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とある魔族の成り上がり  作者: 小林誉
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第34話 支配

翌朝、朝日が昇り始める前に俺は目が覚めた。眠れたのは僅か数時間と言ったところだが不思議と疲れは取れている。天幕の中にはいつの間に運び込んだのか、簡易式の寝具に身を包んで寝息を立てているリーシュとハグリー、そしてシオンの姿があった。彼等も色々あった事で疲れていたのだろう。起こさないように気を使いながら外に出ると、見張りに立っていた魔族が会釈をしてきた。


「おはようございますケイオス様」


どうやら俺が寝ている間にリーシュ達から名前が伝わっていたようだ。様づけで呼ばれる事に少しくすぐったい思いがするものの、気を取り直して魔族にある質問を投げかける。


「おはよう。昨日捕らえた捕虜――シードの居場所はわかるか?」

「それなら私がわかります。ご案内しますのでついて来て下さい」


十分休息を取った事で気力は回復した。今ならスキルを問題なく使えるはずだ。街に戻る前にシードを支配下に加えておけば依頼主に対して色々と誤魔化しがきくので、スキルを使うなら早い方が良い。前を歩く魔族の背を見つめながらそんな事を考えていると、いくつか並ぶ天幕の中の一つに案内された。


入口に見張りの姿はない。俺の時はそれで助かったが、いくらなんでも危機感がなさすぎる。ずっとこの調子では先が思いやられるので、後で注意しておかなくては。


天幕の中には鎖でぐるぐる巻きにされたシードと例の賞金稼ぎ二人組の姿があった。三人とも猿轡を噛まされているために言葉を発する事が出来ないようだ。俺に気がついた三人が驚いたり憎しみの目を向けたりとそれぞれ違った反応を見せる中、俺はシードの猿轡を引き剥がした。


「か、解放してくれるのか?」


淡い期待を込めた目でシードがジッと見てくる。しかしあえてそれを無視した俺は、なるべく威圧感を与えられるように声を低くしつつ脅しをかけた。


「それはこれから試すスキル次第だな。お前が俺に忠誠を誓うならすぐに拘束を解く。効果が無いようならこのままそっちの二人と一緒に魔族領行きになる」


俺の言葉に三人が顔を青ざめている。人間が魔族領に連れていかれれば遅かれ早かれ死ぬ事になるから当然だろう。労働力として体が動く内は奴隷としてこき使われ、働けなくなったら容赦なく殺されて家畜の餌だ。それがわかっているだけに、彼等は命の危機を感じているはずだ。


急に無言になった三人を無視ししてシードの後ろに回った後、身動きの取れない背中に手を添えてゆっくりと意識を集中していく。今のシードなら戦いの疲れも残っているため支配の影響下に置けるはずだ。俺の右手から意識の触手がいくつも伸び始め、シードの体に絡みついていく。対するシードはスキルの影響なのか、体をビクリと硬直させて身動きすらしなくなった。


「あ……あ……」


シードの口から僅かな声が漏れはじめたと思った途端、彼は急に全身を脱力させて力なく横たわった。成功したのだろうか? 


「シード。おいシード! 起きろ!」

「う……う……」


彼はゆっくりと目を開け、少し焦点のあっていない目で俺をぼんやりと眺めていた。そして急にがばっと体を起こし、はっきりと意志のこもった口調で話し始めた。


「申し訳ありませんが、拘束を解いてただけますか?」

「……その前に、いくつか質問がある」


一応スキルは成功したと思うのだが、念には念を入れなければならない。賞金稼ぎ達のまとめ役をやるだけあって、機転が利くだろうから適当に話を合わせる可能性もある。それにあの戦いの中生き延びる程度に腕は立つのだ。油断しない方が良い。


「まず、お前の主の名前を言ってみろ」


これで依頼主の名前をあっさり出したら支配は失敗したと言う事だ。俺が固唾をのんで待っていると、シードは眉をひそめるながら申し訳なさそうに答えを口にした。


「私の主は貴方です……が、残念ながら未だお名前を存じ上げません。この機会に教えていただけると幸いです」


シードが突然態度を変えた事に他の二人が驚いてウーウー唸っているが無視だ。シードの前で名乗った事も無いし、リーシュ達が俺の名を口にする事も無かった。支配は成功したと見ていい。これなら拘束を解いても大丈夫だろう。だがその前に、コイツの考え方を知っておく必要がある。


「お前、ハーフや魔族についてどう思う?」


この返答次第ではシードとシオン達を一緒に行動させる訳にはいかなくなる。コイツを連絡役に使うなど以ての外だし、仲違いなどされてはたまったもんじゃない。俺が必要としているのは自分を殺してでも俺に貢献してくれる配下だ。


「ハーフや魔族に対して、正直言って良い感情はありません。ただ、相手から攻撃されない限りこちらから何かしようと思う程の敵意も持ち合わせていません。もちろんハーフと言っても貴女は別です。私の主である貴女だけは特別な存在なのですから」


どこかウットリとした目で見つめるシードの視線に少し寒気を感じてしまった。まさかコイツ、今の姿の俺に変な感情を抱いてるんじゃないだろうな? だがまあ、コイツが俺に敵意を持ってない事はわかった。シオン達魔族にも事務的に対応させればそうそう問題も起こるまい。俺は極力シードと目を合わさないようにしながら奴の拘束を解いてやった。


シードは縛られて痛む手足を擦りながら立ちあがると、俺の正面に回ってその場に跪く。


「貴女に対して永遠の忠誠を誓います。何なりとお命じ下さい」

「ああ、よろしく頼む。俺の名はケイオス。さっそく仕事をしてもらうからついて来い」

「はい!」


まるで尻尾でも振りそうな勢いでついて来るシードに少々呆れながら、俺達二人は天幕を後にした。


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