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黄金ハエとみぃちゃん

 黄金ハエを見事トイレブラシでぶっ叩いた俺。

 大成功だ。

 これでさすがにあのハエも……。


「ブブブブブ」


 なんて俺の希望を全く無視して、黄金ハエは再び俺の前を飛び回っている。


 おいおい……今、めっちゃクリティカルヒットしたはずなんだが。俺でもあれを食らったら骨が折れてしまうかもしれないってレベルなのに。

 この俺を苦戦させるなんて……。あのでっかいオオトカゲ以上の難敵だ。

 

 黄金ハエは再び魔法陣を描いた。

 対する俺はトイレブラシを構えた。

 

 さあ、こいっ!

 第二ラウンドの始まりだ。


「みみみみっ!」


 と、今まさに熱いバトルを再開しようとしていたのだが、予想外のところで割り込みを食らってしまった。


「みぃちゃん?」


 地面からにょっきりと現れたのは、俺の友人。大ミミズのみぃちゃんだった。

 どうやら俺と黄金ハエの戦いを止めたいようだ。

 みぃちゃん、こんなハエにも優しいんだな。


 ……というかここまで馬車でやってきたというのに、みぃちゃん、やっぱりちゃんと追いかけて来れたんだな。地中では馬よりも早く動けるのかな? 土の中でのみぃちゃんの生態が気になる……。


「みみみっ!」

「ブブブブ?」

「みっ!」

「ブッ」


 気のせいか?

 みぃちゃんを見た黄金ハエは、これまでの好戦的な態度を改めたように見える。ちょこんとと地面に座り込み羽を鳴らしているその姿は、まるで旧友と話をしているかのようだ。

 俺と戦っていた時とは大違いだった。


 しばらく、二匹は話をしていた……ような気がする。実際のところ言葉は交わしていないんだが、コミュニケーションは取れているようだ。

 やがて、みぃちゃんが俺の方を向いた。


「みみみっ、み、み」


 みぃちゃんが必死に俺に何かを伝えようとしている。俺は友達歴が長いからな。なんとなくではあるが……みぃちゃんが何を伝えたいのかは分かる。


「えっと、何々。『人間にしてはなかなかやるな、俺の配下にしてやる』……って?」

「ブブブッ」


 みいちゃんがこんなこと言うわけないから、どうやらこの黄金ハエがそう言っているらしい。


「配下だなんて生意気な奴だな。お前が俺の配下になれよ」

「ブブブブッ!」


 今こいつ、俺のことを笑わなかったか? 

 ハエのボスというだけあってプライドも高いらしい。

 しかしあのままハエたたきを続けていてもいつ勝てるか分からないから、できる限り交渉で終わらせたいんだけど……。


「と、とにかくさ。俺はここのトイレを掃除することになったんだ。さっきまでみたいに大量にハエがいたら困るんだ。悪いけど出て行ってくれないか? ……って、俺の言葉伝えてくれる?」

「みみみみっ!」

「ブブブブ」

 

 翻訳してるのかそうでないのかは分からないけど、とりあえず伝わっていると信じたい。……というかそもそもこのハエ、翻訳なくても俺の言葉を理解してるんじゃないだろうか? なんとなく人間と同じレベルの知性を感じる。


「みみみみっ!」

「えっと何々、『王として配下の進言は聞き入れよう』……と?」


 ずいぶんと上から目線な奴だな。とは言え俺の話を聞き入れてくれたのか。


 黄金ハエがトイレから出ていく様子はないものの、俺への敵対心は完全になくなったように見える。こっちを見てるだけで邪魔をする様子はない。


 よしよし、とにかくこの黄金ハエを無害化することに成功したようだ。

 こいつさえいなくなれば、このトイレはただの汚れたトイレだ。放置されていて度を超えた汚さではあるが、俺に掃除できないほどじゃない。 



 黄金ハエの問題を解決した俺は、すぐに本格的な掃除を開始することとなった。


 黄金ハエはしばらく俺の様子を見ていたが、しばらくしてどこかに行ってしまった。新しい巣を見つけたのかもしれない。

 みぃちゃんはいつも通り土の中に潜ってしまった。呼べば出て来てくれるとは思うけど、今は目の前にいない状態だ。


 こうして、俺は掃除に集中している。


「ふぅ」


 久しぶりの大仕事に、俺は額の汗をぬぐった。


 仕上がり、70パーセントといったところか。


 細かい汚れは取れていないものの、トイレとして最低限使えるレベルには回復した。


 特に、下水管の詰まりを解消するのが大変だったな。

 俺が錬金術で作り上げた高圧洗浄機がなければどうにもならなかっただろうな。


 あとは細かいテクニックは必要ない。普通に掃除して、芳香剤を置いて、トイレットペーパーみたいな備品を置いて完成だ。

 最高難易度のトイレ掃除とは聞いていたが、あのハエ以外は大したこともなかったな。話をしてくれたみぃちゃんのおかげってことか。

 さて、残りの掃除も頑張って仕上げよう。


「……ん?」


 ブラシで個室の便座を掃除していると、ふと、外から足音が聞こえてきた。どうやら誰かが中に入ってきたらしい。

 

 清掃中の札をかけたはずなんだが……? ここは男女兼用のトイレだから、女性かもしれないな。

 まだ掃除が完了してない汚いトイレもある。できればそこは使わないでほしいのだが……。


「あのーすいません。清掃中ですので……こちらのトイレを……」


 俺は個室から出て、来訪者にそう注意した。 


「……なっ!」


 しかし俺はそこで驚愕の声をあげることになった。

 来客はただの旅人ではなかった。まるで戦争かとでも言いたげに、全身鎧とロングソードを装備した兵士だったのだ。


「き、貴様っ! 何者だっ!」


 男が剣を構えて俺を威嚇する。


「…………」

 

 まさか、本当に武装した男と出会うだなんて……。


 テイラー大臣の言った通りだった。 


 そう、俺はこの男について事前にテイラー大臣から話を聞いていたのだ。この男は兵士でもなければ旅人でもない。

 この男の……正体は……。


「貴様が……噂の覗き魔か?」


 このトイレを覗きに来た変態。

 それがこの男の正体だった。


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