第一歩
この世界には灼熱の太陽に耐え愛された種族【黒人】苦として太陽からの試練から逃げた種族【白人】の二種が存在しているが、元々この星には白人しか存在してはいなかった。
では何故二種に分かれたか。理由はやはり太陽にあった。
今では砂が九割を占めているが、昔は緑が溢れていて動物達は誰からも害されることなく歌を歌っている、多くの生物にとっての理想郷のような場所だった。数万年後くらいに人という種が生まれたが、生まれてきた環境の裕福さと動物や自然からの愛情を受けた為か、争う事はなく互いに互いを思いやる種として成長をしていった。
損得などで行動はせず、互いに互いを思いやる理想的な知的生命体の完成形。
しかしそんな彼らを運命は見守ってはくれなかった。
信じられないかもしれないが、本来動くはずもない太陽がこの星との距離を縮めた。
豊かな温もりをくれていた筈の太陽が牙を向け、全生命に襲い掛かった。
植物の殆どは枯れ、環境の変化に耐えられなかった動物の八割は死滅し、地表にある水は殆ど枯渇した。人々は持ち前の知恵を活用し、洞窟等を造り避難などを試みるも、熱は容赦なく彼らを蝕んでいった。
限られた食料、限られ地域。この『限られた』という言葉が彼らの頭に想像された時、彼らは知的生命体の完成形から、一般人へと退化していった。誰がこの『限られた』モノを使う権利があるのか。逆に誰がこれを使う権利がないのか。彼らはルールという縛りを作り、その二択を明確化した。
だがその二択は次第により細分化していった。
より自分が使う権利を得る為に、使う権利を失った者達を砂漠へと追放した。
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砂漠に追放された人々は死を覚悟する他の選択肢は無かった。
水も食料も人もおらず、ただただ灼熱が降り注ぐ地獄。
数少ない生存者も、環境に対応し切れずに死んでいき、一週間以上生存し続けた人間が現れたのはさらに数百年後の話だった。
その頃には環境変化に対応して進化したばかりの生き物達がいた。
彼らを生で食す事で追放者は飢えを凌ぎ、渇きを満たした。
しかし肝心の彼等自身が進化を遂げてはおらず、この地に来ても争いは続いた。
乞食にも似た生活を送る黒人の祖先達。
そんな彼らの中から一人の男が名乗りを上げた。
名前を『ラーダ・ガーディー』
先見の明に優れていた彼は、追放者として選ばれていないにも関わらず、自ら砂漠の地へと足を踏み入れた。今はまだ広大な森という限られた大地の行く末とそこで暮らしていく人という種の結末を予見し、先手を打ったのだ。
ガーディーは土が砂と化した事で気付けたことがある。
この星の砂は原始的な彼らでも分る程特殊である。それは豊だった頃、まだ砂とは呼ばれず土と呼ばれていたころには見れない性質だ。
ある砂は簡単な型に流し込めばその形状に固まったり、逆に一粒一粒が繋がりゴムのように伸びる砂まであった。
それを利用しさえすれば、砂漠の地は死地ではなく新地へと変わる。
ガーディーの言葉と実現可能な未来予想図は、死を覚悟した追放者達にとって希望の光となった。彼らは砂を利用し、自分達だけの新国家を作るという発想に至るまで、そう長くはなかったが、ガーディーがその国を見ることはなかった。
ガーディーの死んだ後でも彼らは諦めなかった。
太陽に背を向け焼かれようと未来を信じ造り続けた。
何時しか肉体は灼熱にも、砂漠生物の牙や爪に耐える強靭で黒檀の美しい肉体へ。猛毒も自信の肉体内で分解し無毒へと変える相殺の臓器へ。重労働を生まれてから死ぬまで繰り返した事で、赤子でありながらその重量は三十キロと岩のように重く頑丈にできている。
更に肉体面以外でも砂漠での生活術、砂の性質理解などこの星の先を考えれば必要不可欠の知識も彼らは身に着けた。
そうして彼らという、黒人という種が完成した時、砂漠に一つの国が誕生した。
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「ラーダ様が御築きになられたバクサという国。あぁなんと素晴らしい国なのだろうと、日々感謝の念が絶えないのは私だけでしょうか? 豊かな食糧、暖かな灼熱、頼れて尊敬できる先輩、仕事をした日の次の日は休みという理想的環境設備。これ以上を望むのは勿体ない、これ以上望むのはラーダ様のご遺志に逆らう事になる」
「……」
「……しかし時折、眠りに着いた時に思い出してしまうのです。奴らの存在を……!」
「!」
「今の我々があるのは奴らのお陰、そういう声もたまーーーーーに耳にします。ですがそれは結果論に過ぎません。それを理由に奴らへの恨みを忘れていい事にはならないッ!!!」
「!!」
「民よ、私の声が聞こえる全国民よ!! 今こそ決起し、白人共を皆殺しにするのだ!!!!」
バカでかい演説が嫌でも耳に入る。
人々はその言葉を信じているのだろう。賛同の声と数多の拍手が鳴りやまず喧しい。
「……私が生まれる四世代くらい前かな。ようやく国として機能し始めたのよ。王様とか兵士とか、平民とか。でもゆとりが持ててきた分、あんな風に白人への恨みが増していったのよ。現女王陛下『ラーダ・クリエラ』様は完全な白人撲滅主義者だし。多分私を除く、全国民は彼女と同意見」
