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死処を求め異世界順道  作者: 飴口
三命
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子供の夢


「近、親者?」


 この状況下で見え透いた嘘を付く理由は無いし、付くとしても状況的に考えても志楠の方だ。だからこそ化物の言葉は異様な真実味がある。


「弟なのか妹なのかはわからんがね~。一様口調は俺だけど、アソコはツルピカ」


「嘘だ! だって、だって僕が家族と別れてまだ一ヵ月も経っていないんだぞ!! 誰も身籠っているなんて……」


「まぁ信じようが信じまいが関係ないね~。家族だからって手加減しないし、目的はお前を殺す事だし」


 地面に深々と刺さっていた大鎌を抜き、両手に持つ。

 犠牲を広げない為にと、村から出て死ぬ覚悟を決めたつもりだった。実際この会話がなければ、抵抗しても無意味に殺されていただろう。だが会話を聞いてほんの少し疑問が湧き、後退(あとずさ)りしてしまう。


「俺にとっての家族は『母様(ははさま)』だけで~、他の奴らはどうだっていい訳。母様が関わるなって言ったらここには来なかっただろうし~、俺は母様が殺せって言ったからここに来ただ~け。だからサクッ死んでくれな~い? お前の首を持ち帰れば、母様に褒められるかもしれないから~」


 この行動が化物の性格からなるものなら、相当意地悪な奴だ。情報を散りばめるだけ散りばめて、肝心な所は何も言わず、自分の目的を優先してトドメを刺しに来る。仮に死の世界がありそこで住む事になるのなら、志楠は一生答えが分からないまま過ごす羽目になる。


「安心しろ~。すぐにそっちを賑やかにするからさ~。っあでも向こうで繋がってるかも分かんないかッ!」


 大鎌が無慈悲に振り下ろされる。これまでの人生で一切の武道を(たしな)むことのなかった志楠には、初動の残影が辛うじて確認できたかどうか程度。体が回避行動を取るよりも早く、精神が死を覚悟する。


「駄目ェェェエエエエ!!!!」


「!?」


 決死の叫びと共に物陰から一人の女が飛び出し、大鎌に両断される寸前だった志楠の体を突き飛ばした。一歩間違えれば飛び込んできた甲斐なく、無駄死にで終わる可能性も十二分にあったが、大鎌は誰も傷付けることなく地面に再び刺さる。


「だ、大丈夫? 志楠君」


独善(ヒヨ)さん!? な、なんでここに!」


 【独善(ヒヨ)

 村長の娘であり、志楠を男性として信仰する女性グループの長。

 覚える必要は無い。


「誰だ~?」


「オラァ!!」


 再び物陰から人が飛び出してきた。それも一人や二人ではなく、二十人近くの男連中が農作用の(くわ)や竹槍、落ちていた丁度いい丸太で化物の背後から奇襲をかけた。だがしかし、化物の背中に傷一つ付ける事が出来ず、分厚いゴムを相手取っているかの如く弾力で弾き返され、男たちは尻餅をつく。


 「何やってんのよ深情(シンジョウ)!!!」


 【深情(シンジョウ)

 村一番の力持ちで、志楠を女性として信仰する男性グループの長。

 覚える必要は無い。


「何々~? 邪魔するなら、お前らもザックリいっ」


 大鎌を再び手に取ろうとしたが、今度は物陰から女性が飛び出し、化け物の上半身部分にしがみ付き始めた。その行動に若干の驚きを禁じ得ない化け物の隙に乗じてかどうかはわからないが、尻餅をついていた男達も隙を利用して足元を中心にしがみ付き、動きを封じることに全力を投じた。


「ふんごっご。じゃ~っま!」


「ッ! 離すなよォ!! ここで離した奴は、俺が後でぶっ飛ばす!!!」


「応!!」


 本来の化物の力ならば、肘打ちで人間の顔面を粉砕する威力があるのだが、飛びついた村人達は脇の下や肘裏などにも飛びついており、まともに構えることも攻撃することもできない。それでも関節を曲げる際に挟まる者や、手先や足先を抑えている者にはかなりのダメージを受けている。


「や、止めてください! 皆が傷付くことはないんです!! 僕が、僕一人が行けば済むんです!」


 いつもは志楠の言葉に従順な彼らだが、だれもその言葉を聞いても引こうとはせず、より一層強い信念を持って、化物の体を抑え込もうとし始める。


 言葉だけ聞けば、一人の子供を守ろうと村中の人間が総出で向かっているように聞こえるが、この状況を赤の他人が見れば、村人たちは鬼の形相をして、倫理観とかを無視した攻撃を躊躇なく、男女という差なく行っている。ある種の狂気に近いものが、塊となって化け物の体へばり付いている。


