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死処を求め異世界順道  作者: 飴口
黒白の砂城
23/49

合戦の狼煙


 バクサ中央広場。

 普段は人々が往来する場所、もしくは扇動者が演説している場所にその人、女王である『ラーダ・クリエラ』が悠々と立ち、演説を始めていた。


 「先日現れた化け物。ここでは『怪鳥人(グルル)』とでも呼称しましょうか。奴は一体何者なのか。それはまだ我々も把握していませんが、ただ一つだけ皆様に言える事が有ります。それは……あの怪鳥人は反逆の森から飛来したという事実であります」


 「白人の森から……」


 「まさか白人が送り出した刺客?」


 「最近白人が起こす事件も多いしね」


 「私は隠し事も嘘も大嫌いであります。ですから皆様には、真実を。あのものの脅威を知っていただきたい」


 クリエラの背後から男が一人出て来た。

 衣服から国の周りを警備している巡回兵である。


 「さぁ、皆に全てを打ち明けなさい」


 「はい……。わ、私は何時ものように国の周りを仲間と巡回して、白人の侵入を防ぐ任を全うしていました。いつもの調子なら、白人が何かしらのちょっかいを掛ける時期と合致するので、いつもより厳重に」


 「それで、白人は現れたのですか?」


 「いえ誰も……。本当に何もない、人っ子一人いない普通の砂漠でした」


 「そうして貴方は後退の時間が来るまで、しっかりと仕事をしていた。でしたよね?」


 「はい。ですが国へ戻ろうとした時、アイツが……アイツが空を!」


 兵士は頭を抱え、膝から崩れ落ちた。

 横に立っていた女王はそっと、兵士の肩に手を置き、優しく声を掛けた。


 「落ち着いてください。大丈夫、アレはもうこの世にはいません」


 「ス……スミマセン。取り乱して」


 「それだけ恐ろしい存在だったのでしょう? 仕方ありません」


 「アレは……私達と同じ、生物という(くく)りの中にすら入れるのは恐ろしい存在です。羽を一度羽搏かせれば、竜巻を呼び。その眼光は蠍百匹に囲まれている状況よりも恐怖と死を実感できる。恐ろしい……思い出しただけで。只思い出しただけで……」


 「ありがとう。もう下がっていなさい」


 兵士は別の兵士に抱えられ、その場を離れた。

 聴衆は皆、兵士の言葉を真実と受け取り、恐怖と驚嘆の顔を浮かべる。


 「……皆さん、私は先程彼にアレはもういないと言いました。ですが、本当にアレが一匹だけだったのかと思う自分もいるのです。もしかしたら親鳥で、子供の為に人間(えさ)を取りに来たのではないかと」


