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糞紋


 黄金ハエが陛下を呪った。

 その呪いの紋の名は……〈糞紋〉。

 なんでもう〇こを漏らしてしまう呪いらしい。


「な、何をバカなことを言っておるのじゃこの愚か者どもは? わしはレギオス王国の国王ぞ! このような恥知らずな呪いに屈することなど絶対にありえん! わしの中の高貴な血が、必ずや邪な力を打ち破るはず……」


 ぐぎゅるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるる。

 

 と、陛下の腹が鳴った。

 ああ……話をしたそばからこれだ。外にまでこんなに音が響いてしまうなんて、これはなかなかすごい奴が来そうだ。


「…………」

「陛下、トイレはあっちですよ。掃除したばかりなので安心ですね」

「…………」

「聞こえてますか陛下?」

 

 おなか痛すぎて動けないのかな? こんなところで漏らされたら困るんだが……、なんとか踏ん張ってもらいたいところだ。


「陛下、ほんの数十歩歩くだけでトイレなんです。少しこらえてくださーー」


「お゛っ♡」

 

 え?

 き、聞き間違いかな? 今、陛下がこの場に全然似つかわしくない奇声を上げたような気が……。


「へ、陛下?」

「お゛っ♡ お゛っ♡ お゛っ♡ お゛っ♡ お゛っ♡ お゛っ♡」


 恍惚の表情を浮かべた陛下が、奇妙な声を上げている。漏らしてしまいそうなほどに腹が痛い……はずなのに。


「お……おしりミルクうううううううううううっ! おしりミルク出りゅうううう!」


 ブリュュブリリリブリチブリュブリュブ! ブボボッボボボボッ! ブリュルルルルルルルッルルルルルッルルルルルッルルッルッ! ブリュルルルルルルルルウウウウウウウウウウウウウウッ! ブボボボボボボッッボッ! ブリィッゥ! ブリッリ、チッブリブリブリブリブリブリブリブリリイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイッ! 


「ぴぇあああああああああああああっ! おしりミルクぅうううう、わしのおしりミルクが、ぴゅぴゅってえええええええ、んほおおおおおおおおおおおっ! んぎもぢいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいっ!」


 ……、こ……これは…。

 な……なんて恐ろしい呪いだ。ただでさえ漏らしたことのある陛下に、これ以上の恥辱を与えてしまうとは想像もできなかった。正気に戻った時本人は果たして自分の行いに耐えられるのだろうか?


 陛下は奇声を上げながら漏らしている。しかもどうやら正気を失っているらしく、ダブルでピースしながらアヘ顔だった。


「あ、あの、大臣のところに案内しますね」

「う、うむ、そうだな」


 俺とエルフの王は陛下を見捨ててこの場から立ち去ることにした。


 さすがの俺でもハエの呪いを解くことは無理だ。

 許してくれ、陛下。


「あひぃいいいいいいいいいんっ! 国王なのにいいいいいいい、国王なのにいいいい恥ずかしいところ見られちゃうのおおおおおおお! らめええええええええっ!」


 さよなら陛下。

 正気に戻ったら近くのトイレで後始末してください。水道もちゃんと水が出るようにしてありますので……。



 **********


 --一時間後。


「はっ……」

 

 〈糞紋〉によって正気を失っていた元国王、アウレリウス=レギオスは目を覚ました。


「わしは……一体何を」


 周囲にいたはずの軍勢はアウレリウスを無視して行軍している様子だ。遠目に見えるということは、ここから撤退し始めているということだ。

 そして――


「な、なんじゃこれはあああああああっ!」


 アウレリウスは己のおかれている状況に気が付いた。

 すなわち、下半身の大惨事を。


 アウレリウスには全く心当たりがなかった。自分が気を失っている間に、いったい何が起きたのかと思うばかりであった。

 そして――


「おのれクロイスううううううっ! 手の込んだ嫌がらせをしおって、絶対にゆるさぬぞ!」


 アウレリウスはそう結論付けた。

 非合理的に思えるこの結論の出し方は、〈糞紋〉による呪いの作用であった。この呪いは自分の行いを一切自覚させない……おそるべき力があった。

 

「覚えていろクロイスううううううううっ!」


 国王は吠えた。すでにこの場からいなくなったクロイスへ、復讐を誓うのだった。


「お父様っ!」

「おお……エリーゼ! エリーゼか!」


 失意の国王のもとへと現れたのは、娘のエリーゼ=レギオス。

 彼女もまた国王とともにガルド連邦王国の軍勢として後方に控えていた。しかし全軍が一時退却状態となったため、こうして国王と合流することにしたのだった。


「うう……お父様、その姿は……」


 エリーゼは顔をしかめた。

 国王の惨状は見た目はもとより鼻にも不快な刺激を与えるものであり、落ちぶれたとはいえ王族の彼女にとって到底受け入れられるものではなかった。

 もっとも、かつての自分も似たような状況に陥っていたのだが、それは黒歴史として記憶の中に封印している。


「おお……エリーゼよ。これは違うのじゃ、すべてはクロイスの仕業! わしには何の罪もないのじゃ! すべては奴が……奴が……、…………」

「お、お父様?」

「…………」


 急に無言になった父親に、エリーゼは不気味な何かを感じ取った。


「お゛っ♡」


 そして、第二の惨劇が始まる。



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― 新着の感想 ―
[気になる点] 誰得。 [一言] 誰得www 括約筋へのデバフだけかと思っていたがなんと恐ろしい。 むしろ本人より周辺への被害がでかい。 目に毒すぎワロエナイ。
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