超絶イケメンで超絶いいヤツがハーレムを寝取られたら
放課後。校舎裏に5人の男女が集まっていた。
勇気、芽衣、鈴香、凛4人に向かい合う形で健一が立っている。
「話って何?芽衣と鈴香と凛もいるみたいだけど……」
「くっくっ……まだわかんねぇのか。本当滑稽だなぁ!」
不思議そうに首を傾げる健一。実際、まだわかっていないのだろう。
「僕、勇気君に何かしちゃったのかな……」
勇気が皮肉気に笑っていると勘違いしたのか、申し訳無さそうに聞いてくる。
「あぁ!したよ!」
「ご、ごめん!不快な思いをさせてしまって……」
「人の家に毎日毎日通い続けやがってよぉ……まあ、そのお陰でこの女共をゲットできたんだけどよぉ!」
不登校だった勇気。そんな勇気を学校に行かせるため、先生に頼まれて健一は勇気の家に通っていたのだ。
だが、勇気の「健一の3人の彼女とも会ってみたい!」というきっての希望により、健一、芽衣、鈴香、凛の4人が1日交代のローテーションで勇気の家に訪れるようになっていた。
「女達をゲット……?どういう事?」
「教えてやるよぉ!この3人はなぁ!…………もう俺に寝取られてるんだよぉ!」
「嘘……だよね……」
健一がそう3人に尋ねるも、当の3人は目を逸らし、どこか焦燥している。
それは、健一が全てを察するのに十分な物だった。
「3人共ベッドの上じゃすげぇ泣き虫なんよ。俺が突いてやる度にアンアン喘いで凄いんだぜ?」
「3人とも……今の話は……本当なの……?」
「ごめんね………でも、彼の……凄く逞しくて……気持ち良いの……」
「悪いとは思ってるよ……」
「ごめんなさい……」
決定打。
芽衣、鈴香、凛。全員寝取られた。
「今の気持ちはどうよ!?悔しいか?俺を恨んでるか?まあどうにせよ、お前は負けたんだよぉ!」
勇気は下卑た笑みを浮かべて健一を煽る。
健一は顔を俯かせ、怒りで拳を固く握りしめ…………………
なかった。
「……そっか。……じゃあ勇気君。芽衣と鈴香と凛の事、よろしくお願いします。……3人共本当に良い子だから大切にしてね?」
「…………………は?」
理解不能と言わんばかりに呆然とアホ顔を晒す勇気。
「お前……悔しくねぇのかよ!?幼少期から仲が良かった幼馴染も、お前を気にかけてた生徒会長も、うざ可愛かった後輩も!全員俺に寝取られたんだぞ!?」
勇気自身もこの質問は自分の役割では無いと、自分が聞くべき質問ではないとわかっていた。
……………わかっていたのだが、意味不明すぎて、衝動的に聞いてしまったのだ。
「悔しくない訳が無いよ。………けど、1番重要なのは3人の幸せであって僕の幸せじゃない。3人が幸せになれるなら、僕が彼女達の側に居なくてもいい」
曇り一つない穏やかな表情でそう言った。
「健一……」
堪らず、芽衣が声を上げる。
「芽衣、僕達は4歳の頃から一緒だったよね。成長するに連れて疎遠になったりもしたけど、2人でショッピングモールに行ったり、遊園地に行ったりしたよね」
「うん……うん……」
「僕、芽衣の彼氏になれて本当に良かった。君といる時間は本当に落ち着いて、気持ち良くて………幸せだった」
「……うぅ……ぐす……ご、ごべんなざいぃ……裏切っじゃっでごめんなざぃ……」
今までの健一との思い出がフラッシュバックしたのか、たまらず芽衣は泣き出した。
「良いんだよ……芽衣は何も悪くないよ……よしよし」
仏の様な、慈愛溢れる笑みで芽衣を慰める健一。
「うぅ……ぐす……わだしも……ごめんなざいぃ……健一ぐぅん……」
「ぜんぱぁぃ……うぅ……」
「ほーら、二人も泣かないの。よしよーし」
「二人と色んな所にいったよね。鈴香とは映画や水族館。凛とは猫カフェや海。……二人と過ごした時間はとても楽しくて、かけがえの無い物だった。でも、毎回お腹が痛くなったり、レストランの予約を忘れてたり。不甲斐ない彼氏だったよね。本当にごめん……」
「ぞんなごとない……」
「わだしにはもっだいないぐらいのいい彼氏だっだ……!」
「二人ともありがとうね」
その傍ら。
(何故、寝取ったはずなのに……良い雰囲気になっているんだ………?)
