一騎当千
「おい! 起きろって!!」
反逆の森を見張る二人。
森の中に入った葉昏達の事など知らぬが如く、ぐっすりと眠っていた。何時もならば陽が昇り、寝たくても寝られない状況になってようやく目が覚める二人だが、今日は片方が早く起きて揺さぶり起こしてくる。
「んあ? ……何だよー、良い夢見てた気がするのに」
「言ってる場合か!! アレ、アレ見てみろって!!!」
「ったく何があるって……え?」
普段ならば何もない、砂ばかりの面白味が一切ない光景。
だが男が見た光景は、とても信じ難く、幾度も目を擦り疑った。
「あれヤバいって!! どうするよ!!!?」
「だ、大丈夫だって。只の蜃気楼……俺ら今日帰るから、砂漠が帰宅を祝ってくれてるに違いな……」
「呑気言ってる場合か!! 間違いない……あんなもん、俺の生きている内には見れないと思ってたのによォ!!!」
「マジかよ。マジで【白蛇】が開始されたっつぅのかよ!!!!?」
【白蛇】
伝説の大蛇から取ったモノで、女王及び国民の理解を得た時に発令される、一生に一度見るか見れないかという号令。その目的は完全なる白人の撲滅。監視、巡回、警備全ての兵士が集められ、その任務に就き、また国民もその為の支援を惜しまず心血を注ぐ意気で臨まねばならない。
一切の躊躇い、慈悲も、老若男女も問わずに肌の白い人間はそれが罪として殺害する事を許される。
この号令は白人が全滅するその日まで続き、終わりの匙加減は国王の判断によって決まる。故に数日で終わるとも、何十年かかるかもしれない。
「このままだと巻き沿いを食っちまう!!」
「は、早く俺達も合流し……」
時すでに遅し。
軍隊の先頭に立つ女王クリエラの手が降ろされたと同時に、数万の兵士が一斉にこの森目掛けて走り出してくる。
「あわわわ……は、早くどかないと踏み殺されちまう!! いや、殺されちまう!!!」
「大丈夫だ! 敵は白人で、俺達は無視して進んでくる……筈……」
「ウオオオオオオオ!!!」
「ウオオオオオオオ!!!」
「ウオオオオオオオ!!!」
舞い上がる砂煙のカーテンから聞こえる、数多の雄叫び。
一般兵士達からすれば、白人の森には怪鳥人が住んでいる魔の地。
全員が殺気を放ち、決死の覚悟で突撃している。その殺気が自分達に向けられたものではないとはいえ、迫力と殺気に腰が引けてしまう。
「妙に殺気が多いと思えば……幾ら何でも決起するには早計過ぎんかの」
「!! だだ、誰……!!!?」
「は、白人!!!!」
引けた腰が、不意に現れた白人の登場で無理やり伸ばされる。
蠍の鎧を身に纏う彼らではあるが、初めて目の前に白人が現れたとだけあって、武器を持つ手は震え、訓練場で学んだ事が頭からすべて流れ落ちる。
「ここっこ、ここで会ったが……百年目ェ!!!」
「お前らを殺して、そ、祖先の恨みを……!!」
「それより後ろ。早く逃げんと巻き添え食っちまうぞ」
「!」
言われてみればそうだ。
今なら足が動く。今から逃げれば突撃の進路から外れられる。
そう考えてしまい、敵を目の前に振り返ってしまう。
絶好の隙だと、振り向き切った後に理解した。
だが白人は隙を有効活用せず、振り返る二人の死線を横切り大軍の前へと走り去っていった。
「え? ……っえ??」
「助か……った?」
「……お、追うか?」
「お前は追いたいか?」
「……」
「……」
「一人だし、何とかなるか」
「だな。大回りして、合流する方がいい」
「だな」
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「!? 誰か此方へ向かってきているぞ!!!」
葉昏は向かってくる大軍の前方三百メートル先で静止。
羽織っていた着物を脱ぎ捨て、自身の存在を。
獲物を抜き、自身の行動を示した。
「白人……!!」
「先遣隊って奴か!!」
「たった一人で!!? 莫迦が!!!」
「あんな奴、俺一人で充分だ!!!」
「おい、勝手に突貫するな!!!!」
兵士の一人が駱駝の足取りを早め、突貫してきた。
気が高まってか、一人という油断か。
だがわかる事は、この兵士が第一犠牲者だという事だけだ。
「その心臓、頂き、っ」
突き出された槍がいとも容易く避けられた。
絶好の隙が生まれると、先程とは打って変わり、兵士の両肩を刺す。
「アアアッ!!!!」
激痛が走る肩を抑えたい。
だが両腕が機能せず、押さえられない。
バランスを崩しそうになって、駱駝の綱を持ちたい。
だが両腕が機能せず、掴むことが出来ない。
そうなり、取り乱したが最後、兵士の最後は数メートル先での落馬しかなかった。
「あのバカ! 白人を相手に一人も二人も無い!!」
「どうします!?」
「聞くな!! やる事は一つ。白人の撲滅のみ!!! 老人とて容赦はするな!!!!」
「了解!!!」
一人の無謀な行動が、逆に軍全体の士気を上げ、危機管理能力も向上させてしまった。
だが、危険な状況だというのに、葉昏は顔色一つ変えない。
それどころか、何処か楽しんでいるようにも見える。
「さて、老骨に鞭打ってェ時間を稼ぐとしますか」




