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スコッテ村の調査


 ――一日後。

 

「うおおおおおおおおおおおおおおっ!」

「力が……力がみなぎってくるうううううううっ!」

「こんなに健康になるなんて……」


 病室には活気が満ち溢れていた。

 

 みんな元気になってくれたみたいだ。

 

 カールがいなくなったあと、俺は一人で薬を作り始めた。

 正直なところ途中で材料が足りなくなってしまい焦ったのだが、思いもよらないところで助けられてしまった。


「みっ、みっ、みっ!」


 みぃちゃんが材料となる薬草や木の実を集めてくれたのだった。


 みぃちゃんミミズだからな。初対面の人間はあまり快く思わないものなんだけど、薬の材料を持ってきてくれるという献身的な働きに、患者の人たちも気をよくしたらしい。


「ミミズ君もありがとうな」

「あんたも命の恩人だよ」

「ミミズって何食べるんだ?」

 

 こんなに人に好かれてるみぃちゃんは初めて見た。城の地下にいたころは、時々見つかって石を投げられたりしたこともあったのに。

 

「みぃ~」


 みぃちゃんも嬉しそうで本当に嬉しい。


「おお、良かった。クロイス君、まだここにいたのか」

「レベッカさん」


 いつの間に部屋の中にいたのだろうか、レベッカが中に入ってきていた。


「む、カールはどうした?」

「さあ……出て行ったっきり、戻ってこなくて」


 捨て台詞を残して以来、カールはここに戻ってきてない。本来患者を管理するのは彼の仕事のはずなんだが……。おかげで俺がここを離れられなくなってしまった。

 もっとも、今となっては全員完治状態だ。管理する人間なんていなくてもいいのだが。


「困った男だな。持ち場を離れていなくなってしまうとは、研究者としても医者としても失格だ。大学に帰ったらすぐに助手を解任しよう。退学の勧告を学長に提言しておく」

「…………」


 残念な男だな。もっと俺と理解しあえていれば……。


「それに比べて君は素晴らしいっ! 台所の清掃用具からヒントを得たあの薬は、私たち凡人には到底思いつけないほどのユニークで効果的なものだった。しかもこうして患者たちのために残って働いてくれる、責任感の強い男だ」

「ははっ、買いかぶりすぎですよ。清掃員だから清掃関係の道具しか作れないだけなんで」

「私は君のように知性にあふれた人間が大好きだ」

「知性だなんて……俺なんてただの平民、しかもトイレの清掃員ですよ」

「そんな……身分なんて関係ないっ!」

  

 レベッカが俺の手を握った。


「私は君が欲しいんだ。これまで出会った人たちの中で、心から尊敬できる人なんていなかった。誰かに対してこんな気持ちになったのは初めてなんだ。どんな宝石やドレスや美術品よりも、君は美しく輝いて見える」

「えっと……レベッカさん?」


 レベッカは瞳を輝かせながら俺に迫ってくる。

 キスしてしまいそうなほどに近い。


 俺は思わず顔を背けてしまった。

 こういう経験がないから恥ずかしかったんだ。

 

「す、すまない。少々興奮してしまってね。はしたない真似をしたことは目を瞑ってほしい」

「分かってます」

「と、とにかく、私は君を迎え入れたいんだ。クビにしたカールの代わりに私の仕事を手伝ってくれないか? 清掃員時代の三倍、いや四倍の給料を保証する」

「いえ、俺なんてただのトイレ清掃員です。大学とか研究とか、そんな高尚なものは向いてないと思いますので……」

「名刺を渡しておこう。その気になったらいつでも声をかけてくれ」

 

 うーん、そんなときは来ないと思うんだけどな。

 そこまで無下に突っぱねる必要もないか。


 俺は丁寧に名刺を受け取っておいた。


「みんなも治ったみたいですから、俺はこれから故郷のスコッテ村に帰ります。またいつか、縁があればお会いしましょう」

「君はスコッテ村の出身なのか?」


 と、レベッカは驚いた様子で問いかけてきた。

 やっぱり、例の病が広がってるのか?


「そうですけど」

「私はそもそもスコッテ村の近くまで調査をしていてね。あの辺りは大変危険で、住民全員が避難しているほどだ。避難が早かったから死者が出ず軽症で済んだのは幸いだったが……」

「…………」


 なんてことだ。

 そんなことになってるなんて。王宮のトイレ清掃真として働いていた時は、外の情報なんて全然入ってこなかったからな。


「村長さんや母さん、大丈夫なのかな」

「住民は全員避難しているから、何も心配しなくていい。ここの人々に比べ、症状も軽症だ。君の薬があればすぐに治るさ」


 薬はある程度作っておいた。錬金術での製法も伝えたから、きっとしばらくすれば数がそろってくるはずだ。


「そうだ、君の力があれば何かが分かるかもしれない。私と一緒に北の方まで来てくれるか? 現地を確認したいんだ」

「え、大丈夫なんですか? この前体調不良で死にそうになったばかりなのに、また同じ病気にかかってしまったら」

「あはは、君は心配性だね。体調が悪くなったら君の薬で治せばいい、だろ?」


 そういって、茶目っ気のあるウインクをするレベッカ。


「だろ……って」


 そんなことで大丈夫なのだろうか? 体がボロボロになってしまうような。

 でも、俺の田舎が危ないというのなら、無視できる案件じゃない。


「分かりました。俺も無関係じゃありませんからね。一緒に現地まで行きましょう」

「案内は私が行おう」


 こうして、俺たち二人はスコッテ村の方向へと向かうこととなった。


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