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死処を求め異世界順道  作者: 飴口
三命
7/49

合致


 『他人の為に命を投げ出す』そんな行動を素面(しらふ)でやるのは自殺願望のある人間か、はたまた偶然が重なり第三者が物語を作ったかのいずれかだ。誰だって命は惜しい。それが十代半ばの少年なら尚更捨てることなんてできないだろう。


 だが志楠は他人の為に自分一人を犠牲にしようとした。。ただしそれは村人の為という万人受けする理由が真ではない。最初は理解できず恐怖心が沸いてしまったが、二度目の時には心を決め、自分を殺してもらおうと思っていた。


 しかし蓋を開けてみればどうだ。敵の言葉に好奇心(いきたい)という欲求が沸き、その結果邪魔をしてくる村人と颯爽(さっそう)と現れる二人の侍。ほとほと運命とは移り変わりやすい。だがそれ以上に移り変わりやすいのは人間なのだろう。


 ----- ----- ----- -----


「……それでは話を纏めると、あの村を出た理由は儂等に弟子入りするためと?」


「はい」


 話を纏めたが、状況は纏まっていない。

 纏めると村から出た二人の後を追って出てきた志楠は、二人が野宿するのを見計らうと同じように雑魚寝して夜を明かした。

 先に起きて二人に打ち明ける心構えをしてくつもりだった志楠だが目覚めた時、目の前で朝食の準備をしている葉昏がいた。酔いさえ()めてしまえば、二人は周囲にいる生物の存在を見逃すはずはない。


「お願いします! 僕を、お二人の弟子に!」


「……あのよ、大前提に俺とおっさんの流派が全く違うんだが? 性質もちげぇのにどうやって習わせろって言ってるわけ?」


「えっそうなんですか!?」


 武に振れたことがないのもそうだが、実際に二人の剣術を目の当たりにしたことがない。いつも目を閉じている時に始めり、開けた時には終わっているからだ。志楠にはこの二人は武を極めんと旅をする仲の悪い二人にしか見えていなかった。


「そうなんですかって、あーあーもうこりゃ話す以前の問題だな。おっさん、行こうぜ」


「まぁそういうな出雲。ここでこの子を置いていけば、またあの化け物に襲われかねん。せめて街までは送ってやろうぞ」


 完全に弟子の話はなかったことにされようとしている。


「話を……話を聞いてください! 僕には、どうしても強くならなければならない理由があるんです!!」


 今まで聞いた、村人を叱る声のトーンではない。何かを訴えたい、道楽や半端な気持ちで弟子入りをする者には出せない声の迫力とでもいうのだろうか。だが迫力の裏に、何か(もや)がかった思いがあることも見逃さなかった。


「……出雲」


「話を聞くって提案ならおっさん一人でやってくれ。俺は面倒は嫌いなんだよ」


 そういって出雲は草の上に寝ころび、眠っていますよと言わんばかりにあからさまに大音量で(いびき)を鳴らした。


「出雲はああだが、兎角話を聞こうではないか志楠。主の言う、理由とやらを」


「……僕はもう一度、バラバラになった家族と一緒に暮らしたいんです」


 志楠の家族は両親に加え、八人の兄妹がいる。

 家族はある理由から表に出ることができず、生まれてからずっと家の敷地内で育ってきた。若く未熟だった下の世代はそのことに対し不満を抱いていたが、家族関係は非常に良好で仲睦まじかったことが自慢だ。


 しかし、突如人々は家族全員を我が物にせんと志楠の家を襲撃した。幸いそういった事態を(あらかじ)め想定していた為、おそらく家族全員は捕まることなく逃げ延びどこかで暮らしている。またこういった事態になり、家族全員がバラバラになった場合はそれぞれ第二の人生を送るようにというようにと母から教育を受けていた。


「しかし先日現れた妖怪は『近親者』と言って僕を襲ってきました。勿論あんな化け物見たこともありません」


「いや、そもそも主は人であろう。その兄妹も、親も人のはずだ。いくらあの状況下で近親者と言ったからとはいえ、鵜呑みにするのは(いささ)か無理があるぞ」


「っ」


 何かを言おうとしたが、飲み込んだ。あからさま過ぎて追及する気すら失せる。しかし志楠はその代わりといわんばかりに自らの右手を前に出し広げて見せた。始めは何事かと思った葉昏だが、何もない手の平から炎が立ち上った。


