第6話 お嬢様ブチ切れ
「それでこのどうしてこの街へ、えーとルークさん?」
俺たちはシバいたヤンキーをポイ捨てした彼女と共に職場のひとつであるらしい警護団の施設へ向かっていた。
彼女は警護団を率いており見回りで街を歩いていたらしい。『街を見て回るのも市長の仕事だ』と自分に言い聞かせているとも追加して。
俺より少し年上?そうなのに警護団まで率いてすごいなと感心した。
「ルークでいいですよサレンさん。俺たちはイチバンガイからドワーフの街を目指してこのニバンガイを経由しているんです。」
「そう?じゃあルーク、ドワーフの街に行くなんてまたタイミングの悪い時に来たものね・・・」
「えっ?」
サレンさんからの話を要約すると、現在ドワーフの街へ続く道が何かの魔物の巨大な巣ができており通行止めになっているとのこと。
駆除するためにサレンさんのところも準備を進めているということだ。
「さぁついたわようこそ、セカンド警護団へ」
中に入ると武装した男たちがせっせと巣の駆除に向けて準備をしていた。
『ただいま』とサレンさんが声をかけた途端、警護団の人達がざわめきはじめた
「おいおいまじかよ」
「嘘だろウチの団長が?」
「次は何の冗談だ?」
「この街で引っかかるもんかねぇ?」
そしてざわつきは奥の事務所まで波及し団員たちの声が奇跡的にハモって
「「「団長が男ひっかけてきた!?」」」
「違うわよ!なんでそうなるのよ!!」
顔を赤くしたサレンさんが否定する。たまたま街で会ってここへ案内してきたと必死に説明している。
「ね!?そうよねルーク?わたくしが引っかけたなんてそんな訳じゃないわよね!?」
「はい。そもそも俺はサレンさんには引っかからないので」
空気が凍った。さっきまで真っ赤だったサレンさんがプルプルと震えている。
団員たちは必死に笑いをこらえて顔をそらしていた。
あ、これはやってしまったヤツだ。だってヤンキーをワンパンで沈めるのを目の当たりにして引っかかる男っている・・・?いるか・・・。
「ルーク?ちょっと表に出てもらえるかしら?」
「えっ!?」
首根っこをつかまれ外に引きずり出された。
時間差で建物から笑い声が聞こえてきた。本当に申し訳ない。
「さて、とりあえず消し炭になる準備はいいかしら?」
「いやいやいやいや、待ってください!?すみませんサレンさん俺が悪かったですから!!」
地面に投げ捨てられ突然の死刑判決である。
「うるさい!女の子を大衆の面前で羞恥に晒したらそれはもう死刑なのよ!」
「そうですね。覚悟を決めてくださいルークさん」
ミィまでサレンさんの方につきやがった。俺の扱い酷くないか!?
仕方ないのでここは腹をくくり
「焼かれるのはちょっと嫌なんで・・・」
立ち上がりそこらへんの木の棒を拾う。剣は危ないからね。
「へぇ?わたくしにそんな棒っきれで反抗しようっていうの?」
「まぁタダ焼かれるのは嫌ですからね・・・」
「いいわ、じゃあ覚悟しなさい」
そう言って彼女が手をかかげた瞬間、俺の足元に魔法陣が広がる。
ヤバいと思い回避したその直後、その場から爆発が起こった。あんなのくらったらシャレにならない。
彼女が今やったのは空間魔法と爆裂魔法の合わせ技であり超高等技術である。さらに無詠唱とまできた、頭おかしいだろ。
本来多くの直接攻撃してくる魔法は詠唱者を発生源としてこちらに向かってくる。だからこそ避けようもあるのだが彼女は空間魔法で発生箇所を固定し、自由なところから爆裂魔法を発生させている。こんなのチート以外の何物でもない。
「あら?これを避けるなんて相当運がいいのかしら?」
「なんつー無茶苦茶な人だよ、しゃーねー」
そしてもう一度放たれる爆裂魔法を躱す。
爆裂魔法を背に爆風を利用して彼女との距離を一気に詰める。
そして痕が目立たなそうな、お腹付近に木の棒を斬りつけ・・・
「甘いわね」
その場から一瞬で彼女の姿が消える。
空間魔法を利用したショートワープである。
「これで終わりよ!!」
「そこは危ないですよサレンさん」
「えっ!?」
彼女は自分が何が起きたかわからなかった。
気が付いたら空中で背が押され、ルークの元に急接近している。
体勢を整える間もなく直感した
やられるーーーーーー
しばらくしても痛みはなく、気が付いたら今しがた消し炭にしようとしてた男の腕にすっぽりと収まっている。これは・・・お姫様抱っこ・・・?状況が掴めず抱きかかえてる男の顔を見上げると、彼はニコッと笑って
「これで終わりでいいですかね?やっぱり綺麗なお姉さんをケガさせるなんて出来ません」
そこで完全に理解した、私はこの男の子に完全に負かされたのだ。
あまつさえお姫様だっ・・・・!??!?!?
自分の置かれている状況の整理が追い付き顔が真っ赤になる。
こんな魔法に短気な性格で女の子扱いなんて受けたことがない自分がこうして男にキレイと言われて抱かれている。
次々と襲ってくる慣れない感覚に頭がいっぱいで上手く言葉が出ない。
「え、えぇ・・」
そっと地面に降ろされるがまともに彼の顔が見れない。まだ包まれた感覚が残っている。
「ホントにすませんでした!俺が悪かったです!!」
「も、もういいのよ!わたくしもちょっとやりすぎたわ。さ、さぁ建物に戻りましょう」
なぜかサレンさんがこちらを見てくれないが許してくれたようである。
よかった、よかった。
突然のサレンさんとの一戦も無事に済み警護団のところへ戻る俺たちであった。