同じ歳でお友達だから普通にお話ししたいなー、

 ダリアちゃんかわいー、ふぅぅーーっ!」


 照れるダリアちゃんを見てると、なんかテンション上がってきた。

 意外と俺ってサディストなのかも?


「昨日はみんなと友達になれたから、普通に話さないと嫌われるかもよー」


「はい、うん、わかりまし……わかった、です」


 その時、家の扉をドンドンと激しくノックされて二人で驚いて飛び上がる。


「大変だ、ヤヨイ様!」


「なんだ、村長さんか」


 大きな身体が血相を変えて入ってきた。


「どうかしたんですか?」


「また猛獣が出やがった!


 今度は双頭の狼が大群で襲って来たんだよ!!」


 村の外周の柵までいくと、吠える双頭の狼「オルトス」と村の若者が柵越しに戦っていた。

 昨日のうちに柵を強化したのはナイス判断。

 とはいえ、


 『村の若者達 レベル:平均20』

 『オルトス レベル:45』


 とレベル差がある上に、百匹もの大群なので村が蹂躙されるのは時間の問題。 

                                                                           

「そういえば、女神様に装備をもらったっけ」


 <戦闘>の<装備>から<剣>、<英雄驚嘆>の剣を選択した。

 白銀色に輝く鳥の羽根を模した形の片刃の剣が、右手に出現する。

 ネーミングに関して思うところは色々あるがそれは置いておく。


 2メートルほどの柵をジャンプで超えてオルトスの群れの中に降り立つ。


「はっ!!」


 剣を振るうと、斬撃の衝撃波で百匹の大群は肉片と化した。

 女神チートのカンストレベルで申し訳ない、と謝りたいぐらいあっけなく片が付く。


 まあ、村人は大喜びで結果オーライ。

 皆が駆け寄ってきて賛辞と祝福のハグの嵐。

 どさくさにキスしようとしてきたオッサンは軽く殴っておく(吹っ飛んで気絶したけど、村の皆は大笑い)。


 村長の指揮で、村の大人総出の百匹の狼の解体が始まった。

 「職業:村人」 が何となくわかった気がする。

 レベルは低いけど戦闘や経営以外は何でもこなせるのだろう。


「ヤヨイ様、また助けてくれてありがとうな!

 さて報酬をどうしようか?」


 自分の<獲物解体>魔法を村の人に聞きがら試していると、村長が話に来た。


「こんな危険なことはよくあるの?」


「いや、こんな数は珍しい。

 ここいらにも魔族が出現してきているらしいから、

 獣も居場所を追われてるのかもしれんな」


 やはり魔王の影響かー。

 早く討伐しないとな。


「ところで、オルトスの肉は美味いの?」


「うーん、調理次第だな。

 臭みを取るために塩漬けにしろ」


「わかった。

 じゃあ報酬は40匹分の肉と。

 それと倒れた木をもらっていいかな」


 剣の衝撃波で山の中腹までの大量の木が伐採されてしまった。


「ヤヨイ様がそれでいいならかまわんが。

 ……なにか建設する時はちゃんと材木は乾燥させろよ」


「オルトスの残りは全部売って村の為に役立ててよ。

 ……着服しないでよ、村長」


「利権があるから面倒なおさをやってんだろうが!

 それよりヤヨイ様は本当に子供らしくねぇ事言うなぁ」


 村長の人柄を知ってるからそのセリフも冗談に聞こえる。

 確かに村で一番裕福そうだが、私腹を肥やすような人ではない。


 大量の木を加工してバッグに収める。

 魔法のお陰でいくらでも入るし、重くならない。


「ヤヨイちゃん、お疲れ様です。

 さすがですね、これ全部ヤヨイちゃんがやったの?」


「あ、ダリアちゃん。

 まだ作業中だから危ないよ、離れていた方がいいよ」


 そう言っても離れる様子が無い。

 ダリアちゃんはモジモジして、背後から小さなバッグを差し出した。


「えっと、お弁当作ったから一緒に食べたいな、って。

 食べたらすぐ帰るから!」


「ダリアちゃん、かわいーーーーーっ!!」


 かわいー、わいー、いー。

 魂の底から力を込めて叫ぶと、周囲の山々にこだまする。


「ふえええええええ!?

 今普通に話してたでしょ!??」


「叫びたかったから叫んだ、それだけ」


「もう、ヤヨイちゃんの意地悪っ!」


 ダリアちゃんが背を向けてスタスタと速足で歩き出す。


「ごめんなさい、ダリア様っ!

 謝りますからお弁当を食べさせてくださいっ」


 足元にすがり付いて土下座。

 ここで幼女お手製弁当を逃してなるものかっ!



 夜。

 いつものように一緒のベッドで寝る。


「ヤヨイちゃんは妖精さんが見えるんだよね?」


「あ、うん。

 見えたり見えなかったり……」


 とりあえず今はナビのダルマだけだけど。

 あれは妖精か?


「いいなあ……。

 妖精の話をするとママに怒られるの。

 そんなの信じるのは小さい子供だけだって!」


 魔法とか魔族とかいる世界ならそこら中にいそうだけどなぁ。


「あ、そうだ。

 ダリアちゃんは本読むの好き?」


「うん、大好き!」


 やっぱり、第一印象の通りだった!

 ダリアちゃんの色々な要素が俺の心にドストライクすぎて、ますます好きになる。


 バッグから雑貨屋で買った本を出す。

 表紙に「妖精少女キーズの冒険」と書かれた挿絵付きの本。


「これ、あげる!」

「あ、えっと……」


 ダリアちゃんもベッド脇の小さなキャビネットからボロボロの本を出す。

 タイトルは同じ「妖精少女キーズの冒険」。


「ごめんね。

 大好きでお気に入りなの!

 その本はヤヨイちゃんが読んで、絶対お面白いから!!」


 うん、雑貨屋は一軒だけで。

 本も少なかったから被るよねえ。


「じゃあさ、私が読んだらダリアちゃんの本と交換しよう」


「え?

 ……でもこの本、ボロボロだよ」


「何回も読み返した、ダリアちゃんの宝物だよね?」


「うん」


「ダリアちゃんの宝物が欲しい、って言ったらダメ?」

「だ、ダメじゃないよ!

 大事にしてくれるならあげますっ」


「するする!

 肌身離さず持って家宝にするよ」


 「大袈裟なんだから」と、ダリアちゃんはクスクス笑う。

 その笑顔を見て、夕方の別れ際の村長の言葉を思い出す。


「お前さんが来るまでダリアちゃんは、暗くていつも気を張ってる感じだったな。

 それが最近はすごく楽しそうだ。

 ソイネ母娘の二人をお前さんが救ったんだよ」

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