第8話 真相
会田は三鷹に指示されてから、二時間は待っていた。
「遅いな…」
会田はいらつくと貧乏ゆすりをするくせがある。今回もその癖が出ようとしたとき、三鷹と分かれた喫茶店の前にタクシーが一台止まった。
中から降りてきたのは三鷹だった。
「おい!三鷹!遅いぞ。」
会田は大声で反対側にいる三鷹に大きな声で呼びかけた。
だが、三鷹はそれを無視して横断歩道を渡って会田のもとにゆっくりと歩いてきた。
「遅いぞ。三鷹。」
「ごめんよ。だけど事件の真実はわかったぞ。」
「本当か!?」
「ああ、だからまず現場に行こう。」
三鷹と会田は事件現場のマンションに入っていった。
「じゃあ、トリックを明かそうか。」
三鷹は手をこすり合わせて、事件現場の書斎の机に腰をかけた。
「この事件のキーポイント。それは事件の次の日がゴミの回収日だったこと。もう一つは都内での放火。この二つだ。」
三鷹はポケットから燃えカスを取り出した。
「この燃えカスが、犯人唯一のミスだ。」
三鷹は堂々と言い放った。
「それがミスだとはわかったが、お前が喫茶店で言っていたこと。ええとなんだっけ…」
「成岡が自殺ということかい。」
「そう、それだ。何故自殺なんだよ。」
「それを今から解き明かす。」
三鷹は立ち上がった。
「まず、成岡は12時ごろにエレベーターに乗り込んだ。このときの衣装は黒ずくめ。」
「まさか…」
「そうだ。俺たちが防犯カメラで見た映像。あれは成岡自身だったんだ。」
「マジかよ…だが、成岡の部屋からは黒ずくめの服は出てこなかったぞ。」
会田の言っていることは事実だった。
だが三鷹はそれを覆した。
「そこなんだ。ではどうやって成岡が黒ずくめの服を処分したか。これを教えよう。」
三鷹は書斎の窓に近づいた。
「ここから、落としたんだ。」
三鷹は下を指差している。そこにはゴミ捨て場があった。
「だが、そこから落としても服とかだったら朝ゴミ捨てにきた人にばれるだろ。」
会田が反論した。だが三鷹はそれも覆した。
「そう、そこなんだ。そこをとくにはしたの人の証言が役に立った。」
「どういう意味だ。」
「彼女は赤い玉を見たと言っていた。実はそれは黒ずくめの服が燃えて落ちているとこを見たんだ。」
「燃やしただと!?」
その発想は会田にはなかった。
「そう、燃やしたのさ。都内で発生している連続放火事件に見立ててね。」
三鷹は会田にしたの大きなゴミ箱の前で拾ったものをみせた。
会田は納得しそうになったが、重大なことに気づいた。
「おい、三鷹。銃はどこにやった?」
「銃?」
「そう、銃だ。成岡の死因は頭部を銃で一発だ。これは変えがたい事実だ。ちゃんと銃弾も見つかったしな。」
「会田、君は本当に頭が固いな。よくそれで刑事をやっているな。」
三鷹はくすくすと笑い始めた。
「どういうことだよ。」
「わからないのかい。会田。じゃあ教えてあげよう。服と一緒に落としたのさ。」
「服と一緒にだと!?それじゃあ自分の頭を打ち抜いたあと服に火をつけて一緒に落としたのかい。そうとでも言うのか。三鷹。」
「違う、銃は勝手に落ちていったんだ。そのトリックはこうだ。」
三鷹は被害者が座っていたいすに腰掛けた。
「まず、黒ずくめの服にたこ糸か何かで縛り、油をたっぷりかけ染み込ませる。」
「そのあとに、そのたこ糸を銃に結びつける。これで完了。」
「あとは、黒ずくめの服を窓の外に出して火をつけ、自分は銃を持って椅子に座る。そして引き金をひく。」
三鷹は指でピストルを作って自分の眉間に向けた。
「あとは自分が死んだため、だらんとした手から銃が自然に抜け落ち、油が染み込んだ服の重さに引っ張られて、銃も服も燃えながら落ちていく。そしてゴミ箱にきれいに入る。火が回らなかったのはおそらく、あらかじめゴミ箱の中に水でもまいていたんだろ。燃えるのは服だけになる。これでトリック完了だな。」
三鷹は説明を終えてほっとしたのか、いすに深く腰掛けた。
だが会田は納得いかなかった。
「三鷹。じゃあ暴力団との口論はなんなんだ?」
「おそらく、それは自作自演。警察に犯人は暴力団と思い込ませたかったんじゃないかな。」
それでも三鷹は納得いかなかった。
「おい、三鷹。もしそのゴミ箱の火を誰かが見て通報したらこのトリックはパーになるんじゃないか。」
「いや、そうはならない。むしろ成岡は見つかるのを願っただろう。」
「どうして。」
「成岡としては、これを殺人とみせたかった。そのためには自分自身が凶器を持っていたら不自然だ。そのために落としたんだろう。火をつけたのもおそらくそのためだ。」
会田はなるほど。という顔をして次の質問をぶつけた。
「じゃあ、動機は何だ。」
「おそらく保険金目当てだろう。成岡の実家を訪ねるとお母さんは入院中で手術が必要らしい。だが手術の代金はとても高くて成岡には払えなかったのだろう。だから苦悩の末自殺したんだろう。」
「親思いのいい奴だったんだな。」
「そうみたいだな。」
三鷹はポケットからタバコとライターを取り出して火をつけた。
三鷹は窓から夕焼けを見ながらタバコをふかした。
「ありがとう、三鷹。今回も事件解決してくれて。約束の近江牛だけど今から行くか。」
会田は三鷹に尋ねてみた。
「ああ、近江牛か。食べに行こう!」
「そうだな。」会田と三鷹はゆっくりと部屋を出た。
そのとき三鷹がつぶやいた。
「成岡、あんたはバカだな。親助けるのに自分の命ささげちまうなんてな。本当笑っちまうよ。だけどあんたがやろうとしたこと。俺がやりとおしてやるからな。」
「ん?なんかいったか?」
「いや何も。それより近江牛食べようぜ!」
三鷹は会田の背中を押して、部屋から出て行った。
スカイラインをとばしている途中、三鷹がしゃべりかけてきた。
「あのさ、会田。頼みがあるんだけど…」
「ん?なんだ?」
「実は…」
ここから先は三鷹が会田の耳元で小さな声で言ったので聞き取れなかった。
「わかった。そういうことにしよう。」
「ありがとさん。」




