優男
遅れましたー;
ノトスの街外れにある地下迷宮。
この地下迷宮は、ノトスでは深淵迷宮と呼ばれていた。
そしてその深淵迷宮前の広場では‥
「彼が魔石魔物狩りの担当だ、基本的にすべて彼に一任する」
俺はアムさんに酷い無茶振りをされていたのであった。
三日ぶりに解放された深淵迷宮前で、そう宣言されたのだ。
前の魔石魔物暴走以来、封鎖されていた深淵迷宮が解放されると言うので、かなりの数の冒険者が集まっており、その中で宣言されたのだ。
魔石魔物暴走事件の戦犯扱いされている俺が。
そんな大役を任されるのだから、当然吹荒れる大ブーイングの嵐。
しかし。
「彼が許可した者なら、魔石魔物を狩る事を許す」
その発言の後に。
『横暴だー!』『巫山戯るな!』『ちょっと待てよ、?』『お、俺は支持するぜ』
怒る者や思案する者、取り入ろうとする者や歓迎する者。どうやら魔石魔物狩りを行った事がある者ほど、過剰な反応である。
それは魔石魔物狩りの旨味を知っているからであろう。禁止されていた魔石魔物狩りが出来るかも知れないのだから、冒険者達は必死であった。
その冒険者達の反応を眺めながら、最後にアムさんが俺に小声で伝えてくる。
「頑張ってね」
「ぐう、」
――ぐおお、
利害が一致しているとは言え、これはきっついなぁ、
こうして魔石魔物狩りが始まったのだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
今回の魔石魔物狩りに不安はあったが。
追加で1人、心強いメンツが増えたのだ。
前回の戦いで活躍をした、例の優男である。
彼は、禁止されていた魔石魔物湧かしの処罰として、罰金の金貨10枚を命じられていたが、彼はそれを支払えないでいたのだ。
しかも彼は、他のメンツの罰金も押し付けられる形となっていた。
支払えないパーティメンバー達は、強制労働を命じられていたのだが、それが逃亡をしてしまったのだ。
この領地の法律では、その時は残った者に罰金が加算されると言うのだ。
そして彼は、金貨110枚の罰金を背負う事となってしまい。その返却の為、アムさんに強制的に雇われる形となってしまったのだ。
だが、俺には有り難い話であった。
彼、優男のレプソルさんをとても貴重な後衛支援役として欲しかったのだ。
彼が居れば、複数の魔石魔物を相手にする時に、かなり楽になるのだ。彼の支援魔法の巧さは、前回の魔石魔物暴走の時に確認済みなのだ。
――そう、
レプソルさんは赤城の上位互換なのだ!
俺はレプソルさんに、指揮的なモノはまる投げするつもりだ。
戦い方や、参加者の人選などは自分でするつもりだが。戦闘時の指示などは彼に任せる事にしたのだ。
前衛アタッカーの俺が指示などを出すのは無理があり、後ろから支援として動いているレプソルさんが最適だと考えたのだ。まだ、それは話してはいないが‥
その後、俺は冒険者達の中から魔石魔物狩り希望の参加者を募る。
参加希望者は約100人以上。中には、参加してみたいが、様子見の冒険者も多い様子である。希望者の中からレベルの高い人順に12名を選び、深淵迷宮に向かう事にした。
ちょっと失敗であったのが、レベル順に選んだ為、前衛に偏ってしまったのであった。12人中10人がアタッカーであり、残り2人が後衛役で、回復1と攻撃1だったのだ。
ミズチさんがいるので、回復役は2名だが、やはり回復が薄い感じとなってしまっていた。
「ねぇ、じんないクン。回復足りるかなぁ?」
ミズチさんはそう言って、俺を上目遣いに覗き込んできた。
今日の彼女は、茶色の髪を頭の後ろで、虎バサミのような髪留めで髪を纏め。髪と同じ色をしている、ややタレ目気味なアーモンド形の瞳で俺を見つめてきたのだ。
可愛らしい愛嬌のある顔で見つめられると、ドキっとするものがある。
サリオと同じような、赤と黄色の意匠を凝らした白いローブに、下はキュロットスカート。いかにも正統派らしい服装も相まって余計にドキドキさせられる。
「ごめん、頑張って、」
俺はそれだけ言って、パーソナルスペースが異様に近い彼女から、俺は避けるようにして距離を取る。
――ちょっとドキドキした~!
