表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/65

1話

第一章 神蝶と神鳥、邂逅す


       1


 さわ、さわさわ。一面を埋め尽くす白く細い草のようなものが、風を受けて微かな音を立てた。

 少女ルカ・ヴェルメーレンは胸の前で組んだ両手を解き、おもむろに瞼を開けた。遙か天上では無数の星が清らかな輝きを見せている。

 途方もなく巨大な鳥、神鳥ルミラルは、今日もルカたちを乗せて宇宙をいずこかへ飛翔し続けている。行き先は文字通り神のみぞ知る。誰一人としてわかっていなかった。

 ルカはこの神秘の地にて祈りを捧げるたびに、人の生の儚さと宇宙が刻んだ悠久の時をいやおうなしに感じるのだった。

「……あれ?」

 ルカは小さく独りごちた。視線の先、煌めく星々の一つが、ふいに黒点に塗り潰された。否、何かがルカと星との間を、一直線に飛んできているのだ。

 黒点は次第に大きさを増していき、その姿が判別できるようになった。

悪竜(ヴァルゴン)!」一瞬にして血の気が引いた。ルカは恐慌状態に陥り、振り返って逃げ始めた。

 やがて、ズウン! 重々しい音を立てて、ルカの背後に何かが降り立った。ルカは疾走し続けるも、十歩ほどいって足がもつれて転倒する。

「GYAAAAAAOOOOOO!」

 轟くような鳴き声がルカの鼓膜を振るわした。ルカは起立も叶わず、転けたまま振り返った。

 それは厳めしい頭部と二枚の巨大な翼を有しており、強靱な二本足で立っていた。恐ろしいほどの巨体でルカの背丈の二倍ほどあった。

 全身を覆う鱗は、宇宙の闇よりもなお暗い黒である。二つの眼には瞳がなく、それの持つ禍々しい雰囲気を助長している。

 神鳥ルミラルの身体表面上に住む全生物の敵、悪竜(ヴァルゴン)だった。ルカは恐怖のあまり、がちがちと歯を鳴らして震える。だが。

神鳥聖装(セクレドフォルゲル)!」

 勇壮な声音の男の声がした。ルカは希望を湛えて、声の主に首を向ける。

 上下とも灰色の、シックな長袖制服を身に纏う少年だった。

 身長は平均的で筋骨隆々という身体つきではないが、存在感は際立っていた。真っ黒な髪は首筋にかかるほどの長さである。

 年相応に少年っぽいが意志の強さは身体中から滲み出ており、妹のルカから見てもユウリは際立った好男子だった。

(えへへ。ありがとう、お兄ちゃん)ルカが感謝のあまり泣きそうになっていると、少年を純白の光が包み始め、やがて収まった。詠唱の結果の変身である。ルカは敬愛を込めて少年を注視する。

 依然として少年は制服姿だった。だが異変は背後に起きていた。

 少年の背には、無数の孔雀の羽根で構成される翼が四枚生じていた。色は黄、緑、青のグラデーションで、半透明である。

 上側二本の先端が身長の二倍弱の高さであり、悪竜(ヴァルゴン)のそれに比べるとそう大きなものではない。だがその翼には、言葉にしがたい神々しさがあった。

(キラーヴォ)」少年、ユウリ・ヴェルメーレンが小さく呟くと、瞬時に翼が黄に変色し右手に黄金色の槌が生まれた。

 長さはユウリの腕ぐらいで、頭の部分は握り拳五個分ほどの体積だった。表面の全てに、幾何学模様の精緻な装飾が施されている。バチ、ビリリと断続的に音がしており、黄白色の光が時折周囲を走っていた。


挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