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病気の女性

「俺の……俺の手があああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」


 ガレインの手は真っ赤に染まっていた。

 血だ。

 な、なんだか原型をとどめないほどにぼろぼろになっているように見えるのだが、あいつ、大丈夫か?


「愚か者どもめ。弱すぎて殺す気も失せたわ。」


 大トカゲはそう言って立ち去って行った。

 優勢なのに立ち去ったってことは、やっぱりみぃちゃんの説得が効いたのかな? ガレインが来なければきっと戦いは起こらなかったんだ。あいつがやったことは全部無駄だったんだな。


「大丈夫かガレイン? すごい血が出てるぞ」

「てめぇトイレ……全部……全部てめぇのせいだっ!」

「え?」

 

 何言ってんだこいつ?


「てめぇのせいで俺が勘違いしたんだ。何がトカゲだ! 何が偽物の鱗だ! こんなに硬いなんて聞いてねぇぞ!」

「いや、俺はブラシで擦っただけで、柔らかいなんて言ってないぞ」


 偽物の鱗とは言ったけど。


「俺は見てたぞ! てめぇの友達のミミズが、あのドラゴンと話をしてたのをなっ! お前ら全員裏でつながってたんだろ? 俺を嵌めやがって」

「誤解だ。別に元から知り合いだったわけじゃ」

「殺してやるうううううううううううううううううう……いつか絶対、殺してやるからなっ! くそおおおっ!」


 殺気は本物だったが、この場で奴が俺に襲い掛かってくることはなかった。傷の痛みに耐えられなかったらしく、この場を立ち去り治療することを優先したようだ。

 

 やれやれ、恨まれちゃったな。

 油断するガレインが悪いんだ。 

 仮にも騎士団長があの程度なはずがない。ちゃんと武器で攻撃していればきっと倒せたんだ。変にプライドを優先させるからああなってしまうんだ。


 トイレ清掃員の俺があれだけ戦えたんだ。ガレインが負けるはずない。



 ガレインやトカゲと別れた俺は、そのまま元来た道を戻ることにした。

 道は長く目的地は遠いため、森の中で野宿を強いられることになってしまった。


 それほど寒い季節でないことに救われた。こういう言い方は変かもしれないが、いいタイミングで追放されたと思う。


 三日後、しばらく進むと少し大きめの道に出た。

 ここまで来ると見覚えのある光景だ。

 俺も田舎も遠くない。


 街道沿いには少ないが飲食店や宿屋も散在している。トイレ清掃員として薄給だった俺はあまり散財するほど路銀をもっていないのだが、最低限の水や食料は手に入れなければならない。

 多少金は減るが、店があるのは安心だ。


 しかし、しばらく見ないうちに人が少なくなったな。

 俺が初めて王都へと向かったとき、まだこの辺りは人でごった返していたはずだ。しかし今は無人というわけではないものの、道の真ん中で全力疾走しても誰にもぶつからないほどに人が少ない。

 よく見れば、廃業した宿屋飲食店も時々見かける。


 俺がいない間に、この近くで何かあったのか? 


「ん?」


 人通りの少ない街道なのに、珍しく人だかりができている。

 何か有名店が出店でも出しているのか、とのんきに考えていた俺だったが、 近づいてその異変に気が付いた。


「おい、大丈夫か!」

「しっかりしろっ!」

「誰か……誰か医者を……っ!」


 尋常でない様子だ。どうやら中で何かが起こっているらしい。

 俺はすぐさま人だかりの中央部を確認した。

 

 その中には、一人の年若い女性が横たわっていた。

 黒い髪の美しい女性だ。


 あれは、王都の学生か?

 黒っぽいガウンに特徴的な四角い帽子。大学の学生がよく身に着けている服装だ。俺は城で何度か見かけていたからそのことが分かる。


 しかしあの学生、どうやら相当に体調が悪いらしい。顔面が蒼白で、意識はありそうだがぐったりと体を横にしている。

 医者はまだ来ないのか?


「駄目だ、このあたりの医者は全員北に出向いちまってる」

「どうすんだよっ!」


 医者がいない?

 一体この周辺で何が起こっているっていうんだ? この店の量なら一人や二人医者がいてもおかしくないはずなんだが……。


「うう……ううう……」


 死にそうになっている女性。

 おろおろと慌てる旅人たち。


 仕方ない。


「だ、大丈夫ですかっ!」


 俺が……治すしかない。

 正直なところあまり他人にはしたくなかったのだが、治療ができないわけではないと思う。


「あんた、医者か」


 近くにいた旅人の一人が、俺にそう問いかけてくる。


「いや、ただのトイレ清掃員だ」

「はぁ? だったら下がっててくれ。この人は今死にそうなんだ」

「医者がいないんだろ? だったら俺に任せてくれ。うまくいけば助けられるかもしれない」

「お……おう」


 納得したわけではなさそうだが、男たちは少しずつ下がっていった。

 さて……大見得切ったんだ。せめて症状を改善させるまでいきたいところだ。


「あ……あなたは」


 女性が俺を見た。

 

「安心してください。俺が少しでも症状を抑え込んでみせます」


 そういって、彼女の体に手を当てる。

 

 つい先日、例の大トカゲに攻撃したのと同じ要領だ。

 下水管の内部にある異物を破裂させる技術。あれは管の内部のどのあたりに異物が存在するかを認識する必要がある。

 俺はごく微量の魔力を対象に流し、内部の状態を把握することができる。


 ふむ。

 

 胃、腸、それから肺と心臓に腫瘍のようなものを感じる。おそらくここから毒素が体を循環し、命を奪おうとしている。

 もはや一刻の猶予もない。


 やはり、俺がこの人を治療するしかないっ!


 とはいえ、大トカゲの時みたいに魔力を流して破裂させるわけにはいかない。臓器でそんなことを起こしたらショックで死んでしまう危険性がある。

 安易な攻撃はNG。

 ならば……。


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