屈強な戦士
「ッシャァ!!!」
集団から一人が飛び出し、出雲目掛けて槍を突き出す。
鍛えているだけあってかそれなりには早い。
「(っと、斬っちゃいけねぇんだったな。時宜もわりぃし、適当に避けるか)」
一撃目で対峙する相手の度合いが分かる。つまり一考二考してから避けられる程攻撃は遅く、危険性も薄いという格付けがされた。故に適当に攻撃を躱し合わせる形で仕留めるだけのツマラナイ試合になると思っていた。
だが男の槍は地面に刺さった瞬間、爆発物を突いたかのように砂を周りに飛び散らした。
「!? 爆発!!」
火薬による爆発というよりは、今の言動通り刺さった瞬間に風圧が発生し吹き飛ばされた感覚に近い。
辺り一面が一気に砂煙に包まれ視界が潰される。武が達者な侍二人は気配で周りの人数や位置、行動を理解できるが一瞬の動揺を最大限に利用した槍が煙の中から襲い掛かる。
「ッ!」
「!? 仕留め損なった!! コイツ、強い!!!」
「だからどうした! 我々は誇り高き砂漠の民!! 白人如きに後れを取るなんぞ、恥ぞ!!!」
「ギャーギャーギャーギャー喧しい!!!」
刀を抜き、突出したまま放置されていた槍を切り捨てる。その時、若干の差異を刀から伝わる斬撃で感じた。
今切った部分は出雲の知る普通の槍でいう『太刀打ち』か『銅金』に当たる部分。大体そこの材質は金属か、余程の貧乏であっても木材で出来ている。だが今の感触はそのどれとも該当しない。だが確かに感じた事のある感触。刹那の思考の中導きだした感触。それは『砂』だった。
「(マジかよ。斬って落ちた先端部分が崩れて砂になってやがる。どういう技術だこれ)」
「『砂戈』が砂に戻っちまった!!」
「避けただけでなく、武器を無効化するなんて……コイツはきっと白人の戦士だ!!!」
「あーあーもううるせぇなぁホント。静かに出来ねぇのか山猿」
「何言っているんだこの白人!!」
「そんな事より、戦うぞ!!!」
「応!!!」
「戦うって、武器も無しにどうやっ」
男達は刀に臆する事無く、近付き殴り掛かって来た。
しかし武器の驚きに反し、生身の肉体での攻撃は少し早い程度の拳。加えて向こうも動揺していた為か、出雲の体に拳が当たる前に互いのデカい体がぶつかり、大きな隙を与えてしまう。
「(本体はどうやら大したことはなさそうだな!)」
刀を鞘に戻し、男達の顎目掛けてフルスイングに振りぬく。
首が斜め右に傾き、重なる様にドサリと男達は灼熱の砂の上に倒れ込む。
「ふーちょっとは驚いたな。おっさんはー……」
「心配されんでも片付けた。にしても突然襲って来るとは……」
「敵、でしょうか?」
「少なくとも雇われた賊って線はねぇな。俺達を『ハクジン』って呼称して襲い掛かって来た訳だし……」
「……おい葉昏。貴様何しれっとこ奴等の騎乗していた馬に乗っておる」
「おっさんも餓鬼も早く乗れー! すぐには起きねぇだろうけど、殴った感触も普通の人間より頑丈だった。外見だけじゃなく、中身もゴッリゴリのムッキムキだぞそいつら」
「乗るにしろこ奴等はどうする! 見殺しか!」
「殺しに来たんだ。殺されず生存の可能性残すだけありがたいと思いながら死んでくれるさ」
「結局死ぬんですね……」
「……生憎、そういう事は出来ん性分でなッ!」
葉昏は屈強な男連中を馬の背に乗せる。
丁度良いコブがあった為、そこに二人重ねるように乗せ紐で括りつける。
「律義だねぇ」
「……」
「……おいシクス。大丈夫か、ふらついてっけど」
「大丈夫、です。ちょっと立ち眩みしただけで……っあ」
「立ち眩んでる時点で大丈夫じゃねぇっての。倒れられたらクソ暑いのがクソクソ暑くなんだ。シャキッとしろ」
「あ、ありがとうございます……」
渡されたのは出雲が持参した竹製の水筒。
多少飲んでいいものかという葛藤はあったが、咽の欲求に耐えられず一口で全てを飲み切る。
「準備完了だ。ゆっくり手綱を引いて行けば途中で落ちることも無いだろう。ほれシクス、手を」