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高圧洗浄機『強』


 トイレに現れた変質者を吹き飛ばした俺。

 しかし外に出て出会ったのは、変質者と同じ武具を身に着けた軍人風の変質者たちだった。

 

 まさかテイラー大臣から聞いていた『痴漢軍団』がこの場に現れるなんてな。

 

「な、なんだとっ!」

「しっかりしろ! 動けるか?」

 

 近くにいた数人の変質者たちが、先ほど俺の吹き飛ばした男に駆け寄っている。

 どうやら仲間を介抱しようとしているらしい。


 そして、それ以外の数十人が俺を取り囲んだ。


「貴様、レギオスの軍人か? なぜこのようなところにいる? 一人か? 仲間はどこにいる?」


 金の兜を身に着けた男は、この数十人の集団の隊長なのだろうか? 覗きのリーダーとは情けない称号だな。


「俺は軍人じゃない。ただのトイレ清掃員だ」

「馬鹿を申すなっ! 我が国の精鋭をこれほど簡単に吹き飛ばすなど、ただの一般人であるはずがないだろうっ! 嘘をつくならもう少しましな嘘をつけっ! 我々を馬鹿にしているのか!」

「いやいや本当の話だって」

「ともかく、一般人を斥候に雇った可能性もある。万が一を警戒して拘束させてもらう。そして、今すぐ後ろのトイレを調べさせてもらうっ!」


 やれやれ……。

 いつまでこの小芝居を続けるつもりだ? 本当はトイレを覗きに来ただけの変質者のくせに。


 さっき戦ってみて良く分かった。

 俺のトイレ清掃用具でどうにかなってしまうほど弱い相手だ。さすがにこの数は驚いたけど、うまく脅せば追い返せれるかもしれない。


 少し……痛い目を見てもらおうか?


 俺は高圧洗浄機の設定を『中』した。


「くらえっ!」


 スイッチを押すと、ものすごい勢いで水が噴射させれそして……。


「あ……ああああああぁ、うっ、腕があああああああああっ!」


 変質者の腕を真っ二つに切り裂いた。


「はははっ、大げさな奴だな。安心しろ。俺のトイレ補修用接着剤を使えば、切れた腕なんてすぐに元通りだ」


 と、かなり精神に問題ありそうな発言ではあるが、もちろんこれはわざとそう言っている。こうでもしないと脅しにならないからな。

 ちゃんとトイレ補修材で治るんだぞ? そこは本当だぞ? カールさんもそれで治したんだからな。


 とはいえ時間がたつとくっつくかどうか怪しい。俺はすぐに補修材を渡すため近づこうとしたのだが……、それを敵対行動と勘違いされてしまったらしい。変質者隊長は汗を垂らしながら大声でこう叫んだ。


「ぜ、全員っ! 陣を敷け! この男は一騎当千の強者だっ! 本陣におわす陛下に危害が及ぶ前に……我々の手で仕留めるのだっ! 私のことは放っておけっ! いいから行けっ!」


「「「応っっ!」」」


「ちょ、ちょっと待ってくれって」


 どうやら俺はこの変質者たちを本気にさえてしまったらしい。どれだけ弱い相手だといっても、これだけ武装した集団に攻められたら負けてしまう。

 持っている武器が武器だ。ケガだけでは済まされない可能性すらある。

 と、とりあえずこの高圧洗浄機を……。     


「あ……」


 や、ばい。

 高圧洗浄機のスイッチ、間違えて『強』にしてしまった。

 正直『中』でも強すぎるから一度も使ったことないんだけど、だ、大丈夫か? 下手をすると死人が……。


 しかし、もはやスイッチを押したものが止められるはずもなかった。


「は?」


 嘘……だろ。


 瞬間、水が噴き出した。

 高圧洗浄機はその強靭な噴射力で大地をえぐり、まるで地割れのような巨大な溝を出現させた。覗いても奥が見えない、人ひとりが十分にはいれるほどの溝だった。


 俺が予想していたよりもはるかに高出力だった。

 もはや自然災害と言っていいレベルかもしれない。


「う、うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」

「誰かあああああああ、誰か助けてくれええええっ!」

「落ちるううううううっ! こんな高さから落ちたら死んじまうっ!」

「あ……ああああぁ……ああああああああああああああああああああああ」


 俺を襲おうとしていた男たちが、断末魔の悲鳴を上げている。


 …………。

 いや、俺は悪くない。

 だ、だってそうだろ? 俺は設定『中』までしか使うつもりがなかったんだ。こいつらが襲い掛かってくるからついつい……。

 前から強すぎるなぁ強すぎるなぁとは思っていたけど、まさかここまでとは……。


 ……まあ、変質者が悪いということで。かわいそうだけど自業自得、ってことだよな。

 とはいえこのまま見殺しにしては少し目覚めが悪い。


「大丈夫か?」


 俺は今にも落ちそうになっている変質者の一人へ手を伸ばした。


「き、貴様、何のつもりだっ!」

「安心しろ、殺したりはしない。それにこのままだと落ちて死ぬぞ? 急いでくれ」


 警戒はしているようだが、俺を疑うほどに余力があるようには見えない。落ちかけの変質者は俺の手を強く握った。

 そして俺はその手を引っ張り、彼を救出することに成功した。


「はぁっ、はぁっ、はぁっ」

「息を切らしてるところ悪いけど、他の奴らも助けておきたい。手伝ってくれるか?」

「あ……ああ……」

 

 こうして俺は、先ほどまで争っていた変質者たちと協力して、他の奴らを次々と助けて行った。

 助けられた彼らは高圧洗浄機の余りの強さにただただ驚くばかりで、もはや俺に攻撃しようとはしてこなかった。


 だが、それはこの周囲にいた数十人程度の奴らの話だ。

 前方の異常を察知したのだろうか、背後に控えていた数千の軍勢が、一斉に動き始めてしまった。

 俺が今立っている、このトイレ周辺へめがけて。


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