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魔王城のトイレ掃除


 

 魔王城、牢屋の中にて。

 俺は脱獄を決意した。


 そう難しい話じゃない。

 まずは……。


「よっと」


 俺はカバンの中にあった洗剤を鉄格子にぶっかけた。

 

 すると、じゅわじゅわと瞬く間に鉄格子が溶けていった。


「き、貴様、何をした?」


 牢の番人が驚いて声を上げた。

 まあ、はたから見たら危ない薬品に見えるかもしれないな。


「違うんですよ。これはただの金属製品使用禁止のトイレ用洗剤です。あなたが俺を牢から出さないのが悪いんですよ」

「ええい、危険な人間め、おとなしく牢に戻らないと言うなら……」


 牢屋番が槍を構えた。

 が……。


「槍なんて危ないじゃないか」

「がはっ」


 俺は一瞬の隙を付き、奴に手刀を放った。トイレ清掃員としてあまり暴力的な行動は得意ではないが、奴があまりにも隙だらけだったためつい技を放ってしまった。


 牢屋番魔族は白目をむいて倒れてしまった。

 運がいい。本当の戦いになっていたらきっと負けていたのは俺だと思う。

 これでしばらくは問題ないはずだ。


 先を急ごう。



 魔族を気絶させた俺は、すぐにトイレを探し始めた。


 脱獄したといっても俺は大犯罪者ではない。

 すぐに大量の追っ手を差し向けられることはないと思う。

 

 とはいえ魔王城は人間が立ち入り禁止らしい。誰かに見つかってしまえば大騒ぎになってしまう可能性がある。


 一刻も早くトイレを掃除しなければ。

 トイレさえ掃除してしまえばすべてが解決する。俺の超テクニックで掃除されたトイレを見た魔族さんは、必ず種族を超えて俺に理解を示してくれるはずだ。

  

 大きな建物の中のどこにトイレがあるか? 普通に考えて無限に選択肢があるように思えるかもしれないが、熟練した清掃員である俺ならばある程度予想が付く。

 そうトイレは換気ができて水も必要で人が多くいたり食事をしたりする場所から離れたところに作られる傾向がある。つまり人通りを避けて建物の奥に進んでいけば、そこがすなわちトイレなのだ。


 よし。


 俺は心の中でガッツポーズを決めた。

 中心部を避け狭い廊下を進んでいくと、そこには見事俺の予想通りトイレが配置されていた。


 くくく、やはり俺は冴えてるぜ。


 こいつを掃除して、俺の無実を証明するのだ!

 俺は身長にドアを開けた。


「うっ……」


 な、なんて汚さだ。


 レギオス王城のトイレも、俺が戻った時にはひどく汚い有様になっていた。ただあのトイレは詰まっていて、そのせいで周囲に用を足す人が増えた結果ああなってしまったのだ。

 対してこの魔族さんのトイレは詰まっているわけじゃなさそうだ。水だってちゃんと出る。一応は掃除されているように見える。


 ただ、圧倒的に汚い。


 まず個室の壁には下品な落書きが多々見受けられる。それだけでなくこびりついて取れなくなった黒いシミや、劣化してぼろぼろになった壁も散在している。

 便器にこびりついたこれは……ガムか何かか? 黒くなりすぎて元がなんだったか判別できないぞ?

 この城の至る所に飾られている魔王の胸像も、このトイレではカビがこびりついたままだ。怒られないのか?


 一応掃除はされているように見えるが、不十分な点が多い。掃除というよりは使用者のモラルに問題があるように感じている。並の清掃員ではどうにもならないだろうな。


 ふぅ、やれやれ。どうやら俺の出番のようだな。

 すべてのトイレ掃除を過去にする、俺の天才的清掃技術でこの汚いトイレをリフレッシュ。

 ビフォー→アフターで魔族の皆さんもびっくりだ。

 

 そんなわけで、俺はすぐに掃除を始めた。

 清掃中の札を入り口に配置して、丁寧に掃除。

 俺に不可能はない。 


「あらあら~?」

「ん?」


 後ろから声が聞こえたので振り返ると、そこにはモップを持った魔族が立っていた。


「新しい清掃員の方かしら~?」


 見た目は……どこにでもいる幼い女の子に見える。ただ背中に小さな翼のようなものが見えるから、やはり魔族なのだろう。

 とても戦闘向けの魔族には見えない。この調子なら仮に戦ったとしてもたいした問題にはならないだろう。


 ここの掃除をしてた魔族か?

 こんな子供に掃除を任せるなんて……魔族はひどい奴らだな。


「あら~、あなた人間じゃない?」

「……はい」

「人間の奴隷にトイレ掃除をさせるなんて、悪趣味ね~。誰の提案かしら」


 かつてエルフの奴隷にトイレ掃除を押し付けようとしていた陛下のことを思い出す。なるほど確かに俺も悪趣味だと思った。

 でも子供一人でこの広めのトイレを掃除させるなんて、それはそれで悪趣味だとは思うが。


「安心してください。俺は好きでこのトイレを掃除してるだけです。ここのトイレ掃除は俺に任せてください」

「う~ん、そこまで言うならお願いしちゃおうかしらね」


 そう言って魔族の子供は入口の前に立った。

 帰らないのか? あまり長居されると脱走の件がばれてしまいそうな気が……。


 いや、今更トイレ掃除をやめても仕方ない。むしろ俺の清掃技術を見せつけてくれる。


 うおおおおおおおおっ!


 俺はトイレ掃除に万進した。

 そして。


「すごいわね~、こんなにきれいになるなんて」


 俺の技術をもってすれば、この汚かったトイレもピッカピカだ。


「本当に素晴らしいわ~。魔族は長生きで病気にもなりにくいから、ついつい汚いまま不潔なまま放置しちゃう子が多くてね~」

「きれいなトイレで気持ちよく用を足せれば……みんなが幸せになれると思います。俺はトイレで世界中を幸福にしたいんです」

「あなたどこの村の奴隷かしら? お名前を聞かせて。良ければ褒章を」

「俺の名前はクロイス。褒章なんていりませんので。では失礼」

「あ、待って~」


 呼び止める魔族の幼女を無視して、俺はトイレから立ち去った。

 出身地なんて調べられたら、脱走の件がばれてしまうからな。

 次のトイレを掃除しに行こう。


 それにしても褒章だなんて、あの子、偉い魔族の子供か何かなのかな?




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