勇気は1人、戦慄した。
そんな勇気に、健一は話しかける。
「勇気君、僕は君になら3人を任せられるよ。何度も何度も君の家に行って、君の良いところを見てきたからね」
愛しの彼女を寝取られた男とは思えない、爽やかな笑顔。
「……俺に良いところなんてねぇよ」
「あるよ!何事にも真剣勝負が出来る所。前に一緒にゲームした時は、本当に楽しかった!」
「……」
「他にもあるね。でっかい夢を持っている所!宇宙飛行士になりたいって前に話してくれたよね。めちゃめちゃカッコいいと思う!」
「……笑っちゃうぐらい無謀だろ?」
「そんなことない!夢は目指さないと始まらない。勇気君はもう最初の一歩をクリアしているんだ!凄い事だよ!」
「……」
「他にも勇気君の凄い所は沢山あるよ!」
「……ねえよ」
「……だから、もっと自分に自信を持って欲しいな」
「……持てるわけねぇだろ!学校にも行けない出来損ないの俺が!親からも失望されている俺が!そんなの無理に決まってんだろ!」
勇気は激昂した。まさしくそれは彼の心の叫び。
健一への劣等感、優越感、罪悪感……それらの感情を生み出すに至った、自分のどうしようもない境遇への苦しみをその叫びに乗せていた。
「学校なんて行かなくてもいいじゃないか。親が勝手にした期待になんて答えなくてもいいじゃないか。君はとっても魅力的で、強い男の子。だけど少し背負っている荷物が多過ぎるよ。少しぐらい、僕にも持たせてくれないかな?」
勇気は涙と鼻水でぐちゃぐちゃにした。
そんな彼を健一は女子3人にしたように優しく抱きしめた。
このセリフで、勇気は健一との格の違いを見せつけられてしまった。ただ、そこにもう劣等感は無い。
健一のそれは、完全に敗北を認めるに値するものだった。
「……なんでだよ。なんで……そんなに良い奴なんだよ………」
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あれから半年が経った。
「健一せんぱぁぁぁい!」
「健一くぅぅぅぅん!」
校門へ向かう健一。今日も今日とて大人気である。
あの寝取られ事件の後、健一と3人の彼女が別れた……もとい健一が寝取られたという噂が学校中に知れ渡った。
なんでも風の噂によると、健一のストーカーが校舎裏での出来事を全て盗み聞きしたらしい。
寝取られた3人は学校中から目の敵にされ、不登校の勇気の悪評も広まりに広まった。
だが雲行きが怪しくなったのはその後の事。学校に来ていない勇気はともかく、他の3人の女子が健一の事が好きなファンから悪口がエスカレートしたいじめを受けるようになった。
理不尽でもなんでも無い、心当たりのありすぎるいじめの原因。健一がいながら他の男と浮気した売女。
彼女達は自らを責めるあまり、周りに助けを求められず次第に病んでいった。
そんな彼女達を救ったのは、やっぱり健一だった。
なんでも、彼は塞ぎ込んでしまった3人の家に足繁く通い詰め、時に励まし、時に甘やかした。
いじめ自体も、彼がいじめを快く思っていない事が全校に広まった途端、パッタリと見なくなった。
「せんぱぃ……」
「健一……」
「健一君……」
彼のその行動が、目に一切の光を灯さない、後悔をその身に宿した重い女達を生産したなど、彼の知る所ではない。
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裏設定
・寝取り男の勇気と女子3人は、寝取り報告の後に後悔しまくって破局。
・勇気の家に健一は週2で通い、ゲームをしたり、相談に乗ったりしている。
・女子3人と健一の関係は良好。3人の謝罪を健一は受け止めて、友達として一から始めようととしている。勿論女子達は元鞘狙い。
・健一は一切4人の事を恨んではいない。自分が不甲斐なかった事が原因だと思っている。が、時々悪夢としてフラッシュバックするあたり、トラウマにはなっている。
・健一はとにかくモテる。顔が良いのもあるけどいかんせん優しい。
・何故当たり前のようにハーレムなのかは、読者の皆様の想像にお任せします(笑)続編出す場合はその部分も明確にすると思います。
この作品をご覧になった皆様、本当にありがとうございます。
※この作品はカクヨムにも掲載しております。