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陛下と子供たち


 元国王と元王女の案内を引き受けた俺は、さっそく村はずれにある納屋へと案内することになった。


 のだが……。


「わ、わしにこのような汚い部屋に泊まれというのかっ! 農具や狩猟道具ばかりではないかっ!」

「ベッドは? シャワーは? トイレは? あんたあたしたちのことなんだと思ってるの?」


 思った以上に不平不満ばかりだった。

 こいつら野宿しながらここまで来たんじゃないのか? 金もないのによくそんな好待遇を要求できるな。


 連れてきた建物は確かに人を出迎えるような状態ではない。泥付きの道具がいたるところに散乱し、ベッドなんて高尚なものは存在しない。

 ただ、雨風をしのげる程度に最低限建物としての役割は果たしている。外の干し草を敷けばまあ寝れなくもないと思う。俺が旅をしているときにこの建物を使わせてもらえるなら、喜んで一泊するレベルだ。


「落ち着いてください陛下、王女様。この村は辺鄙な田舎の村なんです。急に泊まりたいからもてなせと言っても無理な話なんです」


 まあ本当の話をするともう少し上等な建物がなくもないんだが、この汚い二人を泊めることなんてできるわけがない。金ももってなさそうだしな。

 田舎だから泊る場所がないのは当然。むしろ建物をただで貸すだけましだということを理解してほしい。


「と、とにかく、今日はここで泊ってください。わかりましたね」

「…………」

「陛下?」

「お゛っ♡」

 

 こ、この声は……、まさか……。


「いやあああああああああああああああああああああああああああああっ!」


 エリーゼ王女が逃げ出した。

 ちょ、ちょっと待て、俺もっ!

 

 ブリュュブリリリブリチブリュブリュブ! ブボボッボボボボッ! ブリュルルルルルルルッルルルルルッルルルルルッルルッルッ! ブリュルルルルルルルルウウウウウウウウウウウウウウッ! ブボボボボボボッッボッ! ブリィッゥ! ブリッリ、チッブリブリブリブリブリブリブリブリリイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイッ! 


 あ……ああ……。

 くせえええええっ!

 こうなるとわかってたから逃げたかったのに、間に合わなかった。

 どうやら陛下の身に刻まれた呪い――〈糞紋〉はいまだ健在らしい。死ぬまで消えない呪いなのかな?


「はっ、わ、わしは何を?」


 何を? じゃないだろ。俺はもう知らないぞ?


「クロイスうううううううううううううううううううっ! また貴様の仕業か!」

「は?」


 ここでなぜ俺の名前がでる?


「いや何言ってるんですか陛下。今自分で奇声を上げながら漏らしてたでしょ? まさか自分のしでかしたことを覚えてないんですか?」

「わしがこのような場所で漏らすわけがないであろうがこの愚か者がっ! 貴様は最低最悪の悪人じゃ! 自分の汚物を人に押し付けて、恥ずかしくないのかっ!」

「え? 俺が、陛下に?」

「ここに来るまでいつもいつもいつも! 何度わしに汚物を押し付ければ気が済むのじゃ!」

「ここに来るまでって……俺はずっとこの村にいましたよ? 何か勘違いしてるんじゃないですか?」

「黙れっ! 貴様以外にこんなことをする者がいるはずないじゃろう! 木の陰に隠れていつもわしの様子をうかがっておったなっ!」

「…………」


 どうやら陛下の中では漏らしたのは自分じゃなくて俺らしい。しかも汚物を陛下のもとに投げ捨てるという異常な行動に及んでいるようだ。


 はぁ、本当にめんどうな客人だな。俺の知り合いじゃなかった絶対村長さんに全部押し付けるのに……。


「クロイスっ! 聞いておるのかクロイスよっ!」


 陛下たちがここで泊るのは確定。それなら汚物だって自分で片付けるだろう。俺がわざわざ掃除する義理も義務もない。


「じゃ、じゃあそういうことで。陛下、おやすみなさい」

「待たんかクロイスうううううっ!」


 うう……頭が痛い。

 俺は追いかけてくる陛下を無視してさっさと逃げ出した。

 追いかけて……来ないよな?

 


 *******


 翌日。

 俺は納屋の様子を見に来た。


「どうしようなぁ」


 陛下と俺が顔を合わせるのは良くないと思う。しかし一応村長から対応を任された以上、放置しておくわけにもいかない。

 

 やはり変に同情せずさっさと追い出せばよかったのか?

 昨日の様子を見る限り、それが最善手だった。人を集めて追い出してしまうべきだった。

 陛下には悪いが、そうしてしまおう。


 そんなことを考えながら納屋に近づいた俺だったが、すぐにその足を止めることになった。


 あれは……陛下?

 

 陛下は建物の裏に身をかがめ、隠れるようにしていた。

 どうしたんだ? まさか王国から追手が?


「へいかー見つけた!」


 あれは……。

 近所のジョンソンさん家の子供だったはずだ。ここに遊びに来ていたのか?


「ふふ……わしを見つけ出すとは見事じゃな」

 

 陛下がそういって立ち上がった。

 

 見ると陛下を見つけた子供だけではなく、周囲には数人の子供たちがうろうろしていた。どうやらかくれんぼをして遊んでいたらしい。

 

「へいかー、次は次は?」

「では次は王宮貴族が嗜む高度な遊戯――蹴鞠について説明しようかのう。皆、よく見ておれ」


 陛下はそう言ってボールのようなものを蹴り始めた。

 子供たちもすぐにそれを真似ている。


「…………」


 意外だった。

 あの陛下が子供たちと仲良くしているなんて。


 ああ見えても人の親だ。子供に対してだけは情のようなものを持っていたのかもしれない。

 とはいえ子供に優しいだけでこれまでの行いが許されるはずもない。俺の心証はたいして変わっていなかった。


「おお、これは……」

「村長?」

 

 どうやら村長も様子を見に来ていたようだ。


「ふむ、ああ見えて子供にだけは優しいようだな。すぐにでも追い出すつもりだったが……」


 村長が感心した様子で呟いた。昨日まで嫌そうな顔してたのに……。


「追い出さなくていいんですか? 俺はやっぱり追い出した方が……」

「まあ、もう少し様子を見ることにしよう。使っていない納屋程度、数日占領されたところで問題ないからな」

「は、はぁ」


 本当に大丈夫なのか?

 でも納屋に泊める話を承諾したのは俺だからなぁ。今更やっぱり駄目ですなんて言いにくい……

 何事も起こらなければよいのだが……。


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