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5話

       5


 神鳥聖装(セクレドフォルゲル)で低空を飛びつつ、ユウリは接近していった。

 十ミルトほど手前で着地し、わずかに遅れてカノンも追いつく。二人は降り立った何者かを見据える。

 女の子だった。身長はユウリよりわずかに低く、同年代と思われる。上下一体のスカートの上に、濃紺の上着を羽織っている。軍服を彷彿とさせる出で立ちだった。

「何者だ!」ユウリはぴしりと言葉を叩きつけた。見かけは女の子でも、警戒を緩めたりはしない。

 女の子はくるりとユウリたちに向き直った。肩にわずかにかかる栗色の髪がさらりと揺れる。すぐに両手を上げて、女の子はにこりと笑顔を浮かべた。

「驚かせてごめんなさい! そりゃあびっくりするわよね。空から人が下りてくるんだもの。あなたの反応はもっともだわ。

 私はフィアナ・マリアーノ。神蝶エデンの背面に広がる世界、エデリアに住む者で、軍学校の生徒です。あなたたちに害を及ぼすつもりはないの。どういう訳かエデンがこの大きな鳥に近づいたから、様子見で降りてきたのよ」

 自然で感じの良い微笑とともに、フィアナは良く通る声で叫んだ。ユウリはフィアナの全身を眺める。

 目鼻立ちのはっきりとした凜とした感じの美少女だった。どちらかというと眉は太めで、持ち主の実直そうな印象を高めている。すらっとした手足は細めだが瑞々しく、見とれてしまうものがあった。

「神蝶エデン? それはあの巨大な蝶の名前か?」

 ユウリはまだ気を張りつつ、上を指差し静かに問い掛ける。

「そうよ。エデンは私たちの神にして世界の全て……だったんだけど。不思議なこともあるものね。あなたたちも大きな生き物の上に住んでいるだなんて」

 爽やかに微笑みつつ、フィアナは澄んだ声音で返答した。

(純粋というか、無害そうな子だな。ルカの神託でも危ないわけじゃあないってことだったし、信頼しても大丈夫なのか)

 ユウリが考えを巡らしていると、「いけない、忘れるところだったわ」と、フィアナは俯いた。ごそごそと、上着の内ポケットを漁っている。

 その瞬間、ヒュン! とてつもない速度でフィアナから何かが飛んできた。一瞬の後、ユウリの隣で鈍い音がした。

 ユウリはとっさに顔を向けた。次の瞬間、どさり。カノンが地面に倒れ伏した。呼吸はしているが、気を失っている様子だった。

「カノン!」

 叫んだユウリはカノンの周囲を注視する。カノンの頭のすぐ近くに、ユウリの指先程度の何かがいた。暗黒色の体躯と厚い翼。大きさこそ違えど間違いなく悪竜(ヴァルゴン)だった。

(っ! 悪竜(ヴァルゴン)! こんなに小さいのは初めてだ! くそ、カノン!)

 ユウリは悪竜(ヴァルゴン)を踏み潰さんと跳躍。しかし小型悪竜(ヴァルゴン)は機敏に飛翔し、ユウリの踏みつけを回避しどこかへと飛び去っていった。

 ユウリはフィアナを睨んだ。まだ何かを取り出そうとして、ユウリから視線を外している。

(キラーヴォ)!」

 怒りのユウリは早口で神詞を唱えた。すぐさま黄色の翼と雷槌(らいつい)が出現した。

(俺としたことが油断した。姿形は違えど、あいつは悪竜(ヴァルゴン)の手先! 即刻排除して、カノンを救う!)

 固く決意しユウリは駆け出した。するとフィアナが振り向いた。瞠目するが一瞬で険しい顔になり、すっと目を瞑る。

神蝶聖装(セクレドフルトゥール)!」

 叫び声が響いたかと思うと、フィアナの背中に翼が生まれた。色は、鮮やかで煌めくような緑青色である。

 フィアナは目を開けた。敵意を湛える瞳をユウリに向け、すっと両手を腰の横に据えた。

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