同級生以外の女の人って、妙に緊張するな、
そんな挙動不審気味の俺に、今度はスペシオールさんが話し掛けてくる。
「‥‥今日も”重ね”を狙っていくか?」
「ああ、それでお願い」
スペシオールさんは、俺よりも頭二つ分近く背が高く、銀髪に灰色の瞳。本人はそのつもりは無いのだろうが、鋭い目つきをしているので、冷たく見下ろす感じで俺に、呟くような声で聞いてくるのだ。
きっと傍から見ると、カツアゲの現場に見えなくもないだろう。
俺が返事をすると『‥‥わかった‥』と呟き、前へ歩いて行った。
それから暫く歩き、深淵迷宮奥へと向かい、周りに他の冒険者が居ない所で、魔石魔物狩りを開始すべく、地面に魔石を一つ置く。
現在は総勢18人。今回は様子見なので、安全に魔石1個でスタートする。
慣れてくれば、置く魔石の数を増やし効率を上げていく予定である。
そして、魔石魔物が湧くまでの間、約1時間はかかるのでその間に、魔石魔物狩りの流れと戦闘方法の説明を開始した。
まず、今日は置く魔石の数は1個。多くても二つだけだと説明を行った。
これには当然の理由がある。魔石魔物狩りで事故が起きる要因は二つ。一つは複数の魔石魔物が同時に湧いた時。もう一つは、予期せぬ上位魔石魔物などが沸いた時である。
これは赤城が身をもって俺達に教えてくれた事だ。
あの時は、赤城の勇者同盟のメイン盾であったデイルさんを失うこととなったのだ。あれはとても分り易い教訓であった。
それなので、このパーティには、事故が起きる要因の二つを懇々と説明をしたのだが。
「それだと時間がかかり過ぎないか?」
「む?」
聞いて来たのは、レプソルさんであった。
トレードマークのつば広の赤い帽子をかぶり、帽子の色に合わせたような赤と黒のタバードを着込んだ彼は、金髪ロンゲで切れ長い目のチャラそうな印象ではあるが、至って真面目にな性格らしく。正面から俺に話し掛けてきたのだ。
彼は、魔石魔物が湧くまでの時間が惜しいと言ってきたのである。
確かに指摘の通り効率は悪い。湧くまでの1~2時間はかかるのだから。だが今回は効率よりも、まずは安全重視でいくと彼に説明を行い、何とか納得してもらった。
彼は、今回は、と言う所に納得をしてくれた様子であった。
どうやら彼は無駄な待ち時間が嫌いなようだ。
その後も、戦闘での細かい点を話し、”重ね”重視で行く方向で説明を終えた。
説明を終えた後、冒険者達は露骨に何か不満をぶつけて来る事は無かったが、やはり何処か面白くなさそうな表情だけはしていた。
「ジンナイ様、色々と大変そうですねです」
「サリオ‥、そう思うなら面倒ごと起すなよ?」
「あたしは面倒ごとなど、一度も起こしてないのです」
「なら、何故目を逸らして答える、」
――まぁ、俺みたいな戦犯で若造が仕切っているんだもんな、
不満を感じるのは仕方ないか、でも
俺の方が魔石魔物狩りに関しては経験を積んでいるはずだ!
それから暫くすると、地面に置いていた魔石が激しく揺れ始める。
「来るぞ!戦闘準備を」
「スペシオールさん、わたしが初手行きますので」
「‥‥ああ、合図くれ、”重ね”でいく‥」
「レプソルさん強化は私がかけるので、束縛系をお願いね!」
「狼型なら即縛る、トカゲだったら重力系だな」
「あたしは‥、見学ですねです、」
そして魔石から魔石魔物が湧く。
魔石を触媒に湧いたのは、ボーナス魔物と言われている芋虫系クロウラーであった。
ラティは、弱いと言われているクロウラー相手でも手加減などする事なく、神速で斬り込んでいき、そしてスペシオールさんと打ち合わせしていた合図を送る。
「行きます!」
「‥‥おう」
クロウラーの側面にラティのWSが刻み込まれ、ラティを追うように駆けてきたスペシオールさんが、袈裟切りの軌道をしたWSを重ねるように叩き込んだ。
そして、全長4㍍近い巨大な芋虫が気前良く切断され、爆散するように黒い霧となって散っていったのだ。
戦闘開始からぼほ5秒。
それを見ていた他のアタッカー11名は、ポカーンとし呆けていた。
だが次第に、今の戦闘の凄さを理解し始めたのか、体を震わせ雄叫びをあげるように声を上げ始める。
「すっげぇぇぇ!、噂には聞いていたが、マジかよコレ!?」
「魔石魔物を真っ二つって‥」
