表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/68

大臣の依頼


 ガルド連邦王国軍、進軍開始。

 その報はすぐにレギオス王国首都へともたらされた。

 

 前国王による戦争に圧勝して以来、両国は火種を残しながらも平穏を保っていた。しかし新王の即位という変化があっても、彼らの怒りは収まらなかったらしい。


 その日、テイラーは夢を見た。

 強く願った結果なのかもしれない。信仰にすがる彼にとって、まさしく神である存在そのものが降り立ったのだ。


 創世の女神ヨハンナだ。


 テイラーは膝を折って嘆いた。


「もう私たちは終わりです。このままでは祖国は蹂躙され、途方もない被害が発生してしまうでしょう。私は一体……どうすれば……」

「安心しなさいテイラーよ。この国にはあの方……国王クロイスがいるではありませんか」


 国王クロイス。

 テイラーによってプロデュースされたこの国王は、女神の力を扱うことができる。かつて勇者と称されたエリーゼがそうであったように、この戦争でも大活躍できるほどの力があるのだ。


 そんなことはテイラーも分かっている。

 だが……素直に彼に頼めない事情があるのだ。そしてその事情とは、他ならぬ女神ヨハンナ自身が関係することであった。


「た、確かに女神の力を持つクロイス殿なら敵を倒すことができるかもしれません。しかし彼は自分が国王であることを知らないのです。村の外に出てしまえば、自然と彼自身が国王であることを自覚してしまうかもしれません」

「確かに、その可能性がありますね」

「も、もしその結果、クロイス殿が国王になりたくないなどと言っても、仕方ないですよね? 国王をやめるなどと主張しても、それは彼自身の気の迷いであって、実際に国王でなくなるわけではないのです。つまりクロイス殿はなんと言おうとこの国の国王であり、それは本人の意思とは全く無関係な国家の象徴として……」

「駄目です」


 テイラーは頭を抱えた。

 クロイスが国王だというお膳立てを済ませ、女神様を納得させた。そこまでは良かった。しかしクロイス自身が国王であることを自覚し、それを『NO』ということはアウトらしい。

 

「う……うううぅう」

「考えるのです、テイラー。国王クロイスがどのようにして親征を行うのか? 大将の活躍する場を生み出すのは臣下であるあなたの仕事。できなければこの国は滅びます。私はあの方のスコッテ村以外はどうなろうと知りません」

「うう……ううううう……」


 もとより女神の力で圧勝した戦争だ。


 ガルド連邦王国の兵士は強い。

 森の精霊に心を通わせ扱う精霊魔法は、レギオス王国で扱われる魔法の数倍以上の威力がある。

 装甲馬に防御とスピードを兼ね備えた装甲騎士は、森の木をなぎ倒しながら走り抜けることができる。 

 エルフのエリートで構成された黄金射手は、1km先の的を正確に射抜くことができるとされる。

 

 どれもこれもただの人間に勝てる相手ではない。先の戦で圧勝できたのは、すべて女神の力を持つエリーゼのおかげであった。

 

 このままクロイスの助力なく戦争が進んでしまえば、間違いなく首都は火の海だ。かつてエリーゼが敵国にそうしたように、今度はこの国で虐殺が起きてしまうかもしれない。


「め、女神様。このままでは本当に国民が犠牲になってしまいます。どうか……どうかご慈悲を」

「あなたの国は以前勇者の力を使い多くの兵を殺してきたはずです。その報い、という考え方もできます。いずれにしろ、すべてはクロイス王にかかっている……ということでしょうか」

「…………」


 テイラーは再び考え始めた。

 どうすれば、この戦争に勝つことができるのかを。



 ***************


「ふー」


 俺は家のトイレを掃除していた。

 やってることは城での仕事と大して変わらないのだが、やはり周りの人たちが違う。城では文句言われたり見下されたりという不快な思いばかりだったが、ここでは普通に感謝されてばかりだ。


 毎日が充実している。 

 なんて言いきってしまえたら良かったのだが、最近やることがマンネリ化しすぎてちょっとだけ暇に感じている。


 しかし田舎ってのは本当に暇なところだな。来る前は静けさとか自然が恋しいと思っていたはずなのに、慣れてしまえばこうなのだ。

 人間ってやつは難しいな。


 さてと、俺にできることといったらトイレ掃除くらいだ。他の人の家や公共の施設も掃除して回っていこう。


「クロイス殿おおおお」


 家に近づいて来るあの人は……、先日俺にアンケート用紙を届けてくれた兵士さんじゃないか。


「また国勢調査アンケートですか? ずいぶんと頻繁に行いますね」

「いえ、今度は違います」

「……というと?」

「テイラー大臣から依頼を受けてまいりました」

「俺に? 大臣から?」


 まさかまた俺を国王に、なんてことはないとは思うが……。

 国からの依頼、なんて想像もつかない。ただのトイレ清掃員である俺に一体何を求めているのだろうか?


「クロイス殿に、トイレ掃除を依頼したいです」

「……トイレ? まさか、また城のトイレが」

「いえいえ、城のトイレは全く問題ないのです。あなた様にしか掃除できない、最高難易度のトイレがありまして」

「最高難易度……」


 なんだその胸躍る単語は。ちょっと興味が出て来たぞ。


「遠方ですので旅費と報酬は弾みます。私たちにはあなた様のトイレ清掃技術が必要なのです。どうか……」

「詳しい話を聞かせてくれ」


 こうして俺は兵士から話を聞くことにした。

 そして、その報酬の良さとトイレ掃除という仕事内容に惹かれ、俺はテイラー大臣の依頼を承諾することにした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