「……運よくアマンダ殿に見つかっていなければ見殺しにされていた、か」
「……私もね、少し前までは白人への恨み言なんて忘れて平和に暮らしたいって主義だったの」
「だった……」
「ここ最近の白人の暴行は、平和主義者の私から見ても度が過ぎてる。三日前も変な化け物にウチの兵士が何人かやられたって話らしいし」
「変な化け物……まさか羽の生えた鳥人間のような?」
「そう、あんた達の国に来たっていう化け鳥さ。ここ数か月、妙な生命体が確認されてるって話題の的さ」
「奴らが目撃された場所は? そこにはシクスの兄がいる可能性が高いのだ!」
「……白人達が住む森。別名『反逆の森』付近で目撃されてる。そのせいもあってか、白人種の進化した姿だとか、白人の手ごまの兵器だとか色々推測が飛び交ってるよ。でもま、あんた等の話を聞くとそうじゃない気がしてきたけど」
『母様という化け鳥を操る黒幕』『その狙いはシクス達兄弟』
『反逆の森付近での目撃証言』『黒人が狙われ殺されている』『殆どの理由は不明』
今ある情報といえばこれくらいだが、次の目的地は定まった。
「(反逆の森……そこへ行けば化け鳥の情報。それがなくとも白人から何らかの情報が聞ける筈。体力的にシクスは連れてはいけない。儂か出雲の何方かが赴く事になるな)」
その時、玄関先の扉がノックされた。
「すみませーン。警備隊の者ですが、よろしいですカ?」
「警備隊……」
「奥の二人のいる部屋に隠れてて、何とかやり過ごす」
「出来るのか? 中を調べられでもしたら」
「大丈夫。私、結構この街じゃ有名人だから」
「……忝い。では頼んだ」
「居ますよネー。開けて下さーイ」
「は、ハ~イ。今開けまーす」
扉を開けた先には言葉通り、この国の警備隊が立っていた。
バクサにおける警備隊の階級と役職は服によって判断されている。
焦げ茶色をした蜥蜴の皮を纏った、国の周りの警備及び食料調達を担う巡回兵。
強固な真紫色した蠍の殻を身に付け、白人の住む森を監視兵。
珍しい蛇皮で作られた斑模様の服を着ているのは、国内を防衛している警備隊。
この三つが主な役職である。
「それで話って何ですか?」
「いえネ。どうも白人が侵入した可能性があるみたいで聞いて回ってるんですヨ」
「それは恐ろしい事。お役に立ちたいのは山々ですが、生憎何も知らないので」
「本当ですカ?」
「疑ってるの?」
「いえいえまさカ。ただこの家と、巡回兵達が白人を見た場所は非常に近いっていうだけのこト」
「つまりは疑ってるって事ね。貴方、私を誰だか知ってる? 私は何も知らないし、ましてや匿ってもいないわ」
「あ~そうでしタ。『匿っている』という可能性をすっかり忘れていましタ。この国の人がそんな事をする訳無い、有り得ないって思っていましたからつイ」
「と、とにかく私は何も知らな、ッ!!」
言葉を遮るように、アマンダの首を掴み持ち上げた。
苦しみから脱しようと足をバタつかせ抵抗しようとするが、男は意に介していない。
それどころか人を苦しめているというのに、何の感情も沸いていない様子だった。
「すミマセん。警告はシマシた。……こレカラコの女の首をヘし折るよー」
「高々に宣言している暇があんなら、サクッと殺せド阿保」
声は背後から聞こえ、無意識に振り向こうと体を捻らせた。
しかし動いた瞬間、全身が痺れたかのような鋭い感覚が全身を駆け巡り、固く締めていた指はピンっとして、アマンダの拘束を解除してしまう。
「アマンダ殿!」
「だ、だいじょうぶ……」
「ふーん……おいおっさん、コイツ俺に殺らせてくれねぇか?」
「!? 何を馬鹿な……」
付き合いも短く、聞いている噂も悪辣なモノばかり。実際素行も悪い。
だが経験からなる観察眼とでもいうのか。出雲の言葉とは裏腹にその目は道楽や鬱憤を含んだ目ではなく、理由がある者のみが見せる本気の眼であった。
「言い切らないって事は了承って事で捕らえるぜ? 了承されなくても殺るがよ」
「痛イ……全身、痛イ」
「(出雲の技を受け生きている!? コイツ、人ではないのか!)」
無傷という訳では無い。技は完璧に決まったといってもいい。
だがそれによって受けたのは斬撃の痕ではなく、縛られた様な赤い跡しかなかった。
「やっぱり、居たタ。話通り……兄サンノ」
「(話通りっつぅことは見られてたってことか。)兄さん? 訳の分からねぇこと言ってねぇで正体見せやがれ。人の皮を被った化物が」
「本気、見せる理由、無い。油断しただけ、お前の動き、大シタ事無イ」
「そうかい、見せないのか。ならお前は恥を搔く事になるぜ?」
「何ヲ、訳の分カラナイ、事……!?」
気付いた時には、手遅れだった。
男の皮膚が包帯を解いた時の様にスルスルと解け始めている。
そして見え始めた本性は、人のそれとは全くの別物。
羽が隙間から溢れ、野性味を見せつけてくる。
「漸く気付いたか? 間抜け」
「馬鹿ナ!!? 斬レテイナインジャ……!」
「あぁ斬れなかったよ。切れはしたがな。だから言ったろ、恥掻くって」