「はぁ、鬱陶しいなぁ~……ッッ!」


 背中に畳んでいた羽を大きく広げると、背中に捕まっていた女が数名吹き飛ぶ。

 当然これだけが目的ではない。大欲を羽搏(はばた)かせ、化け物は空へと飛翔した。数十人分の重りが付いている為、本来よりもだいぶ低空位置にいるが、それでも一般民家の屋根くらいの高さに位置している。


 必死に堪えて居る村人達だが、化け物が体をグルんと一回しすると力の弱い娘達と勉学に力を入れていた男が落ち、軽くなった分再び力強く回転すると、屈強な男連中が苦虫を嚙み潰したような顔のまま落下した。。


「何だよ~。いい子ぶってる癖に、ちゃっかり『特権』使ってるじゃ~ん」


「! お前はどこまで知っているんだ!!!」


「だ~か~ら、言う必要はないって。それよりも~、周りの心配したほうがいいんじゃな~い? 特権を使っている以上、コイツラ殺さないといけなくなったしね~!」


 大鎌は地面に刺さったまま。

 しかし武器を使用せずとも、人間の子供を一人殺すくらいの力は有している。化け物は両の腕が一気に力を込めると、二回り腕が太くなり、加えて爪が異様に伸びて刃物と化した。


「首から上は綺麗に持ってこいって言われてたけど、断面荒くなっちゃうな~。抉った後、丁寧に断面部分を削がないと~」


「に、逃げっ」


 急降下してくる化物のスピードは大鎌を振るうそれとは比べものにならない。しかも高所から低所に向けた攻撃は、普通の攻撃以上に避けにくい。せめて独善だけでもと拘束から逃れようとするも、女性の腕を振りほどけないほど、志楠の力はか細かった。


 ----- ----- ----- -----


 刹那の痛みと死を覚悟し目を閉じた志楠。

 だが次に感じたのは爪が皮膚を通り肉を切る感触ではなく、ベチャベチャと何かが飛び散る感触と血生臭さで、同時にこの瞬間に覚えがある事を思い出した。


「はぁ~あ~、なーんで俺が人助けなんかしなきゃならねぇの? 一戦の得にもならない処か、欲求不満で斬りかかりそうだ」


「それが人情というものだ。人斬りのお前にはわからんだろうがな。……それにしても、妖怪が何故外を出廻れている。消滅どころか動物の様に平然と外を歩いているとは」


 今の今まで殺意が充満していた筈の空気が急に軽くなった。聞こえてくる声は談笑に近く、聞き覚えのある声。

 志楠はこの状況に覚えがあった。覚えがあったからこそ、今度は恐る恐るではなく何のためらいも疑いもなく、目を見開く事が出来た。


「出雲さん、葉昏さん!」


「おぉ無事だったか(わらべ)。怪我は無いか?」


「は、はい。大丈夫です」


「そうかそれは何よりだ」


 葉昏は嬉しそうに笑った。

 そこには助けて英雄になろうとか、自己満足の為の自己犠牲とかはなく、怪我無く犠牲無く人を助けたという喜びだけが溢れていた。


「おいおいおっさん、久しぶりに会った孫じゃねぇんだから優しいばっかじゃ駄目だろォ。元はといえばこいつが無力だったせいで、死合いも出来ず、ここまで出張らせた原因なんだから、キレていい場面だろ。てか、キレていい?」


「馬鹿、貴様には場を読む事が出来んのか」


「場何か読む暇あったら、戦場に向かうっつぅの。あー腹減ったァ」


 楽観的だ。

 確かに戦闘といえるほどの戦闘は行われなかったが、戦った直後にも関わらず、今では空腹を機にかけている。いや、一度斬った相手だから、斬っている最中もそんなことを考えていたのかもしれない。


「兎角、町へ戻ろう。日も暮れてきた」


「そうそう、そんでもってお前を助けたって事でただ飯を食らいたいしなァ」


 自分ではどうしようもない存在を瞬殺した優しい老人。

 楽観的で余裕綽々な感じだが、戦いには人一倍敏感な男。


 対極に見えて、どこか似ている二人の達人。

 その頂を間近で見た少年は何を思うか。


 畏怖か。羨みか。それとも、憧れか。

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