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とある魔族の成り上がり  作者: 小林誉
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第94話 初戦

こちらから仕掛ける戦力は、俺達賞金稼ぎと魔族の正規兵を加えて約五十。この村には奴隷を含め百人近い人数が居るものの、作業用に連れてこられた奴隷を戦わせたところで簡単に蹴散らされるのが見えている。そのために、奴隷はこの村にとどめて防衛に徹しさせるつもりだ。


十頭居るペガサスにはリーシュと魔族が乗り、それぞれが偵察と伝令を務める役になっている。これで実際に戦える人数が更に減って四十人になってしまったが、偵察を疎かにすると勝てる戦いも勝てなくなるので仕方がない。


俺達が村を出る前、リーシュ達偵察隊が空へ飛び立ち敵の現在地を探る。その間村に残った奴隷はケニスの指示で武器の用意や柵を追加するなどの作業に追われ、俺達は森の中で作れるだけの罠を準備していた。


しばらくすると、ペガサスに乗った魔族の一人が敵を発見したらしく、俺達の元へと急降下してきた。


「見つけました! 数はおよそ二十。ここから西に直線距離で五キロの位置です」

「思ったより接近されていたな。他はまだ見つからないか?」

「申し訳ありません。今見つけたのはその小集団だけです」

「わかった。引き続き警戒を頼む」


欲を言えば敵がどの位置に展開しているのか全体を把握してから叩きたかったが、そうも言っていられない。とりあえず村に一番近い連中から始末しなくては。俺達はなるべく物音を立てず、気配を殺しながら西へと歩みを進める。万が一敵の斥候に見つかると逆に奇襲される恐れがあるため、一時も油断できない。こちらからは身軽なルナールとシーリ、そして森の中の戦闘を得意とするラウを斥候に出し、奴らの先手をうつべく行動を開始した。


それと同時に俺も自らの体を変化させ、男のエルフの姿になっていた。やはり森の中での戦闘にはこの姿が一番向いているだろう。現に大きくなった耳は、些細な音すら逃さずに拾ってくれている。


歩き出してから三十分ほどした頃、前方からルナール達が慌てた様子で引き返してきた。どうやら斥候を発見する前に敵の集団を見つけたらしい。素早く駆け寄ってきたルナールが小声でささやく。


「もう目と鼻の先にいる。まっすぐこっちに向かってるから、後五分もしないうちに接触するよ」


その報告にコクリとうなずき、俺はさっと手を上げた。事前に打ち合わせていたとおり、配下の者達が木の上や茂みに身を潜め、息を殺して敵の向かってくる方向を凝視している。俺もスルスルと木の上へと上って槍を構え、敵が現れるのを待つ事にした。やはりエルフの体だけあって、特に意識しなくても何処に足や手をかければ良いのかが自然とわかってしまう。


「……見えた」


木々をかき分けながら進んでくる一団が目視できた。身につけている装備は全てバラバラで統一されておらず、一目見ただけでは軍人だとわからない容姿だ。だが一つ共通しているのは、その整然とした動き。これが本物の傭兵なら賑やかとは言わないまでも、ある程度の雑談をしたり、二列横隊で歩くなんて真似はしないはずだ。これだけでも奴らが何処かの軍人なのだと確信できる。


奴らは奇襲される事を考慮していないのか、特に警戒している様子もない。敵はあくまでも俺を含む賞金稼ぎだけだと思っているのだろう。


「止まれ」


攻撃の指示を出そうとしたその瞬間、先頭を歩いていた男が片手を上げて後続の動きを止めた。そして周囲をキョロキョロと見回し、腰に差した剣の柄にそろそろと手を伸ばす。潜んでいる俺達の殺気に気がついたのだろうか? どうやら思った以上に腕の立つ奴らのようだ。このままでは奇襲の効果がなくなってしまうので、俺は瞬時に攻撃の合図を出す。俺の近くに居たラウがこくりとうなずき、弓を引き絞って素早く矢を放った。


ヒュン! と風を切り裂いて飛んだ矢が、足を止めた一団の最後尾にいた男の首に突き刺さり、ぐらりと傾く。それと時を同じくして潜んでいた仲間達が一斉に攻撃を始め、サイエンティアの軍人達に雨あられと攻撃が降り注いだ。


「て、敵しゅ――ぐっ!」


声を上げようとした男の胴を誰かが投げた槍が貫いた。軍人達は必死に身をかわそうとしたものの、なにせいきなりの攻撃と数の差だ。運良くそれらの攻撃を回避できたのは僅か数人だ。しかし、彼等もそれほど時間をかける事なく先に倒れた連中と同じ運命をたどる事になった。


いかに腕が立つとはいえ、一度に全方位から武器を持った人間に殺到されて防げる者など滅多にいないだろう。スキル持ちならそれでも逃げおおせたかも知れないが、どうやら彼等の中にそんな能力者は存在しなかったようだ。正面から振り下ろされた剣を左に跳んで躱し、後ろから突き出された槍を自らの剣で跳ね上げる。だが左から薙ぐように振り抜かれた剣に足を切り裂かれ、苦痛の声を上げて倒れたところに殺到した魔族達の武器が容赦なくいくつも振り下ろされた。断末魔を上げる間もなく絶命する軍人達。一人も逃がさず被害も出さず、完勝と言って良いだろう。予想以上に上手くいった奇襲に仲間達が高揚しているが、俺まで同じように喜んでいるわけにはいかない。皆の気を引き締めるようにパンと一つ手を打って、彼等の正気を取り戻させた。


「気を引き締めろ。まだ始まったばかりだぞ」


敵の数は多い。この連中を倒したところでまだまだ安心は出来なかった。血で汚れた武器をそこらの草で拭い、少しだけ綺麗にしておく。血脂がこびり付いたままだと後で手入れが大変だからな。さ、急いで次の敵を見つけなくては。

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こちらからは身軽なルナールとシーリ、そして森の中の戦闘を得意とするラウを斥候に出し、奴らの先手をうつべく行動を開始した。 ラウは拠点の護衛として置いてきたのでは?
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