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11話

       11


 四人が城内に入ると、背後で轟音がした。ユウリは振り向いた。背丈の三倍近い堅牢な門が完全に閉じている。

「ふむ、狙い通りだ。ファルヴォスを倒した者と相見えんと策を凝らしてみたが、斯様(かよう)に上手くいくものか」

 思慮深い雰囲気でリグラムは弁じた。ユウリはきっとリグラムを睨み付ける。

「あなたは何者なの?」警戒を滲ませた語調でフィアナが問うた。

「そうか、そちらのお嬢さん二人はあの時、気絶していたのだな。良かろう。名を名乗る。

 私はリグラム。悪竜(ヴァルゴン)を率いる将にして、悪竜邪装(エヴィラルヴィーガル)を極めし者だ。お目にかかれて光栄だ。年若き英雄たちよ」

 勿体ぶった調子の口上を終えると、リグラムは小さく会釈した。

「敵! すなわち先手必勝ですっ!」カノンは声を張り上げるとすばやく黒黄刀を引いた。刹那、その姿がぶれて、リグラムへと剣撃が飛ぶ。聖都で見せた居合い切りである。

「無粋だな、幼き剣士よ。戦いの前に余興を準備してあるのだよ。死に急ぐのはそれを見終えてからでも遅くはなかろう」

 リグラムは余裕な様子で語った。脇腹の高さに置いた右手は、親指と人差し指でカノンの黒黄刀を捕まえている。

「そんなっ! わたしの最速の技を……!」カノンは焦った様に喚いた。つぶらな目は驚愕に見開かれていた。

「離しなさい!」叫んだフィアナは子ユリシスの槍を生成。小さく振りかぶって投擲し、リグラムを刺し貫かんとする。

 リグラムの左手が動いた。易々と槍を捕捉し、反対方向へと放って捨てる。

 カノンは黒黄刀を消して、飛びすさって危険な間合いから逃れた。

「ファルヴォスをたおしたからとて図に乗らぬことだ。あの者は次席ではあるが、至高にして唯一無二たる私との力差は歴然。比較されることすら業腹だ」

 余裕を滲ませた調子でリグラムは言った。

(何だ、今の動きは! 速いなんてもんじゃあない!)ユウリは驚嘆する。

 突如、フォンッ! 風を切る音が耳に飛び込んできた。

「そうかそうか。ではそのご自慢の武力、このメイサ・アイシスで試してはどうだ? ただし、失敗した時の代償はとてつもなく大きいがな」

 剣呑な調子でメイサが言い放った。力を使っているのか、周囲で透明な何かが流動している。衣服や頭髪は重力に反してふわりと持ち上がっていた。

「ふむ、君はなかなかに厄介な能力を有しているようだな。負ける気はしないが、危険を冒す必要も無い。遠慮無く最大戦力でお相手するとしようか」

 楽しげに言うと、リグラムはふっと目を閉じた。両手を胸の前に持っていき、左拳を右の掌で握り込む。

(何だか知らないけど、そんな大きな隙を見逃すか!)ユウリは勇ましく思考し、雷槌(らいつい)を振るった。

 雷が高速でリグラムへと迫る。しかしリグラムの姿はふうっと掻き消え、一瞬の後にわずか左方に出現した。

「汝が(しもべ)にして敬虔なる信奉者、リグラムの名において告げる。顕現せよ、魔竜レヴィア!」

 リグラムの声が轟いた。すると突如として、晴天だった空に黒色の靄のようなものが出現。見る見る間に帝都の上空を覆い尽くした。

(何だ? こいつはいったい何をしようと……)ユウリが惑っていると、リグラムの頭上の靄がするすると降下してきた。リグラムは両手を解き、左掌を上にする。

 リグラムの左手に靄が集結した。刹那、バヂ、ズババチ! ドォン! 左手を基点に轟音が鳴り、凄まじい光が放たれた。

 ユウリは反射的に目を閉じ、少ししてから開いた。再びリグラムの左手に目をやり、瞠目する。

 顔だけの悪竜(ヴァルゴン)が、リグラムの掌の上に浮遊していた。大きさはユウリの頭部と同程度である。

 通常の悪竜(ヴァルゴン)と大きく異なるのは、額にある三つ目の目だった。形は完全なる真円であり、中には黒々とした瞳が見られる。

(なんなんだよあの眼は! 怖くて恐ろしくて禍々しくて……。見られているだけで気が変に──)

 ユウリは戦慄した。気がつくとガチガチと、恐怖ゆえユウリは歯を鳴らしていた。身体に力が入らず、少しでも気を抜いたら崩れ落ちてしまいそうな気すらする。

「奴の言が正しいのであれば、あの忌まわしい頭部のみの竜が魔竜レヴィア、か。とんでもないものを持ち出してきたものだな」

 深刻な調子のメイサの声がした。ユウリはどうにか顔を上げた。メイサは鋭い眼差しをレヴィアに向けている。

「ユウリ、私がレヴィアを引き受ける。リグラムを頼んだぞ。期待している」

 重い調子のメイサの呟きの直後、レヴィアが動き出した。滑るような挙動でユウリたちへと迫ってくる。

 メイサが前に出た。レヴィアが突進してくるが、メイサの手前で停止。刹那、衝突点が青く発光。竜巻が発生し、レヴィアを包んだ。

 竜巻は一瞬にして巨大化。風の勢いによってレヴィアは後方へと加速。目にも留まらぬ速度でぶっ飛んでいく。

(確かに魔竜レヴィアはおぞましい。けどメイサ先生の絶燕絶壁アブサルト・レフィクションは有効みたいだ! どれだけ耐久力があろうと、メイサ先生にダメージが行かない限りはいつかは勝てるはず──)

 ユウリが希望を抱いていると、ブシュッ! 嫌な音がしてメイサの左腕が裂けた。すぐにどくどくと血が噴出し始める。

(なっ!)ユウリが驚愕していると、メイサはわずかに上げた左腕に不審げな視線を向けた。

「ほう、さすがは悪竜(ヴァルゴン)どもの神といったところか。絶燕絶壁アブサルト・レフィクションを突破してくるとはな。一筋縄ではいかなそうだ」

 メイサの声色は険しかった。「先生!」ユウリが思わず叫ぶと、メイサはいつもの不遜な笑顔を浮かべた。

「なに、案ずることはないさ。悪竜(ヴァルゴン)闇星(ウステル)でも歯ごたえのある敵には出会えず、退屈していたところだ。魔の神との戦闘だなんて、実に愉快で刺激的じゃあないか」

 歌うような調子で呟くと、メイサはレヴィアの飛んでいったほうへと地を蹴った。

(メイサ先生は心配だ。でも俺が行ってもどうにもならない。リグラムに専念して、きっちり潰してやる!)

 決意固めたユウリは、リグラムを攻撃すべく構えた。

「ユウリ! おかしいわ! 門を入ってすぐとはいえ、帝都の人の姿がどこにもないだなんて!」

 フィアナの焦ったような調子の台詞が鼓膜を揺らす。

「案ずるな。殺してはいない」リグラムは薄く微笑んだ。

「たびたび邪魔が入るが、ここからは計画通り行こう。ユウリ・ヴェルメーレン。今から君にとある場面をお見せする。君が見たくて見たくて堪らないだろう決定的な場面だ。とくとご堪能あれ」

 芝居がかった調子の台詞の直後、リグラムの瞳が怪しく光った。するとふうっと、ユウリの視界が白く染まっていった。

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