表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
53/68

黒い大ミミズ

 大変なことになった。

 村の井戸が干上がってしまったのだ。

 井戸はこの村の生活に必要だ。俺たちはいつもここから生活用の水を集めている。それが干上がったとなれば、まともに生活できなくなってしまう。

 

 仕方がないので少し離れた川に向かったら、そこも干上がりかけているじゃないか。

 異常事態だ。

 井戸だけじゃない。このあたりの水が減ってきてるのか? それほど雨が少なかったわけでもないのに……。


 このままではみんな干からびて死んでしまう。 

 専門外ではあるが、俺が何とかするしかない。

 

 というわけでっ!


「この超巨大ラバーカップを使って、井戸から水を無理やり引っ張り出してみよう!」


 俺の身長の二倍以上ある巨大なラバーカップ。こいつを使ってつまりを解消するように水を引っ張り出してみせる。


「…………」


 いや無謀なのは分かっている。いろいろ無理があるというのも分かってる。でもこのままじゃあ俺たちみんな死ぬ。だからやらなきゃならないんだ。


「うおおおおおおおおおおっ!」


 キュッポンキュッポンキュッポンキュッポンキュッポンキュッポンキュッポンキュッポンキュッポン

キュッポンキュッポンキュッポンキュッポンキュッポンキュッポンキュッポンキュッポンキュッポンキュッポンキュッポンキュッポンキュッポンキュッポンキュッポンキュッポンキュッポンキュッポンキュッポンキュッポンキュッポンッ!


 俺はトイレの詰まりを直すように、ひたすらラバーカップを上下に動かした。


 

「き、来てるぞ! これは手ごたえを感じる。あと少しで、つまりが取れて水が戻ってきそうなんだが……く、う、うおおおおおおおおおおっ!」


 いける! このままいけば井戸水を塞いでいる何かを引っ張り出せる。

 あと一息だ!


「みみみみみみみっ!」


 と、まさにラストスパートをかけようとしていたその時、横から聞こえてきたその声は……。


「みぃちゃん?」


 どうしたんだろうみぃちゃん。すごく焦っているように見える。

 必死にジェスチャーで何かを伝えようとしている。長い付き合いの俺たちだから、なんとなく理解できなくもない。


「え、ラバーカップ、やめてほしいの?」

「みみみみ」

「いやでもさ、もう少しで井戸の水が出そうな気が」

「みみっ! みみっ!」

「わかった、わかったって、じゃあちょっと休憩するってことで……」


 どういうつもりか知らないけど、その必死さは伝わった。水がなければ死んでしまうから、このままずっと止めるわけにはいかないんだけど……。

 それにしてもいったいどうしたんだろう? みぃちゃんはラバーカップが嫌いなのかな?


「……ん?」


 ふと、鼻につく水の香りに、俺は違和感を覚えた。

 井戸の中を覗くと、なんと、中には水があふれていた。

 俺のラバーカップが効いたのかな? いや、でもあれはもう少しの手ごたえってところで止めたはず。

 だったらこれは、みぃちゃんのおかげなのかな? だから俺を止めたのか?


「これ、みぃちゃんがやったのか? すごいな。本当にありがとな」

「ヴヴヴヴっ! ヴヴヴっ!」

「はははは、照れるなって」

「ヴヴヴヴヴヴ」 

「……って、だ、誰だお前はっ!」


 その鳴き声は、明らかにみぃちゃんと異なっていた。

 慌てて周囲を見渡すと、そこには驚愕の光景が広がっていた。

 

 みぃちゃんが二匹いた。 


 いや、落ち着いて見てみると全然違う。

 みぃちゃんはミミズっぽい茶色だが、この大ミミズは色が真っ黒だった。姿形は似ているのだが、色合いは全く別物だった。


 この偽物、一体なんなんだ?


「みみみみみっ」

「え、みぃちゃんのお兄さん?」

「ヴヴヴヴヴヴヴ」


 なんと、このみぃちゃんの黒バージョンはお兄さんらしい。

 みぃちゃん兄弟いたんだな。


「ヴヴヴ、ヴ、ヴヴヴ」


 みぃちゃんのお兄さん、黒大ミミズがうねうねと体を動かして何かを伝えようとしている。

 普通の人なら理解できないかもしれないが、俺はみぃちゃんと友達だ。こんな風に意思疎通をすることが何度もあった。

 このお兄さんと話をするのは初めてだけど、なんとなく……何を言っているのか理解できるような気がする。みぃちゃんで経験値をためたおかげだ。


「俺に仕えたい? いや友達になりたい?」


 どうやらこのお兄さん、俺と仲良くなりたいらしい。

 大ミミズなんて他に見ない希少な種族だ。きっと友達が少なくてさみしい思いをしているに違いない。

 俺がその孤独を癒せるというなら……。


「みぃちゃんのお兄さんなら俺にとって家族も同然だ。これからよろしくな」

「ヴヴヴヴヴヴヴ」


 お兄さんは俺のラバーカップをひょいっと持ち上げると、そのまま俺の隣に立った。

 どうやら、俺の代わりにこの巨大ラバーカップを運んでくれるらしい。


「お兄さん、親切な方だね」

「みみみみっ」


 みぃちゃんが嬉しそうだった。

 

 こうして、みぃちゃんのお兄さんが仲間になった。

 お兄さんはとても親切で、俺の掃除道具を運んでくれたり先回りして躓きそうな小石をよけてくれたり足元の雑草を抜いてくれたりと……、正直過剰な部分もあるけどとても俺に優しくしてくれる。


 いつの間にか干上がった川も元に戻っていたし、これで何もかも解決。

 俺の田舎暮らしはまだまだ順調に続くようだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