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恐れていた事態に


 王太子との婚約が決まった。


 そうお父さまの執務室に呼ばれたわたしに告げられた。お父さまは沈鬱な顔をしており、お母さまも青ざめている。お兄さまも難しい顔をしていた。

 とうとうこの日がやってきた。

 わたしは15歳。王太子であるルパート王子は17歳。


 実は10年前からずっと打診されていた。だけど、過去の出来事から、公爵家としては婚約は受けられないと言い続けていたのだ。婚約までしなくとも、婚約者候補として過ごしてきた。当然、候補なので王妃教育は行われ、ルパート王子とも交流を持っていた。


 この婚約はいずれ白紙になるのだろうと思っていたのだが。

 どうやら読みは外れて、議会で承認されてしまったようだ。議会で承認されたということは、ルパート王子がわたしとの婚姻を望んだということだ。王子本人から求められ、議会でも承認されれば、公爵家とはいえ辞退することができない。


 思いつめたような家族の様子にわたしは笑みを浮かべた。


「大丈夫ですわ」


 何がだ丈夫なのか全くわからないが、とりあえず大丈夫だと言ってみる。お父さまは分厚い一冊の本をわたしに差し出した。

 表紙には何も書かれていない。歴史を感じる重厚な表紙を持つ本。


 差し出されるままそれを受け取った。


「エレイン、それは代々この国の王族と縁づいた女性の日記だ。お前も続きを書くように」

「日記?」


 手にした本を見つめる。


「そうだ。この家の女性が王族と縁づいて幸せになった例はない。彼女達が何を考え何を思い、どうなったかを知り、お前の道を見つけるんだ」

「わたしは幸せにはなれませんか?」


 吐息のような小さな声で聞いた。お父さまは首を左右に振った。


「ルパート殿下が駄目だとは言わない。今までもお前に対してとても誠実だった。だが、それが永遠に続くとは限らない」

「誰でもそうではないのでしょうか?」


 たとえ相手が王子でなくとも、そういう事もあるのではと思うのだ。


「そうかもしれない。でも、この公爵家の過去が信じさせてくれない」


 過去を持ち出されてしまえば反論することもできない。それほどこの家の王族と縁のあった女性は不幸だった。


 わたしはルパート王子を信じたいのに。


「エレイン」

「なんでしょうか、お母さま」


 青ざめたお母さまはじっとわたしを見つめた。


「いざとなったら、一家全員で国を捨てます」

「……どこにですか?」


 お母さまがふわりと笑った。華奢で線の細いお母さまは二人の子持ちとは思えないほど若々しい。


「魔境ですわ」

「は?」


 魔境と聞いて口が開いてしまう。魔境とは人外が住むと言われている場所だ。人が足を踏み入れればたちまち獣に襲われ、食い殺されてしまうと言う恐ろしい場所。国外追放に使われる恐ろしい地でもある。

 その魔境に逃げるなんて、意味が分からない。死に行くの間違いではないのかしら。


「心配しなくともすでに準備は整っております。領民もすでに暮らしていますから、皆、今までと変わりなく暮らしていけます」

「えーと?」


 理解できずに視線をお父さまに向ける。お父さまは鷹揚に頷いた。その顔は先ほどと違って自信に満ち溢れている。


「ここで暮らすのと何ら変わらないほど整えてある。ルパート殿下が浮気をするのを待てばいい」

「夜会や茶会は開けないけど、領民との距離は近くなるし、経験したことのないようなことが色々あって楽しいよ?」


 お父さまの言葉もお兄さまの言葉も信じられなかった。


「男性はこれだから……。魔境での夜会や茶会は工夫すればいくらでも開けますよ。招待状も呼びたい方に送ったらよろしい」


 お母さまが困ったようにため息を漏らす。

 なんだか論点がすごくずれている気がするのはわたしだけ?


「母上、魔境にまでやってくる貴族などいるわけがないでしょう?」

「何を言っているの。魔境でしか手に入らないレアな手土産を用意すればそれなりに来ますよ。貴族の見栄をくすぐればよいのです。噂も流せばなおいいわね」


 お兄さまの疑問を鼻で笑い飛ばす。お父さまは二人の会話を微笑ましく聞いていた。


「あの、お話し中、申し訳ないのですが……。ルパート殿下が浮気しない方には期待しないのですか?」

「するわけないだろうが。あれはすでに王家の血によるものだ。今はまだお前のことを思っていてくれてもそのうち浮気する。間違いない」


 お父さまは笑顔で断言した。お兄さまもちょっと困ったような顔をした。


「ルパート殿下もね、もっと積極的に女と遊べば変な女に引っかからないと思うのだけど」

「……女遊びをした方がいいのですか?」

「そうだよ。その方が女に幻滅して、一目惚れなんて絶対にしない。ルパート殿下はどこの僧侶かと思うほどだ。きっと女を知らないと思う。肉食乙女の毒牙にかかっても仕方がない」


 ルパート王子を思い、ため息を付いた。

 金髪碧眼の王族の色を持つ、王妃譲りの美貌の好青年。

 いつも笑みを湛え、思慮深い。人の話をよく聞くし、誰にでも公平。


 それがルパート王子の一般的な評価だ。わたしに対してもそれは変わらない。少し変わるとしたら、婚約者候補だと言うのに距離が近いところだろうか。

 側にいれば腰を抱いてくるし、手を繋ぐのは当たり前。

 挨拶にキスは当然だし、時折力いっぱい抱きしめられている。


 これが一般的な男女の距離ではないことは確かだ。最近は耳の後ろにキス?なのかな、ぺろりと舐められている。


 初めはびっくりしていたが、婚約者候補なんだから親しくする必要があると言われて納得していたのだけど。

 時折、壁際に控えている侍女たちが鼻を押えてぷるぷる震えているのでやりすぎなんじゃないだろうかと思うこの頃。


 あの手際の良さで童貞とかってないんじゃない?


「信じられない」


 ぽつりと呟けば、お兄さまが聞きとがめる。


「何がだい?」

「いえ……王族なのだから閨の教育はもうされているのではないかと」

「そうかもしれないけど、それは技術だろう? 問題にしているのは心だよ」


 そうか。技術力か。

 納得……なのかしら?




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