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とある魔族の成り上がり  作者: 小林誉
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第124話 麦神の像

ワイズとの会談は終わった。と言うより、一方的に突きつけた要求をワイズが丸呑みした形だ。会議の後、一時間ほどして再び広場に集まった村人達に内容を告げると共に、これからワイズがこの村の村長だと言い切ったところ、連中は複雑な表情を浮かべていた。


俺が村に突きつけた税は他の村の二倍。勿論それは一人当たりの金額で全体的な数字ではない。重税が課せられた事に顔を引きつらせながら声も上げられないで居る連中に、俺は言葉を続けた。


「税は倍にするが、その代わり徴兵だけは免除してやる! 働き手を奪わない分死ぬ気で働け! それと、ワイズの言葉を俺の言葉と思い、黙って従え! 逆らえば殺す! ワイズの身に何かあったも皆殺しだ! わかったな!?」


ひょっとしたら連中は、俺達が村を立ち去るまで大人しくしていれば、それでやり過ごせると思ったのかも知れない。ワイズを村長に仕立て上げても、何だかんだと理由をつけて仕事をさぼり、責任をワイズに押し付けるつもりだったのかも知れない。それを防ぐために、俺、ワイズ、ケニスで協議して、今回の布告を行ったのだ。


事実、顔を青くする多くの村人の中には苦い表情の者が何人か確認できた。念のために兵士の一人でも置いておこうかと思ったが、それはワイズ本人とケニスによって却下された。兵隊を集めるために各地を制圧しているのに、ここで貴重な兵を置いていくなど本末転倒だと諭されたのだ。確かにそうだとすぐに思い直す。どうも世話になったワイズが心配で冷静さを欠いていたらしい。そんな俺に笑いながらワイズは言った。


「なに、連中が私に危害を加えるはずがないさ。そんな度胸もないだろうし、君からの報復が怖いからね」

「だったら良いんだが……」

「ケイオス。そんなに心配なら定期的に誰かをやって様子を見に行かせれば良いよ。監視の目が常にあると解れば、彼等も逆らう気は起きなくなるはずだ」


二人にそう言われれば無理を通す事もない。ケニスの言うとおり、時々様子を見に連絡役を派遣する事にして、村の方針は決定した。用も済んだので村を後にすべく準備している仲間達から離れ、俺は一人村の奥へと足を運ぶ。


広場から離れた村はずれ――そこには偶然俺にスキルを与えた麦神の像があるはずなのだ。今は一体どんな事になっているのか気になって祠に足を運ぶと、そこには予想もしない光景が広がっていた。


「なんだこれ……?」


祠は以前ヴォルガーとやり合った時同様、ジメジメして苔に覆われている。しかし奥にあったはずの麦神の像の代わりに砂山が出来ていたのだ。まるで像が風化して砂になったように。俺は砂山を手に取り、間近で観察してみる。


「新しいな。誰かが持って来た……わけないか。そんな事したって何の得にもならないんだし。て事は、これはアンジュが関係してるのか?」


何か手がかりは無いかと思って砂山を崩してみると、砂の下から赤黒く染まった地面が顔を出した。何度となく切った張ったを繰り返してきただけに、それが何か俺にはすぐ理解出来た。これは血の乾いた後だ。祭りの時ならともかく、普段こんな祠に村の連中が来るはずもないので、誰かが意図的にここで血を流したに違いない。恐らくそれはアンジュで間違いないだろう。でなければスキルを得るなど考えられないからだ。


「それにあのエルフ……アルウェンって名前だったか。アイツも像から力を授かったと言っていた。ごく一部の呪われた土地に存在する麦神の像が力を与える……と。ひょっとしたら像が力を使い果たしたから、こんな状態になったのか? わからない事だらけだな」


アンジュに直接聞ければ良いが、アイツが何処に行ったのか見当もつかない。俺がこの先名を上げていけば向こうから会いに来てくれるかも知れないな。あまり期待せずに待つとしよう。


故郷を後にした俺達は、一旦コションの村へ戻ってきていた。次にどこの村を占領するのかを相談するためだ。地図を広げて全員が頭を悩ませる中、コションが何か思いついたように挙手する。


「そう言えば、ここから北東の村に腕の立つ一族が住む村があります。代々村長を務める家系で、歴代の中には魔王に取り立てられた者も居たとか。ケイオス様が戦力を欲するなら、連中を取り込んでみるのも良いのでは?」


魔族領の事情をほとんど知らない俺が、そんな奴等の話を聞いた事が無いのは当然なのでケニスに視線を向けると、彼は少し考えた後コションに尋ねる。


「ちなみに、その取り立てられた者の名前はわかるかい?」

「確か……アードラーだったかと」

「ああ、彼か。それなら僕も知ってるよ。遙か遠くを見渡す事が出来るスキル持ちで、二振りの大剣を棒きれのように振るう戦士だったらしい。確か二百年ほど前の魔王が重用してたと歴史書で読んだ事がある」


合点がいったとばかりに頷くケニス。どうやら単なる噂ではなく実在する一族らしいな。


「ケニス?」

「コションの言った人物は過去確かに存在したよ。今もその一族が残っているなら、取り込んで損はないと思う。もっとも、仲間になってくれればの話だけどね」

「そうだな……」


そんなに強い奴等が大人しく従ってくれるとは思えない。十中八九戦いになるはずだ。下手をすれば、仲間を増やすどころか大幅に減らすような事態になりかねない。不安が顔に出ていたのか、隣に座るリーシュが心配そうに顔をのぞき込んできた。


「ケイオスどうする? 今回は止めて別の所にしておくか? 一旦他で力を蓄えて、改めてその村に行くのも手だと思うぞ」


一瞬それに同意しかけ慌てて頭を振る。相手が大きな街ならともかく、ただの村じゃないか。今からこんな弱気でどうする。魔王を目指すのだから、強い敵は力でねじ伏せるぐらいでないと話にならない。


「いや、行こう。ただし念には念だ。今ある爆弾は全て持って行く。敵は強力みたいだからな。みんなもそのつもりで準備してくれ」


方針が決まれば後は行動するのみ。俺の指示に従い、各自がそれぞれ散っていく。そんな背中を見送りながら、俺は心の中の不安を消せないでいた。


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