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死処を求め異世界順道  作者: 飴口
黒白の砂城
19/49

不幸運


 「さっさと起きな!」


 「!? ッブハ!!! な、何だ何だ!!!?」


 気絶していた出雲の顔面に何かがぶっかけられた。

 液体だという事は分かるが水ではない。もっとドロッとしていて、戦場にいる時によく嗅いでいた匂い。


 「血!? てか何で血!!? って言うかお前何しやが……」


 「何だい」


 「……お前誰だよ!!?」


 目の前に立っていたのは、知らない女。

 男達同様肌黒いが、濃い黒というよりは褐色に近い。

 腹筋は割れていて、腕も足も見るからに頑丈そうな姿は、出雲の知る女性とは大きくかけ離れていた。


 「人に名前を尋ねる時は、まず自分から名乗るのが筋だろ、イズモさんよ」


 「何で俺の名前を……」


 「貴様が眠っている間に儂が話しておいた」


 「おっさん!」


 女性の後ろに目をやると、コップ片手に椅子に座っている葉昏がいた。

 囚われている様子はないが、代わりに全身包帯が巻かれ無事な様子ではない。


 「その怪我、一体どうしたんだよ!」


 「主も巻かれておるぞ」


 「えっ……あ、マジだ。何故に?」


 「覚えとらんのか。まぁ突然だったから致し方ないか。


 「所でおっさんばっかり茶なんか飲んでズリィぞ。俺にもくれ」


 「これは血だ」


 「え、血? 何でそんな猟奇的な飲み物を……?」


 「この国には水というモノが無いらしい。彼らの飲料はもっぱら血らしい」


 「おいアンタら、目覚めの再開の所悪いんだけど。私を無視するのはやめてくれない?」


 「あーそうだ。お前、誰? 名前知ってんだから名乗る必要ねぇよな?」


 「……私は【リダ・アマンダ】。流砂に呑まれてたアンタらを助けた、控えめに言って命の恩人さ」


 「流砂?」


 「あの泥の事だ。あれに呑まれ、あと一歩の所で儂ら全員死ぬ所だった。貴様も礼を言って……」


 「待て待て待て。何で俺らその流砂なんかに呑まれたんだよ!」


 「……」


 「大変なお連れさんを連れてるんだね。ハグレさん」


 ----- ----- ----- -----

 

 「……」


 「……目的地には着いたけどよ。どうやって降りんだこれ?」


 駱駝(らくだ)に乗り目的地を目指す事一時間弱、広大な砂漠の中心に街はあった。

 隕石でも落下したかのように抉れた巨大な窪みのど真ん中にある街。建物は全て砂で構築されているのだろう、全て同じ色をしている。町に住む人々はやはり全員肌が黒く、三人の存在は大きく目立ってしまう事は明白だ。


 「街まで滑り落ちろって事か?」


 「いや待て……柔らかい土、これは泥だな。それも相当深い。無暗に足を踏み入れても、沈み込むだけだ」


 「じゃあどうすればいいんだよ。こいつらの出身地かどうかは知らねぇけど、あの街の連中は上に上がってくる事無く、あの中だけで生活してるのか?」


 「儂が知る筈がない。シクス、お主は何か知らぬか? ……。……シクス?」


 「……ぁ、ハイ。何で、しょう」


 返事こそしたがシクスはぐったりとし、この暑さの中で汗が止まっている。

 既にこの砂漠は四十度を超す熱に覆われている。それに加え仮面の装着、千里眼と冷気の魔法を使用したことによる疲労、肉体出来発展途中。様々な要因がシクスの体力を奪っていく。


 「シクス! 水は……空ではないか!!」


 「あーあー、俺のも空だ」


 「急いで街に降りて、水を貰わなければ!」


 「だからどうやって降りるんだよ……あっそうだ。こいつ等叩き起こせば聞き出せるんじゃね?」


 「それだ! そうと決まれば早速起こし……ッ!」


 ----- ----- ----- -----


 「……という事があった。思い出したか阿呆」


 「あーそういやあったあった。で、何で俺ら落ちた訳?」


 「突然槍が地面から飛び出してきた」


 「……は?」


 「戯言では無いぞ。事実、槍が無数に飛び出し、儂等は体勢を崩して流砂の中へと落ちた」


 「砂みてぇに消える槍の次は、急成長する槍かよ。どうなってんだこの世界」


 「いや、前者はこの国にあるれっきとした武器らしいが、後者についてはアマンダ殿も全く知らぬらしい」


 「ってぇ事は……」


 「誰か、恐らく化け鳥が狙ってやったことなのだろう」


 「でもあの周りには誰もいなかった。それはおっさんだって判ってる筈だろ?」


 一流の武術かともなれば、日常生活の間でも気を張っている。

 気は物理的な相手の攻撃を事前に察知する事も、殺気などの(よこしま)な感覚すら見抜く事も可能な領域である。


 「判っているが、その可能性がある事も判ったであろう?」


 「そうだけどさぁー……まぁそれはそれで取りあえず今は納得しとくわ」


 「それでいい。儂も全く理解できておらんしな」


 「……あ。そういえば餓鬼は?」


 「向こうで寝てるわよ。全く、白人が砂漠渡って【バクサ】に来よう何て何考えてるんだい? しかも子供連れで」


 砂漠の国【バクサ】

 広大な砂漠の中にある唯一の街。人口は三十万程度と少数。

 木や植物などといった生命が存在しておらず、この国の住民はこの世界特有の砂を巧みに使い生活をしている。


 「用も何もねぇよ。俺達は別の世界から扉抜けたらこの場所で……」


 発言してから、自分の言葉の信憑性の薄さに気が付いた。

 同時にこの発言が下手をすれば世界の均衡を崩しかねないという事にも気付き、恐る恐る葉昏の方を見る。


 「(不味ったか?)」


 「あー……それホント?」


 「出雲。貴様が阿呆で良かった。アナンダ殿、信じてもらえましたか?」


 やっちまった感が滲み出ている出雲に対し、葉昏はやってくれた感を前面に出し、喜々として喜んだ。

 アナンダはというと、事実を受け入れがたい表情を浮かべている。


 「どういう事? 俺、やっちまってないの?」


 「やっちまってはいない。貴様が起きる前、儂は嘘偽りなく語った。それだけの事」


 「なーにが語ったよ。私が見た事の無い武器とか服とかについて問いただしたら、話しただけじゃない」


 「……おっさん」


 「……今回は状況がそうなっただけの事」


 「でも当然私は信じなかった。で、あんたかあの子が起きてその返答次第で真偽を試したって訳」


 「……アンタもそれで信じるってのはどうよ」


 「口裏合わせにしろ、流砂に呑まれるなんて考えは白人でもしないわ。イカレてるもの。それに私以外の人が見れば、見捨てられてた。だから信じる」


 「……」


 「……運が悪いんだか良いんだか」


 「兎角今は喜ぼう。してアマンダ殿、異世界から来た儂等の事情をお話いたしますので、この国。いやこの世界について教えてはくれないか?」


 「良いわよ。教えてあげる」


 「有難い。出雲、貴様は童の看病をしておれ」


 「……はぁー、了解」


 「水は容器に入ってるから、適時入れ替えてね」


 「水あんのかよ」


 「少量よ。訳もこの中で話すわ」

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