「なあ、おい!コレって俺でも出来るようになるのかよ?なぁ」
「前の魔石魔物暴走でも見て、何かの間違いかと思ったけど、マジかぁ、」
「おい!やりかたあるのか?大剣用意しないとダメなのか?」
「おめぇの片手剣には未来はねぇよ!さっさと変えろ」
「んだとぅ?」
中央の地下迷宮でもそうであったが。ノトスの深淵迷宮でも”重ね”は冒険者達の注目の的であった。
無口で口下手なスペシオールさんが囲まれて、少々困惑気味である。
「すごいぇ、スペシオールさん凄い人気だね」
「いやミズチさん、あれは”重ね”が人気なんでしょ、」
「確かに”重ね”は凄いよね。でも後衛の私には興味な~しってね」
「少しは持ちましょうよ‥」
年上のお姉さんであるミズチさんが話し掛けてきた。
少し気楽そうにしているのは、この流れなら回復不足で心配する必要が無いと思ったからであろう。この火力なら、回復魔法に頼るような戦いをすることが無いのだから。
回復が追いつかずに誰かが死ぬ事が無いのだろうから‥
その後、再び魔石を置いて魔石魔物が湧くのを待つ事にする。
魔石を一個置いた時に、冒険者からはもっと置こうという声が上がったが、俺はそれを却下した。こう言う感じに気が緩んでいる時に複数置くと、絶対に後悔すると思ったからである。
――絶対に、調子に乗って複数魔石置いたら上位魔石魔物湧くだろうなぁ、
複数置くと、上位が沸きやすい気もするし‥
俺は自分の中で調子に乗らないようにと戒めつつ、次の魔石魔物を待つ。
しかし、この待ち時間の間‥
「つか、アイツがなんで仕切ってんだよ、」
「知らねえよ、誰か知ってる奴いないか?」
「ん?アイツが瞬迅と焔斧の主だからだろ?」
「はぁ?マジかよ」
「お前この前の魔石魔物暴走の時いなかったのか」
「いたよ!」
あまり聞きたく無い会話が聞こえて来る。
そしてその会話は、次の魔石魔物を倒した後も続いた。
「おいおい、俺達に戦わせてアイツ何もしてね~じゃん、」
「俺達に慣らさせる為だってよ、偉そう、」
「ホントは弱いから戦いたくねぇんじゃないか?」
「おい、ちょっと誰か確かめて来いよ」
「はぁ?どーやってだよ」
「喧嘩でもふっかけて来いよ」
魔石魔物戦に慣れさせる為に、次の魔物はラティには迅盾役に徹してもらったのだが。何もしていない俺に対しては不満が積った様子であった。
――はぁ~、めんどくせ~、
なんで俺こんな事引き受けたんだろ、
って、下層に行けるようになる為か‥
早くも魔石魔物2戦目でイヤになってきた。
今までも大人数のパーティに魔石魔物狩りを教えるような事はあったが、その時は勇者達がいたのだった。
勇者が仕切っているというモノがあれば、冒険者達は無条件で納得していたのだ。だが、今回は違う。
今回は俺、現在では戦犯野郎が仕切っている形になっているのだ。
俺はうんざりしながらため息をついていると。
「ジンナイ、苦労しているみたいだね、」
「レプソルさん、」
「冒険者の相手って面倒だよな、まず相手に認めさせないといけないからな」
「そうなんですよね、って?」
「オレは認めているよ、あの時の一番最初に声を出したのはジンナイだし、最後の特攻作戦もジンナイだよな?他の奴等は勘違いしているみたいだけど」
――おいぃぃ!
ちょっと!それなら誤解を解いてくれよ!頼むよ、
「だけど、オレがそれを言って誤解を解くようなマネをすると、変に拗れるだろうし。それに、誰かにそんなフォローをして貰うのはジンナイのプライドが許さないだろ?」
「お、おう‥わかっているじゃないか‥」
――いや、別に言ってもいいのよ?
そんなプライドとか、そんなかっこよくないからね俺、
「一番いいのは、ジンナイが強さを見せ付ければいいんだろうけどね」
「‥‥‥」
多分、それが一番手っ取り早いのだろう。認めさせるのには‥
だが、WSが撃てない俺には、槍で貫く程度しか出来ない。スペシオールさんがやってみせた、”重ね”のような派手で分り易い強さを示せれないのだ。
「はぁ、WSが欲しい‥」
魔石魔物狩りは、魔物で困るのではなく。別の問題で苦戦が始まるのであった。
読んで頂きありがとう御座います。
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