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謎の幼女魔族

 

「だ、大丈夫ですかー、魔王さーん」


 俺は魔王に駆け寄った。

 この魔王は俺を殺そうとした魔族だけど、かといって殺してしまうつもりはなかった。こんな風に倒してしまったなんて話になったら、俺はこの城……否、この都市にいるすべての魔族を敵に回すといっても過言ではない。

 し……死なないでくれよ魔王さん。だ、だ、大丈夫だよな本当に?


「ま、魔王さーん。もう死んだふりはしなくていいですよ。ほ、ほら、俺は攻撃する意思なんてないですから。お、おい、便器! 今すぐ俺の身体から離れてくれ」

〝えー〟

「もう戦いは終わったんだ。これ以上魔王さんを怖がらせる必要もないだろ? 俺はみんなと仲良くしたいんだ。武装解除する必要がある。それに城のトイレに便器がなかったらみんなが困るだろ? 頼むよ」

〝君がそこまで言うなら仕方ないね〟


 そう言って、便器たちは俺の身体から離れてくれた。


 はぁ、やっと離れてくれたか。

 臭い移ってないよな? いや、俺が掃除したものだからきれいになっていると信じたい。


「魔王さーん、もう大丈夫ですよ? 武装解除しました。起きてください」

「う……ぐ……うう……」


 偶然か、それとも俺が便器を脱いで安心したのか、魔王がうめき声をあげながらゆっくりと立ち上がった。

 とても友好的な雰囲気には見えないが、さすがにあれだけ派手に傷つけた後だ。むやみやたらに俺に突っ込んでくるつもりはなさそうだ。


「余を、殺さないのか?」

「こ、殺すだなんてまた物騒なことを……。俺はただこの城のトイレ清掃にやってきただけですよ」

「…………どこまでも余を謀るか」

「…………」


 どうしてそんなにトイレ清掃員を信じられないのだろうか? 何か特別な恨みでもあるのか?


「俺はただのトイレ清掃員なんですよ? どうすれば信じてもらえるんですか?」

「貴様のようなハイスペックなトイレ清掃員があるか。どこかの国の英雄といった方がまだ真実味が……。あっ、貴様、まさか最近話題のレギオス王国の国王勇者……」

「あー」


 またこの話か。

 みんなして俺をクロイス王だと勘違いするんだよな。同名の別人だというのに。俺は国王じゃなくてトイレ清掃員だと言っているのに、どうして信じてもらえないんだろうか?


「それは同じ名前の別人です。俺は田舎村出身のトイレ清掃員で」

「ふっ、そういうことにしておこう」

「いやそういうことって」


 本当にそういうことなんだがそういうことじゃない風な言い方はやめてほしい。


「とにかく俺は争う気はありません。さっき怒ったのは、魔王さんがトイレにゴミを流したからで……」

「……? 水に流して捨てればみんな一緒だろう? 貴様は何をそんなに怒っているのだ?」


 こ……こいつ……何もわかってない。

 いや、落ち着け。ここで何か言い返してもさっきと同じだ。友好……友好、友好……。


「あらら?」


 と。

 話をしていた俺と魔王の間に割り込んできた第三者。

 それはさっき別のトイレを掃除していた幼女魔族だった。


「げ、ババアっ!」


 と、魔王さんが驚いた様子で叫ぶ。

 ババア?

 この幼い女の子が?

 

 驚いた魔王さんの様子をじろじろと見る幼女魔族。先ほど俺との戦いに負けてしまった魔王は、下半身が血に塗れて満身創痍の苦しい状況だった。


「あらあら~、この子ったら負けっちゃたのね」

「うっせーババア! お、俺は負けてなんかねーよ! 勝手に敗北者扱いすんじゃねー! 俺は勝ってた! 勝ってたんだ! 魔王は誰にも負けねぇからっ!」

「もう、この子ったらどうしてこんなに負けず嫌いなのかしらね。そんな恰好で勝っただなんて、誰も信じないわよ」

「…………」

 

 なんだこいつ。

 一体この幼女と魔王はどういった関係なんだろうか? 魔王ってこの魔王国で一番偉い存在じゃないのか? それにしては子ども扱いされているような。


 と、疑問に思いながら様子を見ていた俺に気が付いたのだろうか。幼女がこちらに目線を移した。


「この子はねー、私の息子なの」

「は?」

「生まれた頃は素直でかわいい子だったのに、いつの間にかこんなに反抗的でわがままな子に育っちゃってねぇ。ママは悲しいわ」

「うるせぇババア! 俺は誰にも負けねぇ! 人間にも、エルフにも、神にもっ! この世界で唯一絶対の存在! それが魔王だろっ!」

「はいはい」


 と、まるで駄々をこねる子供をあしらうように魔王に話しかける幼女。この子が魔王の母親?

 ごく普通の村人である俺でも知っている事実ではあるが、魔族は人間よりもはるかに長寿である。特に魔王と言えば今のレギオス王国が成立したころより以前に王として魔王国に君臨しており、御伽噺か現実か怪しいレベルの伝承にも残っている……そんな人類の歴史で測れないレベルの存在なのである。

 だとすればこの魔王の母親というこの幼女は、一体どれだけ長い時を生きてきたのだろうか? 代替わりするエルフの王よりもはるかに年齢が高く、下手をすれば神話レベルでその存在を……。


〝久しぶりですね〟

「あらあら~?」


 と、突然姿を現したのは女神様だった。

 創世の女神ヨハンナ。

 俺に勇者の力を授けた神話級の女神。俺は戦う気がないから全然話をする機会がなかったけど、このして俺のそばにいたんだな。


「ヨハンナじゃなーい! 久しぶりね。元気だったかしら? この子が新しい勇者なのね」


 と、親しげに話しかける幼女魔族。

 知り合いなのか?


〝彼女は昔、我々と同じく女神だったのです〟


 え……?


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