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魔の女神ワルプルガ


 突然現れた女神ヨハンナは、俺にこう告げた。

 目の前の幼女魔族が、昔女神だったのだと。


〝本来存在しないはずの101人目の女神。それが彼女、魔の女神ワルプルガ〟


 魔の女神ワルプルガ。

 知らないない名前だった。おそらく俺だけじゃなくてほかのどの人間も知らない名前だと思う。信仰されているという話も聞いたことがない。


「もぉー、そんな厳つい名前なんて忘れたわよ。ワルちゃんって呼んでね」

「うるせえよババア。いい年して何て声出してんだ恥を知れ」

「まーくんは黙ってて」

「まーくんって呼ぶなっつってっだろがっ! 余は魔王だっ!」


 …………。

 …………。

 …………。


 思考が追い付かない。

 女神といえばこの世界において絶対の存在。創世の女神ヨハンナを頂点として、そのほかの女神も多くの人々の間で信仰の対象になっている。


 こうして普通に存在していることがあり得ないほどの大物じゃないか。俺は頭を下げてひれ伏せばいいんだろうか?


「貴様、女神ヨハンナ……」

〝久しぶりですね……〟


 顔が険しくなっていく魔王と、平然とした顔のヨハンナ。どうやら二人は知り合いらしい。

 神話において、魔王とヨハンナは何度か戦ったということになっている。それが作り話なのか真実なのか学者たちの議論するところではあるが、こうして現実に二人の話を聞く限り、神話も真実だったのかもしれない。


〝まだ私を受け入れられないと?〟

「この世界に女神はいらねぇっ! 俺たち魔族の手で支配されるべきなんだっ! 失せろっっ!」

〝やれやれ、あなたの子供は相変わらず可愛げがないですね。まだこんなことを言っているのですか?〟


 ため息を吐いたヨハンナ。それは魔王という強大な敵に対する対応というよりは、むしろできの悪い子供に呆れているといった方が適切かもしれない。

 神話では神と魔の代表として拮抗した戦いをしていたという話だったと思うんだけど、現実はそうでもないのかもしれない。この世界で魔王は突出した力を持つ存在だけど、それでも女神にはかなわないように思える。

 そんなに強かった便器に負けるわけないもんね。


〝あなたがどれだけ私のことを気に入らなくとも、私が女神であるという事実は変わらないのです。たとえあなたが女神を信仰しなくてもです。ただなんとなく反抗したいというなら止めはしませんが、無駄なことはお勧めしません〟

「私も何度も言い聞かせたんだけど聞かなくてねぇ~。ど~してこんな子に育っちゃったのかしら」

「うるさいうるさいうるさいっ! 余はこの世界の神になるのだ! 我ら魔族の世界への反逆はまだ始まったばかり……」


 …………。

 ま、魔王が完全に駄々をこねる子供じゃないか。

 俺にとって魔王は恐るべき存在なのだが、それでもこういった態度を見せられると小物に見えてしまう。実際、神に近い存在であるこの二人の女神を前にしては、魔王は子供同然なのかもしれないが……。


 と、とりあえず俺の命は助かったっということでいいんだよな? もう俺なんていてもいなくてもいいような存在だし、ここはこっそりとこの場を立ち去るのがベストなのでは?

 そう思いゆっくりとトイレの外に出ようとしたのだが……。


「やっぱり女手一つで育てるのは限界なのかしらねぇ。子供の時はあんなにかわいかったのに……。男の子は育てるのが難しいわ~。一体どうすれば……………………、あっ」


 ん?

 ワルプルガさんが俺のことをじーっと見ている。一体どういうつもりなんだろう? 何かを思いついたんじゃんかったのか?


 なんだ? どうした?

 なんだか冷汗が出てきた。何か良くないことが起ころうとしているような……。

 か、体が固まって動けない。


「パパっ!」


 と、俺のことを指さしてワルプルガさんが言った。


「ママっ!」


 今度は自分を指してそう言った。

 

 俺がパパで自分が子供? 

 それってつまり。


「よく見ればいい男じゃない。みんなが嫌がるトイレ掃除を進んでやろうとするいい子! まーくんにも負けない強さ! あー惚れたわ! 惚れた! あなた、私と結婚しましょう!」


 え?

 えええ?


「エエエエエエエエエエエえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええっ!」


 け、結婚って?

 せ、せっかく逃げてきたのにまた結婚だなんて。しかもこの方は見た目が幼女で一児の母で……年齢もすごいことに……。


「あ、あの、俺は普通の人間なので」

「普通の人間にまーくんは倒せないわよ~」

「いやあのあなた様は見た目が幼女なのでその……」

「あなたよりも全然年上なのよ~。だからワルちゃんって呼んでね」 

「おいくつですか?」

「…………」


 あからさまに渋い顔をするワルプルガさん。

 あっ、そこは聞かれたくないんだ。


「まーくんも新しいパパ、欲しいわよね?」

「色ボケも大概にしろよクソババアがっ! 誰がこんなひ弱な人間を親だと認めるかっ! トイレ掃除の奴隷がふさわし……」


 と、魔王が言えたのはそこまでだった。

 突如として右手に黒い魔力を纏わせたワルプルガさんが、魔王の頬を叩いたのだ。


「ぐげええええええええええええっ!」


 魔王はその衝撃でトイレの壁にめり込んだ。

 す、すごい……。やっぱり魔王でも勝てないんだ。


「おほほほほほ、ごめんなさいねぇこの子ったら。素直じゃないけど、本当はあなたみたいなパパが欲しいなーって思ってるのよ」


 いや絶対思ってない。

 思ってないだろ。


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