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魔気功


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」

 

 ゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシ!


 俺はドラゴンをトイレブラシで擦った。

 

 す……少しは痛がって……くれるかな? 


「ぎゃああああああああああああっ!」


 と、ドラゴンの悲鳴が聞こえた。


 ん?

 なんだこいつ。ひょっとして、俺のトイレブラシが効いている?


「何百の獣の牙を跳ねのけた我の鱗をこうも見事に……。貴様、ただの旅人ではないな? その武器は聖剣の類か?」


 ブラシを見ると、ドラゴンの鱗がびっしりとこびりついてた。

 うーん。


「いや、トイレの黄ばみの方がもっと頑固に張り付いてたぞ? お前の鱗、安物ののりでくっつけた偽物なんじゃないか? ドラゴンの鱗がこんなに簡単に剥がれるわけないだろ」

「き、貴様……どこでそのような力を……」


 あくまでも俺を強いことにしたいらしい。

 訳が分からないな。


「舐めた真似をしてくれる。鱗を数枚剥がした程度で、我に勝てると思うな!」


 再びドラゴンが突進してきた。

 ふむ。

 確かにこいつの鱗はよわよわなのかもしれない。でもこの目の前にある巨体は真実なわけで、こいつが俺に倒れこんできたら間違いなく圧死する。

 何とかして足を止めないとな。


 鱗をそぎ落としたことで、自信が湧いてきた。

 見せてやろう、俺のトイレ清掃術っ!


 俺は両目を瞑った。


 指先に全神経を集中させる。ここは王宮のトイレだ。俺はいつものようにトイレを掃除し……、下水管の詰まりを直そうとして……。


 いまだっ!


「破っ!」


 俺の指がドラゴンに触れたその瞬間、技を発動させる。


「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」


 ドラゴンは後ろに大きく倒れこんだ。その足は内部で爆発したかのように激しく出血している。


「あ……足が、我の足が……。き、貴様、今、何をしたっ!」

「城のトイレさ、よく下水管が詰まるんだ。これはその時に使う技で、管の内部に衝撃を与えて詰まりを解消する魔法だ」

「…………」


 ふふん、驚いて言葉も出ないようだな。

 城のトイレは水洗式で、下水管につながり城から排出される仕組みになっている。ところがモラルの低い貴族たちが、タバコの吸い殻や書類、衣類の一部など流してはならないものを流してしまうため、よく詰まってしまう。

 

 そんな時、俺はこの技を使う。

 下水管内部のゴミを極限まで圧縮し、爆発によって細かく砕いてしまう方法だ。


 まあ、仕組みはものすごく強そうに聞こえるが、大したことはない。

 所詮は清掃術の延長。剣や魔法で戦っている兵士の方がよっぽど強いんじゃないのかな?


「百年前に大賢者が使えたとされる至高の魔法――〈魔気功〉。極少量の魔力を標的に流し込み、内部で破裂させる高難易度の魔法。まさかこの時代に……扱える人間が生き残っていたとは……」

「ははは、何勘違いしてるんだよ。俺にそんな伝説の魔法が使えるわけないだろ? これはただトイレの詰まりを直す俺の技だ」

「ば……ばかな」


 ふー。

 最初は焦ったけどなんだこいつ。全然大したことないじゃないか。


「あーあ、ドラゴンがいるって聞いてたからすごく緊張してたんだけど、どうやら誤情報だったみたいだな」

「な、なんだとっ!」

「だってそうだろ? 俺みたいな普通のトイレ清掃員にドラゴンが倒せるわけないじゃないか。お前はドラゴンじゃなくて大トカゲか何かなんだろ? ったく、でかいし言葉も話せるから、まんまと騙されちゃったぞ」


 ったく、焦らせんなよ。

 

 俺に正体を見破られたドラゴン(トカゲ)は、悔しくて怒りに震えていた。


「く、くくく……いい度胸だ人間よ。我をトカゲよばわりするとは……なんたる屈辱か。その力に免じ生かして返そうと思っていたが、気が変わった。我が最大の奥義にて、骨を残らぬほどにこの世から消し去ってくれるわ」


 すぅ、とドラゴンは大きく息を吸い込んだ。

 すると口の中が強く光始める。


 まさか、ブレス?

 

 ……だが所詮トカゲの吐息。その程度で俺を殺せるわけはない。

 さて……こいつをどうやって料理してやろうか?


「みぃー」

「みぃちゃん!」


 なんてことだ。

 俺の友達、ミミズのみぃちゃんがにょっきりと地面から現れてしまったのだ。俺は大丈夫でもみぃちゃんはミミズだから、炎に焼かれたら火傷で死んでしまうかもしれない。


「みぃちゃん、下がって。危ないよ」

「みっみっ!」

「だから……」


 と、焦ってみぃちゃんを説得してしまったが、そもそも奴のブレスにそれほど時間的余裕があると思えなかった。本来ならば、もうブレス攻撃は放たれていてもおかしくないのだ。

 でも、いまだ俺のもとにブレスは来ていない。

 これは……。


 見ると、大トカゲは震えていた。

 

「あ……あなたは……あなた様は……まさかっ!」


 何言ってるんだこいつ?

 こっちを……というかみぃちゃんを見ている?


「も、申し訳ありませんでしたああああああああああああああああああっ!」


 なんだこいつ? ミミズが苦手なのか?


「みぃ、みっみっみっ、みぃ!」


 何々、『こいつと二人で話がしたいから、向こうに行っててくれ』?

 声を出しているわけじゃないが、なんとなくそんなジェスチャーをしているように感じる。


「みぃちゃん、大丈夫なのか? このトカゲに食べられたりしない?」

「みぃ!」


 うーん……。


「あひいいいいいぃいいいいい、だめだぁあああああああ、終わりだああああああああああああああああああっ!」


 しかしこの偽ドラゴン、よほどミミズが苦手らしい。人間だったらおしっこ漏らしてるレベルで泣きさけんでいる。

 

 ミミズが苦手だというなら、うまくみぃちゃんが説得できるかもしれないな。あの大トカゲ、博識だって言ってたからミミズの言葉も分かるかもしれないし。


「じゃあ、説得はみぃちゃんにお願いしようかな。俺はしばらく向こうの木陰で時間をつぶしてるから、説得が済んだら呼びにきてくれ」

「みぃっ!」

 

 びしっと敬礼……したようにも見える謎のうねりを見せたたみぃちゃん。

 これなら、安心かな。



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[一言] ドラゴンの鱗より剝がれにくいトイレの黄ばみとは……
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