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甲殻魔獣ハザン


「ヴォ……ヴォルミルスが敗れただと……」


 魔王は驚愕に震えていた。

 世界同時渇水による人類征服計画。ヴォルミルスの巨体を生かしたその計画は、かつてデスキュロスがそうであったように無残にも失敗してしまった。

 しかもデスキュロスの時とは違い、ヴォルミルスはいまだこの魔王城へと戻ってきていない。


「ヴォルミルスは死んだのか?」

「戦いに敗れたとは聞いています。手紙を預かっていますのでこちらを」


 魔王にその報告をしたのはデスキュロスだった。ヴォルミルス本人はここにいない。

 魔王はゆっくりと手紙に目を落とした。


 ――魔王様へ。

 申し訳ありません魔王様。

 勇者クロイスとの戦いに敗北してしまいました。

 女神の力を一身に受けた勇者の力はあまりに強大。一介の魔族ではどうすることもできない、まさに勇者と呼ぶにふさわしい実力者でした。

 世界最強などと己惚れていた我が身を恥ずばかりです。

 恥ずかしいので己を鍛える武者修行に出ます。

 探さないでください。



 ……とのことだった。


「ヴォルミルスはもう戻って来ないのか?」

「この様子ではしばらくは戻ってこないでしょう」

「…………」


 魔王はあまりの出来事にめまいを覚えてしまった。

 

「ご安心ください魔王様。まだ私が残っております」

「おお、お前は……ハザンか」

「お任せください。このハザンめが見事勇者を打ち取ってご覧にいれましょう」


 甲殻魔獣ハザン。

 

 見た目は黒い色をしたエビに似ている。それが二本足で立ち、二本のハサミを構えて人間のような体勢を取っている。 


 一個の個体として神話級の力を持つデスキュロスやヴォルミルスとは違い、地に足の付いた努力で四天王の座へと昇りつめた将軍――ハザン。個人としての実力も相当なものだが、真に恐ろしいのは彼の率いる魔王国軍である。

 その強力な力は人間や亜人の兵士たちとの集団戦闘で最も効果を発揮する。一体一体の鍛え抜かれた魔族兵士たちは、ハザンの命に従い様々な陣形を作り、そして敵を粉砕する。

 将軍というその役職が示しているように、ハザンは戦争に長けている。


「もはや魔族四天王で頼れる者はお前だけ。必ずや新王クロイスの首をを取ってこい。吉報を待っているぞ」

「ははっ」


 こうして、甲殻魔獣ハザン率いる魔族の大軍がレギオス王国へと進軍を始めた。

 かつてないその規模は大きな話題となり、いまだ国境を越えないにも関わらず人間たちに知られるところとなった。

 だがそれはハザンにとって想定の範囲内だ。

 たとえ相手が勇者であろうと、負けるはずがない。

 


 *********


 魔王軍、レギオス王国に進軍。


 その報はすぐさま首都へともたらされた。


「た、大変なことになってしまった」


 テイラー大臣は夢の中で思わずそう呟いてしまった。

 目の前には信仰する女神ヨハンナが浮いている。いつかそうであったように、今回もまた対話をするために呼ばれたのだ。

 話すべき内容は決まっている。先の魔王軍侵攻についてだ。


「魔王軍の侵攻。このままではレギオス王国が滅んでしまいますね」

「しかし……クロイス殿はシギュン王女との婚約が元で田舎に帰ってしまった。先の戦争に関する疑念も抱えていることだろう。私が何か頼みごとをしたとしても、まずは疑い警戒するだろう」

「言わずとも、わかっていますねテイラーよ」


 女神ヨハンナの目が鋭い。


「も、もちろんでございます女神様」


 クロイスの力で魔王軍を蹴散らす。

 それが女神ヨハンナの望む展開。実際、クロイスにはそれ相応の実力が備わっているということだろう。


「…………」

 

 考えなければならない。

 いったいどうすれば、クロイスと魔王軍をぶつけることができるのかを?

 否、それだけでは心もとない。たとえ攻めて来た軍を撃退したとしても、それは魔族の中のごく一部に過ぎないのだ。魔王国にはハザン将軍には劣るが数多くの爵位持ち将軍が存在する。彼らは非常に強力であり、勇者の力なくして退けることは不可能。つまり目の前の敵を倒した程度では焼け石に水なのだ。


 できれば、新王クロイスには魔王を倒してもらいたい。だがクロイスが王であることを告げずに彼を誘導することは至難の技だ。


「そもそもクロイス殿は自分が国王であるということにすらも気が付いていない。国防だ国のためだと言っても、難しい話でしょうな……」

「テイラーよ。やはりあの方を正式に国王として迎えるべきなのです」

「それは難しいのです女神様……。いきなり田舎者が国王になるといっても、貴族はもとより平民も納得するはずが……」

「無理でもやるのです! あの方は本当に素晴らしい! あの方を国王だと認めない国民など国民ではないのです!」

「……そうできたら苦労はないのですが」


 現実的でないことは火を見るより明らかだ。女神の主張を聞いていると、反対派の国民が粛清されるのではないかと心配になってくる。

 魔王軍侵攻の一大事に、余計な混乱を生むことはふさわしくない。


 やはり前回と同じように、騙して無理やり戦わせるのが一番だ。


「一体どうすれば……」


 夢の中、そして現実の世界でもテイラーは悩みぬいた。

 そしてその果てに、一つの案が浮かんできたのだった。



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