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エルフの王

 トイレ近くの一団を倒した俺。

 しかし不本意にも大暴れしすぎてしまったため、遠方に控えていた覗き魔たちの本陣が動きだしてしまった。


「…………」


 逃げようかと思ったが、さっき自分で生み出してしまった地割れによってそれすらも難しい。人助けをしていてこんなことになってしまうなんて、むなしい話だな。

 

 結果、俺は大軍を前に立ち尽くすことしかできなかった。


 本陣襲来。


 だが、奴らは俺の生み出した地割れ級の力を警戒しているのだろうか、ある程度距離を詰めた後は前に進んでこなくなった。

 統制のとれたその行動に、俺はただただ感心するばかりだった。


 やがて、集団の中から一人の男が現れた。


 亜人。そしてその長い耳を見てすぐにわかる、エルフだ。

 金色の王冠を身に着けた、この鎧姿の集団においてはずいぶんとイレギュラーな存在だった。


「へ、陛下っ!」


 俺が助けた男の一人が、まるで王様を前にしたかのようにひれ伏している。

 こいつらのリーダーか何かなのだろうか?


「お下がりください陛下っ! この男は危険です。陛下の身に万が一のことがあれば、我々は死んでも死に切れません」

「よいのだ」


 陛下、と呼ばれたエルフは男たちの悲鳴のような声に従うことなく、俺に近づいてきている。


「この者は紛れもなく強者。であればガルド連邦王国一の神聖魔法の使い手である我が挑まねばならぬ。虐げられた臣民を見捨てて何が王か? 何が陛下か? 皆、後ろに下がるのだ」

「はっ!」


 俺が助けた変質者たちは一斉に後ろへと下がった。


「痴れ者め、よくも我が臣民を……」

「い、いや、俺はここまでするつもりはなくて……。やりすぎたことは謝るつもりだ」

「…………」


 瞬間。

 ずん、と頭上からの衝撃を感じた。

 別に何かで頭を殴られたわけではない。場の空気が数倍重く、そう感じてしまうほどのプレッシャーを食らっただけだ。


 エルフが手を振った。ただそれだけで頭上に精密かつ巨大な魔法陣が出現し、このような状態になってしまったのだ。


「四大精霊による元素聖典――〈アルカナ〉。我が最大の奥義はあらゆる敵を葬り去る至高の魔法」


 こ、こいつは強い。


 覗き魔のくせになんて実力者だ。もう俺の手に負えるレベルを超えている。

 

「何者かは知らぬが人間よ。レギオス王国に生まれたことを恨むのだなっ!」


 頭上の魔法陣が、まるで太陽のように白く光り輝いている。何か強大な魔法が放たれる前触れだ。


 …………。

 …………。

 …………。


 ど、どうするんだよおおおおおおっ! 俺ただのトイレ清掃員なのに、こんな最強魔法使いに勝てるわけないだろおおおおおおおっ!

 誰かあああああああああ、助けてくれえええええええっ!


「みっ!」


 俺の心の叫びに応じてくれたのか、土を分けてにょきっと現れたのは大ミミズのみぃちゃんだった。


「みぃちゃん」


 俺の前に?

 もしかして、庇ってくれてるつもりなのか?


 ああ……みぃちゃんありがとう。

 でも……みぃちゃんじゃどうにもならないよな。

 でもその気持ちはとても嬉しかったぞ。きっと俺このまま死ぬけど、死ぬときは一緒だな。巻き込んじゃって本当にごめん。


 迫りくる光の奔流を目に焼き付けながら、俺は死を覚悟した……。


 のだが。


「みっ!」


 みぃちゃんが体をうねうねっとさせたかと思うと、その衝撃でエルフの魔法が吹っ飛んでいった。


「は?」

「なにっ?」


 これには一同驚いて言葉を失ってしまう。


 え?

 みいちゃん、今のすげー魔法防いじゃったの? もしかして実はめっちゃ強いんじゃないのか?


 い、いや、属性の関係でうまく弾けた可能性もある。みぃちゃんは不思議な存在だから、こう……なんというか、未知の法則が働いて、大した力がなくてもうまくいってしまった可能性が……。

 だってただのミミズなんだぜ? そんなすごい力があるわけない……よな?


「ふん、ずいぶんと大きなミミズだな。珍しい。貴様の友人か?」

「ああ、俺の友達だ」

「まさか、我が奥義をこうも容易く防がれてしまうとはな。王位に就き百年以上になるが、ここまで見事な防御は初めてだ」


 と主張するエルフではあるが、あまり悔しそうには見えない。最大最強の奥義じゃなかったのか?


「だが我が奥義を防いだからといって勝利したとは思わないことだな。我には奥義に至らぬまでも必殺技が百以上存在する。威力、範囲、あるいは素早さなどごく一部の性能は奥義すら上回っている」

「…………」

「さあレギオス王国の兵士よ。果たして先に力尽きるのは、どちらかな?」


 どうやら俺の危機的状況はまだ続くらしい。

 ああ、他の攻撃もみぃちゃんがうまく防いでくれないかなぁ。


「ブブブブ」


 あ、ついさっきやっつけた黄金ハエまでやってきたぞ。


「お前、俺のこと助けてくれるのか? だったらトイレにいたときみたいに他のハエたちを呼んで目くらましか何かにしてくれないか? 俺はその間に逃げるからさ」

「ブブブブ」


 と、鳴き声のように羽を鳴らすだけで俺の頼みを聞いてくれる様子はなかった。

 まあみぃちゃんの知り合いというだけで俺の友達というわけではないからな。助けてくれなんていうのは少し虫が良すぎたか。


 うう……そろそろ第二撃が……。

 ……ん?


「あ……ああぁ……」


 エルフの様子がおかしい。

 黄金ハエの方を見ながら、がたがたと体を震わせている。魔法を解除してしまったのはもちろんのこと、立っていることすらままならなくなってしまったらしく、地面に座り込んでいる状態だった。


「あ……あ……ああぁ……ああああああああなた様はあああああ」


 ……え?

 こいつ、このハエと知り合いなの?


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― 新着の感想 ―
[一言] ハエ…  ハエねぇ…?   ベルゼブブ…?
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