 「そんな!!」


 「あんな奴が他にも……」


 「どうすればいいの!?」


 「皆さん、一刻の猶予もありません。私は今一度宣言します。全兵力をもって、白人の住む森へと進軍し、怪鳥人諸共亡き者にすべきだと!」


 「そうだそうだ!!」


 「白人のペット諸共殺せー!!!」


 「俺達の平和を取り戻せー!!!」


 「先祖の仇を討てー!!!」


 「皆で真の平和と先祖の無念を晴らすのです!!!」


 「おおお!!!!」


 聴衆は完全にクリエラの言葉を信じ、崇拝している。

 この勢いに乗れば、今まで白人という種に恐れをなしていた黒人も奮い立ち、進軍に対して前向きな姿勢を示し、支援を惜しまないだろう。


 「……確かにアマンダ殿の言っていた通り、女王陛下殿はこの混乱を利用し始めた様子」


 熱狂する国民とは裏腹に、半壊した家の窓から白けた様子で拝見していた。

 出雲は先の戦いでの負傷により寝たきり。

 シクスは体力低下が著しく、今だ完全に目を覚まし切っていない。


 「クリエラ様は上手いからね。私の立場とか考えて、でっち上げを敢行したのさ」


 白人を擁護する意見を持つのはアマンダしかおらず、女王の話が嘘と知り且つ真実を知るのも彼女のみ。今公の場で発言しても信じる者はいない。


 「女王の嘘は今舞台に立っていた兵士にも分かっている筈。言わない理由が単なる圧力ならまだしも、承知の上で協力しているのであれば……」


 「……クリエラ様は、貴方達が話していた『母様』という存在の可能性が高い。そう言いたいんでしょ」


 『リダ・アマンダ』

 バクサに住む、ごく普通の一般女性だと周囲の一般人には思われている。

 だが実際は女王陛下直属の護衛兵の実績を持っている。

 護衛兵は唯一であり、またその身分は女王と国内を見張る警備兵にしか、その実態と身分を知らされていない存在。


 男勝りの腕っぷしと人柄の良さと、クリエラとは違った視点で有意義な意見を惜しげもなく発言する。参謀と大将を兼ね備えている為、抜擢された。


 「だけどそれだと最初の推測に矛盾が生じるよ。なんで反逆の森付近で鳥の姿が多発しているのか」


 「裏で手を組んでいるということは考えられんか?」


 「ないね。私らが白人(あいつら)を嫌っているのと同様に、向こうも私たちを嫌っている筈さ。壇上に上がった兵士も言っていたけど、鳥が目撃され始めた以前から白人が砂漠を歩いている姿が多数上がっているの」


 「砂漠を歩いているだけならば嫌っているとは限らんのではないか。和解の為の勇気ある横断の可能性も……」


 「だったらよりなしね。その歩いていた白人を有無も言わさず巡回兵達は殺している。流石に追放者を今でも出してるとは考え辛いし、独断かどうかまでもわからないけど、同族が行ったっきりで帰ってこなければ、黒人(わたしたち)なら白人(やつら)の存在を疑うわ」


 「……それもそうか。それに仮に反逆の森付近の森と手を組んでいるのならば、攻め込む事を明言する筈も無いか」


 『母様という化け鳥を操る黒幕』『その狙いはシクス達兄弟』

 『反逆の森付近での目撃証言』『黒人が狙われ殺されている』

 『バクサ兵士に化け鳥は化けていた』『女王の隠蔽』『兵の口裏合わせ』

 『殆どの理由は不明』


 情報が増えている一方、完全に理由が解読されたモノは一つとしてない。


 「……敵の素性も気になるが、儂としてはシクスの件を何とかしたい」


 この家に貯蓄していた水が底を尽き、もうない。

 子供のシクスに獣の血をそのまま飲めというのも難しく、このままでは体力が尽きて死んでしまう恐れすらある。


 「その子、そんなにやばいのかい?」


 「見てわからんか? 汗をかいておらん。脱水症状の兆しだ」


 「だっすいしょうじょう?」


 「まさか、知らんのか? 水分が不足しとるときに出る症状だ」


 「んなこと言われたって、そんな症状見たことも聞いたこともないよ」


 「(そうか、数世代も前から強い日光を浴び続けた彼女らとでは、受ける病気も違うのか。)では、医者は?」


 「いしゃ? なにそれ」


 黒人という種は自己治癒力及び自己適応力に富んでいる。故に風邪などの病気は一生に一度罹るか罹らないかではなく、一生のうちに見ることすら怪しいレベルで病気には罹らない。

 怪我なども骨にひびが入っている程度ならば、二週間も過ごしていれば治癒するし、折れたとしても安静にしていれば二か月で治る。切断などの大怪我を負った場合は、死ぬか生きるかを神様任せにしている。


 「……」


 「? どうしたの?」


 「いや……それよりアマンダ殿、水は如何様にして手に入れていたのだ?」


 「……泉から汲んできてた」


 「その場所は?」


 「……反逆の森」


 「!? 何故その様な場所にまで行き水を汲むのです?」


 「……白人の飲む水に興味があったから。それ以上の理由はない。興味本位って言い換えてもいいよ」


 ふわふわとした返答だが、今はそれに頼るほかない。

 水がなければシクスが死に、大怪我を負っている出雲も間接的に死んでしまう。それでは一生の悔い処の話ではなく、輪廻転生した次の生でも遺恨が残る。


 「……儂は行くぞ」


 「バクサから森までは二日は掛かる。言って帰ってくる間にクリエラ様が進軍をされたら鉢合う可能性がある。それ以前に鳥が森に潜伏している可能性も零じゃないし、そもそもあの場所に行けるのか?」


 「方角さえわかれば、死ぬ気で歩いてでも行ってやるわ!!」


 「……ちょっと待ってて」


 アマンダはそう言って別室へと移動したが、程なくして戻ってきた。

 手には入れ物と丈の長いフードを持っている。


 「行くなら私も行く。仮に誰かと出くわしても、私なら言い訳が立つ」


 「良いのか?」


 「言いも何も、ここまで首っ突っ込んで、あとは関係ないっていうのは幾等なんでも薄情すぎるよ。それにもし全てを知ったら、私が先導しないといけないから」


 「……忝い」

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