「!!?」


「この力は魔法といって、何ていうか……こういう普通の人にはできないことを出来る力なんです。こんな不思議な力を、僕ら家族はみんな持っているんです」


 ガタガタな説明であることはわかっているが、言葉で説明するよりは実際に使用して見せたほうが効果的だ。葉昏は顎を右手の親指と人差し指で二、三度なぞり始める。


「まほう……だがあれは【士菽(ししゅく)】殿の……」


「え?」


「いや、何でもない。つまりその不思議な力があれば、妖怪を生み出せるといいたのか?」


「あくまで可能性ですが」


 可能性という言葉は状況によって使い分けなければならない。今回のような、自分の想像の域を超えているうえ、自分に害が及ばなさそうな場面で発せられる可能性は悪手に近い。


「(仮に儂の予想が正しいのならば、相当にややこしい出来事やもしれん。だがもし士菽殿の関係者ならば……)」


「あの、葉昏さん?」


「……弟子の件だったな。生憎(あいにく)儂と奴には野暮用があり、長く共に旅をすることはできん」


「……」


「がしかし、その短期間でも教えを請いたいというのであれば止めはせん。儂等がいなくなった後も、儂の道場で修業ができるよう取り繕う」


「!! じゃあ!!!」


「はーいちょっと待った」


 せっかく同伴の許しが出そうになったのに、出雲が横やり改め横刀を入れてきた。


「なんだ出雲。決定権は儂にあるのではないか」


「こいつは俺とおっさんの二人に教えを請いたいっつったんだ。ここでおっさんが了承しちまえば、なし崩し的に俺まで師匠になっちまうだろうが。同伴も弟子も邪魔しないんなら百歩譲っていいが、俺が教えんのは嫌だね!」


 この場合志楠にできることは限られてくる。できる限りの懇願か、あきらめて葉昏のみに教えを(たまわ)るかのいずれか。だが志楠は案外強情なところがあり、出雲にも何とかして教えを請いたいという気持ちしか、今心の中にはない。


「出雲、少しこっちへ来い。志楠は少しそこで待っておれ」


 そういって二人は離れた場所で何かを話し始めた。さすがに盗み聞きする度胸もないし、近づこうとした瞬間に葉昏の探知に引っかかるのでやめておいた。


「……おい餓鬼!」


「は、ハイ!」


「お前を襲ったくそ雑魚化け鳥。アイツ以外に強ェ野郎がいるってのは本当か?」


「えっ……あっハイ! います!!」


 一瞬何の話をしているのかわからなかった。そもそもあの化け物がどういった存在なのかも、まだ定かではないのに、他に強いやつがいるのかという質問は答えようがない。

 だがこちらを凝視してくる葉昏の視線で察しがついた。出雲という男は面倒で生粋な戦闘脳をしている。そんな男に同伴の許可と師匠の承諾を得るには、戦闘関連を引き合いに出すほかない。


「だそうだ。でどうする、出雲」


「……ッチ、わかったよ。どうせあの餓鬼には俺の技を使えるわけねぇんだ。早々に諦めさせてやるよ」


「そこらはあの子次第だな。志楠、こっちへ」


 二人の元へと近づこうとすると、自然と鼓動が早まる。母から言われた第二の人生、それが今ようやく始まるような喜びが全身を駆け巡るような感覚だ。


「改めて志楠。主を今から儂と出雲の弟子となった。最後まで教えることはおそらく無理だろうが、その際は儂の道場で継続してもらえるよう取り繕う。それでいいか?」


「ハイ! ありがとうございます!」


「はぁ~……メンドクセ」


「そういうな。貴様にとっても最初で最後の弟子になるのだ。存分に楽しまんか」


「あ? それはこっちのセリフだ。最後の弟子なんだから、精々熱心に教えてやれよ」


 何も知らない志楠から見れば、性格の悪さから弟子の取れない出雲を茶化しているように。また年齢的に最後の弟子になるというブラックジョーク的な意味合いに聞こえる。


「あっ、それともう一つお話が。僕の名前、たぶん間違っていると思うんですが【シクス】って言います」


「? 志楠であっているではないか」


「ややこしくて、僕の家の中でしかない文化みたいなものなんですが……殻縄志楠で名前ではなく、シクスの部分だけが、本名なんです」


 簡単に言えば、志楠は村で目覚め自分の名前を言った時『僕の名前、〈からなわしくす〉っていいます』と言い、村人達は勝手に殻縄志楠と勘違いしたのだ。実際は『殻名はシクス』である。

 殻名というのは、本当の名前を与えられる前の仮初の名前を意味している。つまり本名であるシクスも、本名と言っていいかといえば微妙だ。


「めんどくせぇな。ってか、俺はお前を名前で呼ばねぇから関係ねぇな」


「儂も志楠と呼んでいたから、変りはせんな」


「いえ、本当に一様なんです。改めて、弟子入りさせていただいてありがとうございます! これからお二人の剣術、学ばせていただきます!!」


 こうして志楠改め【シクス】【葉昏】【出雲】の三人の運命が合致した。

 この選択がのちの人生を大きく狂わせることになるとは、誰も知らない。

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